アフガニスタン人の情報漏洩問題、保守党前政権に「重大な説明責任」と英首相

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ベッキー・モートン政治記者(BBCニュース)、ジャック・フェンウィック政治担当編集委員

イギリスのキア・スターマー首相は16日、イギリス軍を支援していたアフガニスタン人の個人情報が流出した問題について、保守党前政権の元閣僚らに「重大な説明責任がある」と述べた。

スターマー首相は下院で、労働党政権が引き継いだ失態の中には、情報漏洩(ろうえい)の報道を禁じる「スーパー・インジャンクション(強力な差し止め命令、の意味)」や、影響を受けた人々をイギリスに受け入れるための「極秘ルート」が含まれており、「すでに数十億ポンドの費用が掛かっている」と述べた。

この情報漏洩は、2021年にイスラム主義勢力タリバンがアフガニスタンで政権を掌握した後、イギリスへの移住を申請していたアフガニスタン人およそ1万9000人分の個人情報が、2022年2月に英政府職員の過失によって流出したもの。

前政権は2023年8月、これらの情報がフェイスブック上に投稿されたことで、初めて事態を把握したという。

当時の国防相だったサー・ベン・ウォレスは、情報漏洩が発覚した後、保守党政権が4カ月間の報道差し止め命令を申請したと説明。裁判官がこれを、報道を差し止めるだけでなく、差し止め命令が出された事実を公表することも禁じるスーパー・インジャンクションに変更したと述べた。サー・ベンは、2023年8月末に国防相を退任している。

サー・ベンは16日、当初の報道差し止め命令を申請したことについて「謝罪するつもりはない」と述べた。

また、これは「隠蔽(いんぺい)ではない」と強調。「危険にさらされる可能性のあるアフガニスタン人を保護するための措置だった」と主張した。

スターマー首相は16日、下院での首相質疑の冒頭で、「イギリス軍と共に任務にあたったアフガニスタン人に対して、我が国が責任を果たすべきだという点について、この議会では常に、党派を超えた支持があった」と述べた。

「我々は野党時代から、保守党政権によるこの政策の運用に警鐘を鳴らしてきた。そして昨日、国防相が我々が引き継いだ失態の全容を明らかにした。重大な情報漏洩、スーパー・インジャンクション、そしてすでに数億ポンドの費用がかかっている秘密のルートだ」

その上で、「前政権で閣僚を務めた者たちは、なぜこのような事態が許されたのかについて、重大な説明責任を負っている」と非難した。

保守党政権は2024年4月、情報漏洩の影響を受けたアフガニスタン人のための再定住制度「アフガン再定住ルート」を策定。これまでに4500人のアフガニスタン人がイギリスに到着している。

この制度にはこれまでに4億ポンド(約760億円)の費用がかかっており、最終的な総額は約8億5000万ポンドに達すると見込まれている。対象者は合計6900人とされているが、現在この制度はすでに終了している。

国防省は、漏洩した情報の中に含まれていたアフガニスタン兵士600人とその家族1800人が、現在もアフガニスタン国内にとどまっているとみている。

高等法院が今月15日にスーパー・インジャンクションを解除したことで、情報漏洩やその後の政府の対応などが公表された。

この解除についてマーティン・チェンバレン判事は、国防省の内部調査でタリバンが「すでにデータセットの主要な情報を保有している可能性が高い」と判断されたこと、また、命令の存在を公表しても、影響を受けた人々のリスクを「大幅に」高める可能性は低いと説明した。

下院のリンジー・ホイル議長は、スーパー・インジャンクションが「重大な憲法上の問題を提起している」と述べた。議員らはこの情報漏洩について知らされていなかったため、議会で取り上げることも、委員会で審査することもできなかった。

野党・自由民主党は、漏洩の規模およびその後の政府による報道規制の試みに関して、公的調査の実施を求めている。

また、下院国防委員会は、「教訓を得るため」に、今回の情報漏洩に関する調査を開始すると発表した。

アフガニスタンにいるある女性は、BBCの取材に対し、今回の情報漏洩により「非常に危険な状況にある」と語った。

この女性の身元は安全上の理由から伏せられている。女性の息子は、かつてイギリス軍に協力していた。息子は現在イギリスに滞在しており、母親を呼び寄せるための申請を行っていた。

英国防省は16日、この息子に対して、提出された申請書類の情報が漏洩したと連絡したという。

女性は「とても動揺した」と述べ、「もしイギリス政府が私にビザ(査証)を出さず、申請を受け入れないのなら、少なくとも私の情報を守り、身元を漏らさないことはできたはずだ」と訴えた。

「今では、誰もが私のことを知っている」と、この女性は語った。

別の男性、アシフ・カーンさん(仮名)は、かつてイギリス軍と共にタリバンに対する共同作戦に参加していた。

カーンさんは、アフガニスタンからパキスタンへの移動を指示された後、6週間前にイスラマバードからイギリスへ避難した。

カーンさんは16日、情報漏洩についての通知を電子メールで受け取ったと語り、特に兄弟たちの安全を強く懸念していると述べた。

「兄弟たちは私と共に軍事作戦には関与していなかったので、何も起きないことを本当に願っている」

また、「私たちと肩を並べて戦った同僚が大勢いるが、彼らは今もアフガニスタンに取り残されている。特に彼らのことが心配だ」と述べた。

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BBCニュースは、労働党政権の閣僚らが昨年秋、スーパー・インジャンクションの解除を検討する必要があるとの判断に至ったとの情報を得ている。

このスーパー・インジャンクションは2024年5月、リシ・スーナク前首相が総選挙を発表する前日に裁判官によって解除されたが、当時の保守党政権は異議を申し立て、差し止め命令の継続を認めさせた。

一方で、労働党政権の閣僚らも、なぜスーパー・インジャンクションを維持したのかについて説明を求められている。

首相官邸は、差し止め命令の延長申請を行った政府の判断を擁護し、状況を評価するために「必要な作業が多数あった」と説明した。

スーパー・インジャンクションの解除の可能性を検討する正式な見直しは、今年1月に開始された。

首相官邸は、漏洩の責任者が懲戒処分を受けたかどうかについて明言していないが、当該職員はすでに同じ職務には就いていないと述べている。

ジョン・ヒーリー国防相および保守党のケミ・ベイドノック党首は、それぞれの政党を代表して今回の漏洩について謝罪した。

この情報漏洩は、2021年のアメリカおよびイギリス軍のアフガニスタン撤退後に発生したもので、「アフガン再定住・支援制度(ARAP)」に基づきイギリスへの移住を申請していた人々の氏名が含まれていた。

同制度は、イギリス政府に協力していたアフガニスタン人およびその家族を対象としており、タリバンによる報復を恐れる人々の保護を目的としていた。

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