「動かない おじいさんにトドメ〜」 timelesz篠塚大輝の《不謹慎ギャグ》炎上の“戦犯”は誰なのか? “オーディションコンテンツ発アイドル”に感じた危うさ

 ギャグを披露した瞬間、スタジオに微妙な空気が流れ、慌てて伊藤利尋アナが篠塚さんを抱きかかえ「これで終わらせていいのか〜!?」と絶叫。「笑いに変えてフォローしよう」という姿勢を見せたものの、ネット上には笑いどころか批判の声が集まってしまいました。  批判の内容は「不適切」「笑えない」「本気で不快」「ふつーに放送事故」「朝の情報番組ではあかん」「全国の高齢者に対して失礼」「謝罪しろ」など。なかには「オーディションのときから応援していた」というファンが落胆したようなコメントも少なくありませんでした。

 ギャグでありながら笑えなかったこと以上に、「問題がなかった」とは言えないレベルの内容だったことは間違いないでしょう。  では、どんなところが不適切で、スベったこと以上の問題があったのか。それを突き詰めていくと今回の件は第一印象以上の深刻さがあり、ひいては「アイドルオーディションコンテンツ」の危うさが浮かび上がってきます。  まず篠塚さんのギャグのどんなところが不適切とみなされたのか。  若者が高齢者に暴力をふるうようなフレーズと手の動き、さらにそれを笑いながら行ったことも含め、朝の情報番組では受け入れられづらいものでした。

 情報番組では毎日さまざまな事件や事故などを扱い、逆境下の人々や被害者も報じているだけに、暴力や死を連想させるような内容は避けなければいけません。  また、1日のスタートである朝は気持ちよくすごしたい人が多いだけに、不快な気持ちにさせてしまうコメントや動作は避けるのがセオリー。これらは芸能界における基本だけに、マネジメント側や制作サイドがそれを教えていなかったことが露呈されました。 ■アイドルの自覚とスポンサーへの配慮が欠如


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 今回の一発ギャグは篠塚さんの自作であることが、放送前の番組のSNSで予告されていましたが、本当に自分で考えたものなのか。それともマネジメント側や制作サイドからすすめられたものだったのか。事前の内容チェックはなかったのか。これらはわかりませんが、発言が注目を集めるタレントである以上、本人に一定の責任があることは間違いありません。  特に篠塚さんは応援してくれる人がいて成立するアイドルであり、人を笑顔にする職業。他の職業以上に誰かを傷つけることに注意を払うべき立場でしょう。さらにアイドルは「ファンは何を望んでいるのか」を察知するなど、常に相手の立場から物事を考えることが求められています。

 その点、今回のギャグは「これを言うと傷つく人がいる」「自分もいずれはおじいさんになる」などの想像力が欠けていた感は否めないでしょう。  もう1つ重要なのは、timeleszが多くのCMに出演しており、なかにはAOKIなど男性がメインターゲットの企業も含まれていること。  それ以外でも「タイムレスマン」(フジテレビ系)、「timeleszファミリア」(日本テレビ系)、「timeleszの時間ですよ」(TBS系)の冠番組、あるいは現在timeleszが主題歌を担当しているドラマ「パパと親父のウチご飯」(テレビ朝日系)と「ひと夏の共犯者」(テレビ東京系)のCMスポンサーも同様。

 スポンサーの顧客となる人々を怒らせてしまうような発言は避けるべきでしょう。  ただ、今回のギャグはそれらと同等以上に、タレントとしての重大な問題点がありました。  18日朝、篠塚さんの一発ギャグを見た瞬間、「あれ?  どこかで見たことがある気が……」と感じました。  すると案の定、芸人の鼻矢印永井さんの持ちネタであることが報じられ、本人もXに「ギャグパクられた上にめっちゃ炎上してる!!」とコメント。  トラブルに発展すると思いきや、鼻矢印永井さんは怒りを見せず、「こんな機会なので急遽今回のギャグ以外でオススメの一発ギャグ動画を撮りました! ギャグ選びにお困りの方向け! 無茶振りされた時のオススメギャグ10連発!!」とビジネスチャンスにつなげようとしたため、篠塚さんは救われた形になりました。


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 しかし、「本人に怒られなかったからいい」という結果オーライで済ませられる行為ではありません。芸人にとってギャグは生きていくための重要な商売道具。  特に鼻矢印永井さんはまだ知名度が低く、ギャグが知られていないだけに、それを全国放送で無断使用し、しかも「自作」として披露したうえに、「つまらない」というレッテルを貼られたのですから、著作権侵害に準ずるレベルの行為ではないでしょうか。 ■新人のキャパを超えるマネジメント

 ただ現在23歳の篠塚さんはオーディション「timelesz project -AUDITION-(通称「タイプロ」)」を受けるまで普通の大学生で、歌もダンスも未経験。新メンバー5人が加わったtimeleszの中でも唯一の未経験者であり、最年少でもあるなど、まだ「多くのことを学んでいく」という段階であるのは間違いありません。  そのため今回の騒動では篠塚さんを責める声ばかりだけでなく、「一発ギャグをやらせるほうが悪い」というものも散見されます。

 その多くは「めざましテレビ」の制作サイドに対するものであり、「生放送だから事前に内容をチェックしていたはず」「『自作ギャグ』と事前予告していたのだから内容を知っていたのでは」というものでした。  そのような疑いが浮上する以上、制作サイドにも一定の責任があることは確かでしょう。  しかし、それ以上に問題視されてしかるべきはマネジメント側のスタンス。篠塚さんの正式な芸能界デビューは今年2月で、まだ芸歴9カ月であるにもかかわらず、仕事の質量ともにキャパシティを超えている印象があります。

 アイドルとして最重要な歌とダンスに誰よりも打ち込まなければいけない立場であるうえに、バラエティや情報番組などにも出演。しかも朝でトップクラスの人気を誇る情報番組の生放送はさすがに背負わせるリスクが大きすぎるように見えます。 ■「新人だから許せ」は通用しない時代  芸能人の言動に厳しい視線が注がれる近年では、「新人だからうまくいかなくて当然。失敗しても許される」というマネジメントは通用しなくなりました。


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 主にファンが見る音楽番組の歌やダンスなら失敗しても許されますが、不特定多数の人々が見るバラエティや情報番組での発言にはシビアな視線が注がれるため、特に新人はマネジメント側が守るという意識が求められています。  事実、篠塚さんは18日の放送が「めざましテレビ」の出演3回目でしたが、笑顔より真顔が目立つなど表情が硬く、過度に緊張している様子がうかがえました。  だからなのか、一発ギャグを振られたときも、あえて「やってんな〜、マジでめざまし」と悪態をつくようなしゃべり方を選択。明らかにTPOを間違えてしまうなど、一発ギャグ以外のシーンでも危うさを見せていました。

 それでも篠塚さんなりに頑張ろうとしていたことは間違いなく、空回りしてしまったのでしょう。そんな姿を見ていて、「歌やダンスなどで忙しいのか、番組出演のレクチャーやトレーニングはあまり受けていないのかな」と感じられました。つまり、メディアに出るための教育や訓練が間に合っていないのではないでしょうか。  そんな新人が失敗しやすいことの背景にあるのが、2020年代に入ってさまざまな男女グループを生み出したオーディションコンテンツの危うさ。

 「参加者が人生をかけて懸命に挑み、選ぶ側も全力で向き合っていく」というエモーショナルな過程を公開することで、エンターテインメントとしての醍醐味に加えて、親近感や愛着が右肩上がりで増していく。  「オーディションを稼げるコンテンツにし、デビュー前から多くのファンを獲得している」というビジネスモデルは理にかなったものであることは間違いありません。  しかし、その一方で「鉄は熱いうちに打て」とばかりにデビュー直後からのスケジュールがギリギリまで詰め込まれているという印象があります。

 実際、timeleszは、2月にシングル「Rock this Party」とコンピレーションアルバム「Hello!  We're timelesz」、6月にアルバム「FAM」、11月にシングル「Steal The Show / レシピ」とコンピレーションアルバム「HANABI 〜in the late summer night」をリリース。  6〜8月には8都市24公演のアリーナツアー、9月には千葉と大阪で大規模なファンミーティングを開催。


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 さらに、前述した冠番組を筆頭にバラエティや情報番組への出演。なかでも篠塚さんは一橋大学在学中であることからクイズ番組への出演が増えていますし、その他でもラジオ、CM、雑誌、ウェブなど数多くのメディアに出演してきました。 ■オーディションコンテンツとSTARTO社の相性  ほんの数カ月前まで一般人だった篠塚さんは、今年最も人生が激変し、心身の忙しさを極めた芸能人だったのかもしれません。懸命に挑んだオーディションが終わってから、ひと息つく時間すら与えられず、「見るものすべてが新しい景色」という状態で日々を過ごしているのではないでしょうか。

 しかし、篠塚さんはジュニアとしての下積み経験がないことから、主に他グループのファンなどから「素人丸出し」「ダンスがヘタ」「空気が読めない」「ゴリ押し」などの厳しい声を浴びるケースが増えていました。  「新人が一生懸命やっているのにそれがうまく伝わらず、批判が増していく」という状態はマネジメント側の責任でしょう。  このような批判は「鉄は熱いうちに打て」の過密スケジュールによるところが大きく、それは「タイプロ」に限らず他のオーディションコンテンツにも該当しやすいところ。なかでもそれまで芸能経験の少ない新人に心身の負担をかけているのは間違いないでしょう。

 ただ、他事務所では「デビューからしばらくの間は本業のパフォーマンスを優先させ、それが安定し、芸能界やメディア出演に慣れたらバラエティや情報番組にも出演していく」という慎重なスタンスのオーディションコンテンツ出身グループも見られます。  一方、timeleszが所属するSTARTO ENTERTAINMENTは、「歌と踊りはもちろんバラエティも情報番組もドラマもぜんぶこなす」という旧ジャニーズ事務所時代から変わらぬスタンスを継続。

 しかし、これはオーディションコンテンツ出身の新人にとっては酷なプロデュース方針なのかもしれません。  今回の件は篠塚さんが新人である以上、「反省しつつ、また次頑張ればOK」という大らかな世の中でありたいところ。  ただ、肝心のマネジメント側が今後もこれまで同様の過密スケジュールを組めば、「また同じようなリスクを背負わせる」「心身の不調を来す」などのリスクは避けられないでしょう。 ■炎上案件なのに報じられない背景


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 最後にもう1つふれておきたいのが、ウェブメディアの反応について。今回の騒動を報じた記事は中小のウェブメディアと個人にとどまり、出版社系や新聞社系などの大手ウェブメディアはあまり報じていません。  本来このような“炎上案件”は大中小を問わずウェブメディアにとっては最も数字が期待できるところとして記事が量産されるだけに、意図的なものを感じさせられます。  大手ウェブメディアが記事を報じないのは、timeleszやSTARTO ENTERTAINMENTを敵に回したくないからとも見えます。

 timeleszといえば今年最もブレイクした男性アイドルで間違いなく、STARTO ENTERTAINMENTは国内トップのSnow Manを筆頭にSixTONES、King & Prince、なにわ男子など多くの人気グループを擁するだけに、ビジネス的につながっておきたい存在。  同社が圧力をかけているのではなく、今後の収益を考えて報道を自粛したのではないでしょうか。  一方、テレビ業界も当然のようにこの騒動をスルー。当事者であるフジテレビも表立った対応はせず「なかったことにしたい」というムードが感じられます。

 そもそも現在、「Snow Manとtimeleszをキャスティングしろ」は民放各局の共通認識。その点、「めざましテレビ」は裏番組である「ラヴィット!」(TBS系)や「ZIP!」(日本テレビ系)にSnow Manのメンバーが生出演しているため、「じゃあウチはtimeleszをどんどん出そう」というニュアンスを感じさせられました。  大手ウェブメディアやテレビの「報じない」という対応は、篠塚さんをフォローしているようにも見えますし、それがさらなる批判につながりそうにも見えます。

 篠塚さん本人としてはこれまで以上に新人らしい懸命な姿を見せるのはもちろん、バラエティや情報番組への出演時は頑張ろうとしすぎないことが好印象につながっていくのかもしれません。

木村 隆志 :コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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