ステーキなどの調理で「焼いた肉を休ませる」ことに一体どんな意味があるのか科学的に解説

サイエンス

ステーキなどの肉料理を作る際には、焼いた肉をすぐに切らないで一定時間置いておく「肉を休ませる」という工程が登場するケースがあります。一般には「肉汁が逃げないようにするため」「余熱で火を通すため」といった目的があるとされていますが、近年は肉を休ませる必要性について議論が巻き起こっているとのこと。そこで、料理系ウェブマガジンのSerious Eatsでライターを務めるダニエル・グリッツァー氏が、肉を休ませることの影響について科学的な目線から解説しています。

This Major Rule About Cooking Meat Turns out to Be Wrong

https://www.seriouseats.com/meat-resting-science-11776272

シェフや経験豊富な料理研究者らは長年にわたり、ステーキなどの調理を行う際に「肉を休ませる」ことを推奨してきました。グリッツァー氏によると、肉を休ませることを支持する人の多くは「肉を休ませることで筋繊維がリラックスし、調理中に中心部へ押し出された肉汁が再吸収されるため、肉を切った時に肉汁がこぼれてしまわない」と主張しているとのこと。

実際に、フライパンやオーブンから取り出してすぐに肉を切った場合と肉を休ませた場合では、肉汁のこぼれ方が異なることがわかっています。Serious Eatsの名誉料理長兼食品科学の専門家であるケンジ氏は2009年に公開された記事で、肉を休ませた場合とそうでない場合で肉汁のこぼれ方を比較しました。

以下の写真は、ステーキ肉の中心部が54℃になるまで焼き、異なる休み時間を空けてから切って肉汁を比べたもの。休み時間は左上から「0分」「2分30秒」「5分」「7分30秒」「10分」「12分30秒」となっており、確かに休み時間を設けた方が肉汁の出る量が減っていることがわかります。

しかし、2013年にバーベキュー関連メディアのAmazingRibs.comに掲載された記事では、肉を休ませることは得策ではないという主張が展開されました。記事の主張は「ジューシーさの感じ方は極めて複雑で、水分の損失率や保持率といった単一の要素に還元できるものではない」「こぼれた肉汁はそのまま無駄になるのではなく、肉を食べながら吸わせることで回収できる」「肉を休ませる工程を挟むことでカリッと焼けた外側が蒸れ、食感が損なわれてしまう」といったものです。 さらに、シェフでもあり食品科学者でもあるクリス・ヤング氏は2024年に公開した動画で、肉の内部温度を測定できる中心温度計を用いた比較実験を行いました。

Proof Resting Doesn't Keep Meat Juicy - YouTube

ヤング氏は動画の中で、焼いた直後のステーキ肉と焼いてから休ませたステーキ肉を一定の内部温度に達した時点でカットし、肉汁の損失を測定しました。その結果、内部温度が同じであれば肉を休ませても休ませなくても、肉汁の損失は同程度であることが示されました。つまり、肉を休ませることに「肉汁を再吸収させる」という効果はないというわけです。

一見すると、この結果はケンジ氏が行った実験と相反するように思われますが、これには実験の方法が関わっているとのこと。ケンジ氏の実験ではすべてのステーキ肉を同じ内部温度まで加熱した後、異なる時間を置いて休ませていました。この場合、肉の内部ではより熱い外側から内側に向かって熱が流れ込み、肉を休ませている間に中心部が加熱されていく一方、肉全体の温度は次第に冷えていくという状態になります。 ヤング氏は、肉を休ませると肉汁の損失が抑えられるように見える理由について、肉をカットした時点の「肉の内部温度」が関連していると主張しています。肉の温度が高いほど、内部の水分が持つ蒸気圧が高くなり、切った瞬間に蒸気圧で肉汁があふれやすくなります。一方、肉の温度が冷えると蒸気圧も小さくなり、切った時に肉汁があふれ出にくくなるとのこと。 つまり、肉を休ませることで肉汁があふれ出にくくなるのは肉汁が筋繊維に再吸収されるからではなく、肉全体が冷えて水分の蒸気圧が減ったからだというわけです。この説明に基づくと、最終的な内部温度を一定にしたヤング氏の実験で、肉を休ませた場合とそうでない場合で肉汁のあふれ具合が変わらなかったことも納得できます。

実際にグリッツァー氏は、「内部温度が60℃になったタイミングですぐにカットしたステーキ肉」と「焼いた後に休ませて内部温度が60℃になるまで余熱調理してカットしたステーキ肉」を用意し、4人のテスターにどちらの方がジューシーかを判断させるブラインドテストを行いました。その結果、テスターは30回の試食ラウンドでほぼ半分の16回しか、「休ませた方の肉がジューシーだ」と判断できませんでした。つまり、提供温度や塩加減といった要因を調整すると、肉を休ませても食べる側が感じるジューシーさにほとんど変わりはないといえます。 その一方で、実際に肉を切ったグリッツァー氏は「すぐに切った方の肉は火が通りすぎている」と感じ、休ませた方の肉は熱が均一に通っていると感じたと報告しています。つまり、肉を休ませて余熱でじっくり火を通すことにより、肉の内部温度を安定的に管理できるというメリットはあると考えられます。 グリッツァー氏は、「肉をフライパンやオーブンから早めに取り出して休ませることはいいアイデアです。ただし、それは余熱調理で目標の内部温度に達するまでの時間を確保するためであり、その温度を注意深く追跡する必要があります」と述べました。

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