中国軍むしばむ汚職、習氏側近も巻き込む幹部調査続く-QuickTake

中国共産党の習近平総書記(国家主席)は人民解放軍を2027年までに現代的な軍隊とするため巨額の資金を投じている。

  一方で、共産党は軍指導部を対象とした大規模な人事粛正を続けている。米国の情報機関は、習氏の野心を打ち砕きかねない広範囲にわたる汚職がまん延しているとみている。

  中国が恐れているのは、ミサイルや核兵器を管理しているロケット軍の能力や兵器の質を低下させている腐敗のようだ。

誰が粛清されたのか

  他の部門とは異なり、人民解放軍が汚職調査について公表することはあまりない。そのため、粛清の規模を判断するのは難しい。だが、公にされた軍幹部の更迭から、その手がかりを得ることはできる。

Two out of four Central Military Commission members have fallen

Source: Bloomberg

  23年半ばから24年末にかけて、政府は少なくとも30人の軍幹部を突然更迭した。その中には、当時の国防相、李尚福氏も含まれている。少なくとも5人は、15年の軍再編で新設されたロケット軍と関連があり、少なくとも2人は装備部門の出身だった。

  共産党は今年6月、汚職に関与したと認定した李氏と魏鳳和元国防相の党籍を剥奪。国営メディアによると、2人とも賄賂を受け取り、調査に協力せず、悪い手本を示したという。

  国防省は11月下旬、共産党中央軍事委員会の苗華委員が調べを受けていると発表。また、中国は12月下旬に人民解放軍の陳輝政治委員を突然、上将に昇進させた。空軍出身の陳氏が陸軍で政治的忠誠心の強化と人員の管理を担当することになった。

Two Central Military Commission members have fallen so far

Source: Bloomberg

  中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)は同月、人民解放軍出身の代表2人を詳しい説明もなく解任した。そのうちの1人は陸軍、もう1人は海軍と関係がある。

  当初は軍の装備調達部門とベールに包まれたロケット軍を標的としていた反腐敗運動は、他部門にも拡大しつつある。

反腐敗運動の実行を担うのは誰か

  汚職調査は、軍の最高意思決定機関で習氏が主席を務める中央軍事委員会の汚職撲滅チームによって行われている。

  中央軍事委には2人の副主席と、政治活動や規律などを担当する3人の委員もいる。 アジア・ソサエティー政策研究所の分析によると、「中国の軍事活動と監督の中核」を成しているのが彼らだ。

  国防省の呉謙報道官は11月、中央軍事委の委員として政治的忠誠心を浸透させ、軍の人事管理を担当する苗氏が「深刻な規律違反」の容疑で調査を受けていると記者会見で明らかにした。共産党にとって、こうした表現は一般的に汚職調査を示す言い方だ。苗氏は習氏の側近とされている。

  中央軍事委は軍を管理し、その機能には戦略的計画の立案や監査、政治教育などが含まれる。国防相の主な職務は軍を直接指揮するというより、他国との軍事外交を主導することだ。

こうした汚職疑惑から何が分かるのか

  多くのことが公になっていない。2人の国防相経験者のケースを除き、中国はその他の更迭に関し詳細を明らかにしていない。通常、中国は違反行為を「深刻な規律および法律違反」と表現するだけだ。

  共産党の支配力を損ねたり、巨大な人民解放軍に対するイメージを悪くしたりする可能性のある情報を公開しないようにしていることが、秘密主義につながっている。粛清理由に関する情報の多くは、米国などの情報当局から得られたものだ。

ロケット軍とは何か

  習氏が15年に軍再編を行い、30万人の兵力削減を通じオペレーションの合理化を行った際、第二砲兵部隊をロケット軍と改名し、陸軍と海軍、空軍と同等の地位に昇格させた。

  ロケット軍は中国の核抑止力の責任を担い、核戦力の増強に不可欠な存在だ。米国の国防情報局は24年、中国は以前の予測をはるかに上回るペースで核兵器を増強しており、30年までに少なくとも1000発の核弾頭を保有することを目標としていると発表した。これに対し、米国の核弾頭数は現在約3750発だ。

  ロケット軍は核弾頭を搭載しない通常型ミサイルも担当。中国は台湾を自国領土の一部だとし、習氏は中台統一のため必要なら武力行使も辞さないとしている。

  もし、習氏が台湾侵攻を決断した場合、ロケット軍は空からの攻撃において重要な役割を果たすことになる。

  22年8月、当時のペロシ米下院議長が台湾を訪問すると、中国はこれに反発し、台湾周辺で軍事演習を実施。その際11発の弾道ミサイルを発射し、そのうちの数発は台湾上空を通過した。

  ただ、ロケット軍および国防産業全体をむしばむ汚職はあまりにも広範で、ブルームバーグ・ニュースは24年1月、米当局の見方として習氏が今後数年以内に大規模な軍事行動を起こす可能性は低いと関係者からの情報を基に報じた。

  関係者の1人によれば、燃料ではなく水を詰めたミサイルや、効果的な発射を可能とするようにはふたが機能しない中国西部のミサイル倉庫などいった問題に汚職が影響を及ぼしていると米当局は分析している。

軍の他部門では何が起こっているのか

  中国は24年4月、15年以来最大の軍再編に相当する命令を下した。電子戦を担当する人民解放軍の戦略支援部隊を、情報支援と宇宙、サイバー戦争にそれぞれ重点を置く3つの新しい部隊に置き換えるというものだ。

  人民解放軍は予算とリソース、資産の監視を6月に強化。16年以来となる監査規則改定だった。7月になると共産党は軍に対し兵器調達システムの変更と、一般的に核兵器や新興テクノロジーを指す戦略的抑止力の開発加速を求めた。

習氏の軍事的野心とは

  米国防総省の分析によると、中国は世界で最も多い210万人を超える現役兵を抱え、人民解放軍の艦船は400隻以上、航空機は約3100機だ。つまり、中国は世界最大の海軍と世界3位の航空戦力を有している。

  軍備面で急速な進歩を遂げ、空母から極超音速ミサイルに至るあらゆるものを開発している中国だが、それを効果的な戦闘作戦に転換する能力については依然として大きな懸念が残っている。特に、戦闘が長期化した場合におけるそうした能力が疑問視されている。

原題:Why Is China Purging Several Senior Military Leaders?: QuickTake (抜粋)

関連記事: