メキシコ湾の表記変更をめぐり、メキシコ対Googleのバトル勃発
国立ハリケーンセンターも「メキシコ湾」って呼んでる(トップ画像参照)…。
トランプ大統領が「メキシコ湾(Gulf of Mexico)」の名称を「アメリカ湾(Gulf of America)」に変更する大統領令に署名したのを受けて、この海域がアメリカの隣国であるメキシコやキューバの領海とも接しているとして「アメリカが単独で決めることじゃない!」という声がネットでも飛び交いました。
メキシコがGoogleを訴える可能性
そんな中、メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領は、もしアメリカの領海外の水域に「メキシコ湾」の名称を復活させない場合、Googleを提訴すると警告しています。
現在、Googleマップでは、どこからアクセスするかで表示される湾の名前が変わる仕様になっています。アメリカ国内からだと「アメリカ湾(Gulf of America)」、メキシコからでは「メキシコ湾(Gulf of Mexico)」、その他の国からは両方が併記されるカオスな状態。
強気なメキシコ大統領、弱気なビッグテック
シェインバウム大統領は、国連海洋法条約(United Nations Convention on the Law of the Sea)では、各国の主権が及ぶのは海岸線から12海里(約22km)までと定められているため、「アメリカ湾」という名称はこの範囲内に限定されるべきであり、それ以外の地域では「メキシコ湾」と表示すべきと主張しています。
ただ、そもそもトランプ大統領がアメリカを国際機関から脱退させたため、シェインバウム大統領の主張はおそらく聞き入れられないと思われます。
シェインバウム大統領の主張に対し、Googleは次のようにコメントしています。
「(今回の名称変更は)当社の通常の運用手順に基づくものです。各国の権威ある政府機関から提供される地理的名称を反映するルールになっており、異なる政府機関の間で見解が異なる場合にも適用されます」
つまり、「うちは政府の決定に従ってるだけですよ」というスタンスってわけです。
また、Googleはアラスカ州の多くの住民が反対したにもかかわらず、「デナリ山(Mount Denali)」を「マッキンリー山(Mount McKinley)」に改名する要望にも応じました。ただ、この山はアメリカ連邦政府の管理下にあるため、トランプ大統領の意向がそのまま反映されたという背景があります。
Googleは、領土をめぐる問題に対して長年うまく対応してきました。たとえば、インド北西部のカシミール地方は、インド、パキスタン、中国が長年領有権を争っている地域ですが、Googleマップでは各国のユーザーごとに異なる境界線が表示される仕組みになっています。
となると、カナダもアメリカと領海が重なる水域を「カナダ湾(Gulf of Canada)」に変更するようGoogleに要求してみるのもアリかもしれません。トランプ大統領がどう反応するのか、興味深いところです。
APは正論を貫いて記者会見を出禁に
トランプ政権は、「アメリカ湾」という名称を定着させるために、ちょっと強引な手段にも出ています。その極みが、AP通信が「メキシコ湾」の名称を使い続けていることを理由に、記者会見や大統領専用機から締め出したこと。
AP通信は、国際的な通信社として、世界中がそう呼ぶようになれば「メキシコ湾」を使用するという立場を明確に表明しています。
名称変更の陰に根深い問題が?
今回の名称変更は、単なる地図の問題ではなく、もっと根深い話です。トランプ大統領にとって、これは忠実な者と従わない者を見極める踏み絵のようなものでもあるんです。忠誠を誓わない者は排除する。そんなリトマス紙の役割を果たしています。
また、トランプ大統領は単に権力を誇示し、混乱を引き起こすこと自体を楽しんでいる可能性もありそうです。
Googleマップの表記がどうなるかなんて、それほど大きな問題には思えないかもしれません。でも、本当に重要なのは、「誰が権力に屈するのか」を試す手段として使われた点にあります。実際、これまでもGoogleやMetaのような大手テック企業は、トランプ大統領の機嫌を損ねないよう、あらゆる手段を使って迎合してきました。
しかし、今回の件でメキシコのシェインバウム大統領がそうした権力の濫用をただ傍観するのではなく、明確に抵抗する姿勢を示しているのは、たとえこの訴えが変化をもたらさずに終わったとしても、少なくとも心強いことといえそうです。
Reference: National Hurricane Center