同床異夢の日米関税交渉は破談にして新政権が仕切り直せ
アメリカの関税率を8月1日から15%にするという日米交渉は、合意文書もない口約束で、日本側とアメリカ側の説明が大きく食い違っている。関税をかけるのはアメリカなので、税率を決めるのはアメリカ側の解釈である。ラトニック商務長官の説明はこうだ。
「日本が80兆円投資して、その利益の9割がアメリカに行く」の件、
『80兆円は日本の民間企業が出すから問題ない!』
とXで騒がれてるらしいんですが、ラトニック商務長官が言うにはどうも違うらしいpic.twitter.com/Hj2WhsBN3o
— SOU⚡️仮想通貨 / ビットコイン (@SOU_BTC) July 25, 2025
FOXニュース
日本政府がアメリカの指示で投資する?
これはホワイトハウスのホームページに書かれた「ファクトシート」の記述とも一致する。
日本はアメリカの指示で、アメリカの中核産業の再建と拡大のため、5500億ドルを投資する。トランプ大統領の指示により、これらの資金は、以下の分野を含む米国の戦略的産業基盤の活性化にあてられる:
- エネルギーインフラと生産(LNG、先進燃料、送電網の近代化を含む)。
- 半導体製造と研究(設計から製造までの米国の生産能力の再構築)
- 重要鉱物の採掘、加工、精製(必須原材料へのアクセス確保)
- 医薬品・医療機器の生産(外国製医薬品・医療用品への依存からの脱却)
- 商船・防衛造船(新造船所の建設と既存施設の近代化を含む)。
米国はこの投資による利益の90%を得る。本協定の一環として、日本からの輸入品には15%の基本関税率が課される。
- 日本はトウモロコシ、大豆、肥料、バイオエタノール、持続可能な航空燃料など、80億ドル相当のアメリカ製品を購入する。
- 日米はアラスカ産液化天然ガス(LNG)の新たなオフテイク協定の締結を検討する。
- 日本はボーイング社製航空機100機の購入を含む米国製民間航空機の購入を約束した。
「5500億ドルの対米投資」とは何か
これまで日米貿易協定は何度も結ばれたが、日本政府が対米投資を約束するのは初めてである。これは「貿易赤字を減らす」というトランプの目的とは矛盾する。日本からの投資は経常収支の赤字になるからだ。
「日本が投資する」の意味も不明だ。”Japan will invest $550 billion directed by the United States”の主語はJapanだが、これは日本政府なのか日本企業なのか。
これについてラトニックはFOXの動画で「トヨタがアメリカ工場をつくるような民間投資の話ではない」と明言している。つまりその財源は日本政府ということだが、政府が他国に80兆円も投資する制度はない(ODAは年間3兆円)。
考えられるのは国際協力銀行(JBIC)などが対米融資枠を設定することだが、JBICの予算は2.4兆円。他の国際機関を合わせても、アメリカのような先進国に融資する制度はない。
「投資利益の90%をアメリカが取る」というのは、実質的な投資資金の90%をアメリカ企業が負担するとも読めるが、これは「対米投資」ではなくアメリカの国内投資なので、邦銀がアメリカ企業に融資する話かもしれない。
トランプの妄想は破談にするしかない
しかしいくらJBICが融資枠を保証しても、投資リターンの9割をアメリカ企業が取る投資プロジェクトに融資する邦銀はない。日本政府が直接出資するしかないが、ラトニックのいう「1年分の税収を上回る財政資金」を出すには、国債を80兆円増発するしかない。
たとえば外為特別会計から80兆円出し、国債を全額日銀が引き受ければ可能だが、それによって国債の発行額は5倍になり、国債は暴落し、1ドル180円以上の円安になるだろう。
これは結果的には、25%の関税を帳消しにするので、もし政治的に可能であればやってみる手もあるが、生保や銀行の保有国債が暴落して金融危機が起こり、日本経済は崩壊するだろう。
いずれにしてもこれは実行不可能なトランプの妄想であり、交渉は破談にすべきだ。数字はアバウトで手続きを詰めた形跡もないので、死に体の石破政権の約束は反故にし、新政権で交渉をやりなおすべきだ。