「マシンガンとライフルの対決」寺地拳四朗とユーリ阿久井政悟の“歴史的名勝負”「じつは11回にあった」異変…長谷川穂積が察知した“壮絶KOの予兆”(Number Web)|dメニューニュース

「マシンガンとライフルの対決」寺地拳四朗とユーリ阿久井政悟の“歴史的名勝負”「じつは11回にあった」異変…長谷川穂積が察知した“壮絶KOの予兆” photograph by Hiroaki Yamaguchi

 寺地拳四朗(BMB)とユーリ阿久井政悟(倉敷守安)によるフライ級チャンピオン対決は期待に違わぬ好勝負となった。3月13日、両国国技館で行われたフライ級2団体統一戦は、WBC王者の寺地が最終回にWBA王者の阿久井を追い詰め、劇的な12回1分31秒TKO勝ち。勝負の綾はどこにあったのか、勝敗を分けた要因は何か――。元3階級制覇王者の長谷川穂積さんが解説した。(全2回の1回目/後編へ)

両者のジャブは「マシンガンとライフル」

 史上3度目となる日本人チャンピオンによる王座統一戦は、実績で上回る寺地が有利という見方が一般的だった。長谷川さんの見立ても「寺地選手が少し有利かなと思っていた」。ただし、一筋縄ではいかない試合になるとも予想していた。

「まずジャブの差し合いに注目していました。この2選手はともにジャブのスペシャリスト。寺地選手のジャブは手数が多く、言ってみればマシンガンです。相手が盾を持っているとして、そこにマシンガンでダダダダダッと撃っていく。最初は盾が弾を弾くんですけど、少しずつ穴が開いて、さらに弾が当たって穴は広がり、最終的に大きな穴ができる。阿久井選手は数こそ多くないけどライフルのようなジャブで、こちらも盾に穴を開けていく。そこに力強い右ストレートが入っていく。どっちが先に盾に穴を開けるか。そういう勝負になると見ていました」

 試合が始まってすぐに感じたのは阿久井の「覚悟」だった。

「最初から右ストレートを、覚悟を持って打っているように感じました。今までの防衛戦とは違って“挑戦者”として倒しにいっているような覚悟です。コンディションも最高でした。寺地選手には余裕を感じました。自信があるんですよね。そこに自分の想像を超えるジャブ、右ストレートが飛んできた。寺地選手はだいたいの戦い方のイメージがあったと思うんです。そこに予想以上の相手の覚悟を感じて、練習前に作り上げた気持ちをもう一度作り直さないといけなくなった。これをリングの上でやるのはけっこう大変だったと思います」

長谷川穂積の目を引いた「阿久井の巧さ」とは

 序盤は阿久井が積極的に攻めながら、寺地ものみ込まれることなく、状況に対応して試合を組み立てた。互いに引かず、激しいペース争いが展開された。

「寺地選手はしっかり切り替えて、いろいろ考えてボクシングをしていました。キャリアを感じました。ただ前半、目を引いたのはやはり阿久井選手の巧さです。1発もらっても2発目をもらわない、2発もらったとしても3発目をもらわない。めちゃめちゃ揺れるサンドバッグは3発目、4発目が当たらない。そんな感じです。具体的には接近戦でもしっかり頭を振っていた。寺地選手を波に乗せませんでした」

 寺地はアップテンポなボクシングで、1発、2発とパンチを当て、それを3発、4発と増やしてグイグイとペースを引き込むのが得意だ。阿久井は頭を振るだけでなく、攻撃は最大の防御とばかりに先手を取ったところも見逃せない。

「打たれたら必ず打ち返す。あれだけノーモーションで手数を出してくる相手に打ち返すって難しいんですよ。普通は相手の攻撃が終わるまで待って打ち返す。あるいはカウンターを取る。それを打ち終わるのを待つのではなく、どこかのタイミングで必ず打ち返していた。気迫ですね。これは非常に功を奏しました」

 阿久井は徹底して作戦通りのボクシングを遂行した。そして寺地は苦しみながらも対応した。寺地の戦い方にも長谷川さんは感心した。

「6ラウンドまでは阿久井選手が4つ、寺地選手が2つくらい取ったように見えました。そうした状況で、寺地選手は後半に入ると、脚を使ったり、打ち合ったり、さすがだなと感じさせるボクシングでした。自分の打ちたいときに打てるのが寺地選手の良さです」

 阿久井は執拗にプレスをかけ続け、寺地も引かずに試合が進む。両者の気持ちと技巧が激しくぶつかり合い、「どちらの盾も傷つきながら穴が開かない」状態でラウンドは進んだ。

劇的なTKO…ポイントは11回の攻防にあった?

 スコアが読めず、阿久井がやや優勢と思われた終盤に思いがけないドラマが待っていた。寺地が最終回、30秒すぎに右ストレートを阿久井のアゴに叩き込み、ダメージを受けた阿久井の足元が揺れる。すかさず寺地がラッシュ。阿久井も踏ん張り、ここからおよそ1分、手に汗握る攻防が続く。

 そしてついに寺地の連打が決まると、中村勝彦レフェリーが割って入り、寺地のTKO勝ちが決まった。この結末は長谷川さんも予想できなかったのではないだろうか。そう問うと長谷川さんは「そうなんですけど、ただね……」と切り出した。ポイントは11回の攻防にあった。

<後編へ続く>

文=渋谷淳

photograph by Hiroaki Yamaguchi

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