岸田文雄前首相襲撃、木村隆二被告に懲役10年判決 「未必的な殺意」認定

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岸田文雄前首相の演説会場に爆発物が投げ込まれた事件で、殺人未遂などの罪に問われた木村隆二被告(25)の裁判員裁判の判決が19日、和歌山地裁であった。福島恵子裁判長は「未必的な殺意をもって爆発物を使用し、選挙活動を著しく妨害した」として起訴された5つの罪全てを有罪と判断。懲役10年(求刑懲役15年)を言い渡した。

2月4日の初公判以降、全4回の審理では、爆発物の殺傷能力や被告の認識、量刑が主に争われた。

福島裁判長は判決理由で、検察側が示した再現実験の結果をもとに「爆発物の飛散物は殺傷能力があるとされる基準値を超えていた」と認定。爆発物の破片が約60メートル離れたコンテナにめり込んでいたことなどから「金属片が相当離れた場所まで殺傷能力を維持したまま飛散する威力、性能を有していた」と指摘した。

危険性の認識を巡り、被告側は事件前に自宅そばの山林で実施した爆発物の実験結果から「危険はないと思っていた」と主張。殺人未遂罪に加え、爆発物取締罰則違反罪についても「人を害する目的はなかった」などとして起訴内容を否認した。

これに対し、福島裁判長は被告が自ら情報を集めて爆発物を製造し、仕組みを理解していたと指摘。「(危険性の)認識を欠いていたとは到底考えられない」として被告側の主張を退けた。

その上で、選挙の演説会場で多数の聴衆がいた状況から、頭部などに命中すれば人を死亡させる可能性が高いことは常識的に分かるとし、被告はそうした認識のもとにあえて爆発物を製造、使用、所持したと認定。誰かが死亡しても構わないという「未必的な殺意をもって爆発物を使用した」と結論付けた。

判決は量刑理由で事件を起こした動機にも言及した。被告は選挙制度への不満から国に賠償請求訴訟を起こし、SNSで主張や活動を発信するなどしたが反響がなかったことから「世間の注目を集める手段として、あえて要人である総理大臣を狙った」との見方を示し、「社会全体に与えた不安感も大きい」と述べた。

標的とする相手や周囲を危険にさらすと分かりながら計画的に犯行に及んだとして「極めて短絡的で強い非難に値する。民主主義の根幹をなす選挙活動を著しく妨害した点も軽視できない」と指弾した。

一方で、けが人が軽傷で組織的背景もなかったことなどから、爆発物使用事件の中で「特に重い範囲に位置付けるべき事案とまではいえない」と指摘。若くて前科がなく反省し、母親が更生を支援しようとしていることなどを情状面で考慮し、懲役10年を選択した。

和歌山地検の花輪一義次席検事は「検察官の主張、立証に対し、健全な社会常識を持って総合評価していただいたと考えている」とのコメントを出した。

判決によると、事件は2023年4月15日、和歌山市の雑賀崎漁港で発生した。被告は衆院補欠選挙の応援演説に訪れていた岸田氏らに向かって自作の爆発物を投てき。爆発させて選挙の自由を妨害し、同氏らを殺害しようとした。

新潟青陵大の碓井真史教授(社会心理学)の話 大胆な犯行と裏腹に、被告には壮大な理念や過激思想といった背景はなかった。判決が「意思決定は極めて短絡的」と指摘したように、公判で語った言葉からは具体的に社会にどういった変化を起こしたかったのかが最後まで見えないままだった。

むしろ垣間見えたのは、大学を中退した被告が短期アルバイトをして過ごす生活の中で漠然と抱いていた「何者でもない自分に納得できない」という現状への不満や不安だ。自身の存在意義を見いだせずに苦悩する若者は多く、社会的孤立にもつながりかねない。

被告は自身の主張に同調する仲間と活動した様子もなく、SNSの投稿も閲覧されなかった。疎外感は視野を狭め、今回の事件のように極端な行動に走るリスクを高める。社会や身近な人たちがつながりを保ちながら、共感し合える関係を形成していくための取り組みが必要だ。

岸田文雄前首相の襲撃事件の判決言い渡し後、裁判員らが19日、和歌山地裁で記者会見し「世間の注目度が高い裁判で、重い責任を感じた」などと語った。

自営業の50代男性は、裁判員に選ばれるまで事件を「テロ行為」と感じていたが、審理が進むなかで被告の生い立ちなど背景を知り、考え方が変わったという。罪の数が多く量刑に悩んだものの「自分の中では良い着地点になった」と振り返った。

30代の男性会社員は「世間に衝撃を与えたニュースだった」とした一方、法廷で目にした木村隆二被告は「か弱そうで、本当に事件を起こしたのかと思った」。量刑に関し「似た事例が過去にあまりなく、難しかった」と述べた。

「被告の将来について考えた」と語ったのは、60代女性。評議の末に導き出した判決が被害の程度や被告の社会復帰の可能性を考慮した内容となり、「重い罪だが、償った後に社会復帰できることを願う」と話した。

会見には裁判員を務めた男女4人のほかに補充裁判員1人が参加した。

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