アルピーヌF1、ドゥーハンに代えコラピントを”5戦起用”―ブリアトーレ新体制で初の決断
BWTアルピーヌF1チームは2025年5月7日、F1世界選手権第7戦エミリア・ロマーニャGPから第11戦オーストリアGPまでの5戦にわたり、ジャック・ドゥーハンに代えて、ピエール・ガスリーのチームメイトとしてフランコ・コラピントをレギュラードライバーとして起用することを発表した。
F1デビューわずか7戦のドゥーハンが早くも降格となるこの決定の背景には、単なるパフォーマンス評価だけでなく、政治的思惑や財政面、さらには将来のチーム体制に向けた布石が複雑に絡んでいる。
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ファンと交流するフランコ・コラピント(ウィリアムズ)、2024年10月17日(木) F1第19戦アメリカGP(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)
今回の決定を主導したのは、発表前日にオリバー・オークスの就任わずか9ヶ月での辞任を受け、その職務を引き継ぐことが明らかにされたエグゼクティブ・アドバイザー、フラビオ・ブリアトーレだ。
ブリアトーレは2000年代にルノーのチーム代表として、フェルナンド・アロンソを2度のワールドチャンピオンに導いた手腕で知られるが、同時に、2008年のシンガポールGPで、当時のルノー所属ドライバー、ネルソン・ピケJr.に意図的なクラッシュを指示した「クラッシュゲート」事件により、F1において最も物議を醸した人物の一人でもある。
アルピーヌF1チームのブルーノ・ファミン代表とF1担当エグゼクティブアドバイザーに就任したフラビオ・ブリアトーレ、2024年6月26日
ブリアトーレは今回の人事について、「シーズン開幕からのレース内容を精査した結果、今後5戦はフランコをピエール(ガスリー)のチームメイトとして起用するという判断に至った」と説明した。
「今年のF1は僅差の戦いが続いており、チームとしても過去12か月で車両を大幅に改善した。来たる2026年の大幅なレギュレーション変更に向け、今年中にドライバー陣を公平かつ包括的に評価しておくことが極めて重要だと考えている」
アルピーヌは今季、コンストラクターズ選手権9位と低迷しており、チーム再建に向けた対策が求められている。
ドゥーハンの実績と課題
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リタイヤを経てインタビューに応じるジャック・ドゥーハン(アルピーヌ)とリアム・ローソン(レーシング・ブルズ)、2025年5月4日(日) F1マイアミGP決勝レース(マイアミ・インターナショナル・オートドローム)
今季開幕からレギュラーを務めてきたドゥーハンは、2024年最終戦アブダビGPでデビューを果たして以降、ここまで計7戦に出場。ポイント獲得には至っていない。
直近のマイアミGPでは、初めてチームメイトのガスリーを予選で上回ったものの、決勝ではリアム・ローソンとの接触により1周目でリタイア。開幕オーストラリアGPでもクラッシュを喫し、1周目にリタイヤしている。
また、鈴鹿サーキットでの日本GPのフリー走行中には、DRS(ドラッグ・リダクション・システム、直線での速度向上装置)を閉じずにターン1へ進入し、大クラッシュを喫する場面もあった。
ブリアトーレは「ジャックは今季、プロフェッショナルとして素晴らしい姿勢で取り組んできた。今回の判断は、あくまでチームの可能性を最大限に引き出すための試みだ」と強調した。
ドゥーハンに代わって出走することとなったコラピントは、2024年後半にウィリアムズから9戦に出場し、アゼルバイジャンとアメリカでポイントを獲得する活躍を見せた。もっとも、その一方でサンパウロとラスベガスではクラッシュも経験しており、一貫性に課題を残している。
コラピントは今年、テスト&リザーブドライバーとしてアルピーヌに「レンタル移籍」。次戦エミリア・ロマーニャ、モナコ、スペイン、カナダ、オーストリアの各5戦では、カーナンバー43を付けてA525をドライブする。
「まずは、5戦にわたって機会を与えてくれたチームに感謝したい。次戦イモラから続く3連戦に向けて、チームと万全の準備を進めるつもりだ。厳しい挑戦になるのは間違いないけど、常に準備はしてきた。ピエールと一緒に、チームにとって最良の結果を目指して全力を尽くすつもりだ」とコラピントは意欲を示した。
コラピントの昇格には、純粋なパフォーマンス以外の「財政的後押し」もある。アルゼンチンの大手スポンサーであるYPFやMercado Libreが彼を支えており、昇格に伴ってその支援も拡大すると見られている。
さらに、母国アルゼンチンでは「リオネル・メッシに次ぐ国民的スター」とまで称されるほど関心が高く、熱狂的なファンベースとメディア注目度はチームにとっても魅力的だ。
ドゥーハンの心境
チームによれば、今回の人事は暫定的なものであり、7月の第12戦イギリスGP前に再度の評価が行われる見込みだ。この間、ドゥーハンはチームに帯同し、「第一リザーブドライバー」としての任務を継続する。
ドゥーハンは次のようにコメントした。「F1ドライバーになるという生涯の夢を叶えられたことを誇りに思っているし、チームには心から感謝している。今回の決定は正直、受け入れ難い部分もある。プロとしては当然、レースに出場したいのが本音だ」
「それでもチームが自分を信頼し、今後もリザーブドライバーとしての役割を与えてくれたことには感謝している。チームとしての長期的な目標に向け、自分ができるすべてを提供するつもりだ。この5戦を注視し、自分自身の成長の糧としていきたい」
今後の展望、2026年に向けた思惑
この人事変更は、2026年に予定されている大幅なF1レギュレーション変更を見据えたアルピーヌの戦略の一環とも見られる。パワーユニットや空力規定が大きく変わる2026年に向け、アルピーヌはドライバーラインナップの最適化を図っていると思われる。
今回の変更が5戦限定とされている点からも、チームがデータと実績に基づいた慎重な判断を行おうとしていることがうかがえる。一方でコラピントが結果を残せば、そのままシートを継続する可能性は高い。
イモラでのドライバー交代がチームの成績向上につながるか、注目される。