よみがえる岸田氏の警句、中国の好機到来

ロシアとウクライナの戦争を巡りトランプ米政権がまとめた28項目の「和平案」から、中国が教訓を引き出そうとしている。米国が合意の実現に向けてどこまで踏み込むのか、そして、それがロシアへの譲歩を意味するのかを注視している。

  中国共産党の習近平総書記(国家主席)はこの機会を利用し、かねてから掲げてきた台湾を支配下に置く目標をさらに明確にしている。米国が一段と曖昧なシグナルを発する一方、習氏の意図はますますはっきりしており、台湾は危険な立場に置かれている。

  台湾の行方が、ロシアのウクライナ侵攻と結び付けられた例は過去にもある。2022年に岸田文雄首相(当時)は「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と語った。  

  同様の見方を示すのは、オーストラリア軍の退役少将ミック・ライアン軍事ストラテジストで、中国がこの局面を利用して独自の構想を提示する可能性があると警鐘を鳴らす。

  ライアン氏は習氏について、これまで軍事行動を伴わずに台湾を掌握することを好んできたと指摘した上で、「近い将来から中期にかけて、中国共産党がトランプ政権に対し、台湾を巡る28項目の計画を秘密裏または公に提示する可能性がある」と見方を示している。

  その戦略はすでに中国政府が22年に公表した白書台湾問題と新時代の中国統一事業」で明示されている。同白書は、台湾は歴史的に中国の一部だとし、国際社会の関与を拒み、統一は国家復興に不可欠だとしている。中国は目標達成のために武力行使も辞さない姿勢を示している。

  中国政府は先月、ニュージーランド海軍最大の艦艇が台湾海峡を通過したことを受け、台湾海峡で「波風を立てるな」と警告した。この強い反応はニュージーランドだけでなく、この問題に関与しようとする台湾を支持する全ての国に向けられたものだ。

  これはより広範な外交攻勢の一環だ。トランプ氏と習氏は11月24日に1時間の電話会談を行い、貿易問題に加え、高市早苗首相による台湾に絡む発言をきっかけに高まった日中間の緊張について協議した。

  トランプ氏は会談後の声明で台湾について一切触れなかったが、中国外務省は習氏の台湾に関する発言を強調し、台湾の中国「復帰」は戦後国際秩序の不可欠な一部だと習氏が述べたと説明した。

  この表現は意図的だ。習氏は自身を第2次世界大戦後に構築された国際秩序の擁護者として位置付け、台湾、さらには台湾を支持するあらゆる国を不安定化要因として描こうとしている。

  これを受け、台湾は400億ドル(約6兆2100億円)を追加で投じる防衛支出計画を発表した。頼清徳総統は、資金は米国からの新たな兵器調達や、中国との「非対称」な戦力の強化に充てると表明した。

  これには、有事の際、米軍が台湾に到着するまで中国人民解放軍に多大な損害を与えることを想定した小型で比較的安価な兵器も含まれる可能性がある。台湾が発したこのメッセージは、北京と同時にワシントンにも向けられている。

  頼氏が不安を抱くのも無理はない。同僚のコラムニスト、ハル・ブランズ氏が論じるように、台湾の安全保障にとって今後数カ月が極めて重要になる可能性がある。トランプ氏が中国との関係改善に関心を向けているように見える一方、習氏は統一を巡る発言で一段と強気の姿勢を示している。

地域安保の中心

  台湾は世界経済の重要な柱であり、最先端半導体の約90%を製造している。深刻な中台衝突が起これば、スマートフォンや自動車、人工知能(AI)向けデータセンターなどあらゆるサプライチェーンに大きな穴が開くことになる。

  米政府はこの脅威について幻想を一切抱いていない。超党派の議会諮問機関、米中経済安全保障調査委員会(USCC)の最新報告書は、台湾侵攻能力を中国が高めており、ほとんど前触れなく海上封鎖や攻撃を開始し得ると分析している。

  報告書は中国政府の発信内容が相手によって変わる点にも言及。英語では緊張を和らげる一方、国内向けには台湾が「挑発」しているとして、行動を正当化しようとする傾向が強まっている。人民解放軍は現代化を着実に進め、米軍との戦力格差を縮めている。

  頼氏の防衛計画は理にかなっているが、野党側が多数派を握る立法院(国会)で審議が停滞する恐れもある。台湾はドローン(無人機)やミサイル、機動発射装置、耐性ある指揮系統への資金拠出を進めるべきだ。また民間防衛訓練や中国の影響力工作への対抗策も一層の強化が求められる。

  日本や豪州、韓国、フィリピンといった米国のアジア同盟国も、協力を深め、台湾防衛を地域安全保障の中心に据える必要がある。台湾海峡での航行継続は、中国を刺激するリスクがあるものの、国際法の重要性を改めて示す上で大きな意義がある。

  トランプ大統領のウクライナ和平案は、台湾周辺で起きている事態から遠いものに思えるかもしれない。だが、中国政府はこれこそ好機だと見ている。

(カリシュマ・ヴァスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心にアジア政治を担当しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材していました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)   

原題:Ukraine Plan Has Emboldened China on Taiwan: Karishma Vaswani(抜粋)

関連記事: