塹壕で日本の菓子を「ガチレビュー」ウクライナ兵のZINEが人気に:朝日新聞

日本のカップ麺やお菓子を、外国人が「ガチレビュー」した……と聞くと、よくある企画と思うかもしれません。しかしレビューを担当するのは「ウクライナの前線で戦う兵士」というZINE(自主制作の小冊子)が話題になっています。読者からは「いつもボリボリ食べてるお菓子やカップ麺の新たな見方が発見できた」などとSNSで感想が寄せられています。どんな人たちが、どんな思いで作っているのか、編集に協力した日本側スタッフに話を聞きました。

話題になっているZINEは、「現役ウクライナ兵が塹壕(ざんごう)からお送りする日本のお菓子とかガチレビュー」(発行サークル「Team Svitlyny」2026年7月発行)で、日本ではおなじみのスナック菓子やカップ麺が載っています。

「現役ウクライナ兵が塹壕(ざんごう)からお送りする日本のお菓子とかガチレビュー」(発行サークル「Team Svitlyny」2026年7月発行)の表紙

レビューは、兵役3年目の「Pasha(パシャ)さん」という兵士によるもので、ウクライナ語と日本語併記で書かれ、評価点(10点満点)がつけられています。

たとえば「カルビーじゃがりこ・チーズ」は「正直、これはパンなのかジャガイモなのかはよく分かりません」としつつ、「チーズの味はちゃんと心地よく化学調味料っぽさがありません」と9点の好評価。

「一番のお気に入り」としたのは「日清麺職人・丸鶏ガラ醬油(しょうゆ)」で、「いやもう、ほんとにすごい」「入っていたのが、うちの国にあるようなうま味増強剤入りのケミカルな粉末ではなく、しょうゆの小袋だけだったんです」「スープも『ポテチを一袋まるごと飲んだ』みたいな感じがしません」と絶賛。入っている「乾燥野菜」に花形の飾りが入っていたことも紹介しています。

「現役ウクライナ兵が塹壕からお送りする 日本のお菓子とかガチレビュー」より=Team Svitlyny提供

そんなレビューには時折、〝戦争〟を思わせる表現が混ざります。

えびせんの紹介では「私はエビが好きで、軍隊に入ってからも機会があるたびにほとんど毎回買っていました(中略)父とも、休暇のたびにエビをつまみにビールを飲んでいます」と家族を思い出していました。

のりあられには「オデーサ(編集注:ウクライナの港町)の海の匂いを思い出せるようになりました」と故郷の記憶をつづります。

大半が率直な「ガチレビュー」ですが、最後のカップ担々麺のレビューは、それまでと様子が違うシビアな文で「前線の日常」がつづられていました。

「今日は肉体的にめちゃくちゃ消耗した。全部痛い。腕、腰、首、脚、背中」

連日朝4時半から続く過酷な任務の様子に触れた上で、担々麺のレビューが続きます。

「今日また、日本の別のインスタント麺を食べてみた。すごく良かった」

最後に、こう締めくくられています。

「肉体的にきつい一日のあとに、これは楽しみを与えてくれた。お腹(なか)が空いて食べたのではなく、喜びが欲しくて食べた。そして実際にそれを得られた」

送られてきた日本のカップ麺を開封した様子=Pashaさん撮影

SNS上では、ZINEを読んだ人たちから「いつもボリボリ食べてるお菓子やカップ麺の新たな見方が発見できた」「戦争を兵器や戦況だけで捉えるのではなく、その中で生活する一人の人間として見ることができた」「本当は塹壕じゃなく、家で平和に食べられる日が来れば良いのに」などの感想が寄せられました。

「共通項」で感じた世界の広さ

ZINEを企画した、関西在住の会社員男性(40)に話を聞きました。「ガチレビュー」の本では、Pashaさんから「日本(ヤポネツ)さん」と呼ばれています。

なぜウクライナ人と本を作ることになったのでしょうか。ヤポネツさんは「ロシア軍の侵攻前から、ウクライナの人々と交流はありました」と言います。

きっかけは、インターネットを通して、世界中のゲーム好き仲間と話すことでした。ヤポネツさんは「任天堂界隈(かいわい)」を自称しており、海外の「任天堂」ファンたちとカタコトの英語で会話して、友達を作っていました。その中にウクライナ人もいました。

各国の友達たちは、ヤポネツさんが趣味で続けていた同人誌作りにも参加してくれました。

「学生時代の思い出」やゲームのキャラクターなど、共通して語り合えるテーマを掲げ、世界中の仲間と、それぞれが得意なイラストやコラムを書く内容でした。

共通項があるからこそ、それぞれの性格や知識、文化などに異なるものがにじみ出ます。「世界って広いな」と、おもしろさに熱中していたと言います。

ところがある日、ウクライナ人の友人がTwitter(当時)に投稿した文に目を疑いました。

「ミサイルが飛んできている」

直後にロシアがウクライナに軍事侵攻したとのニュースも入りました。「まさか本当にロシアが戦争を始めるなんて」とショックを受けました。

友人との連絡は途絶え、安否がわからない中、ウクライナの友人たちと会話するために使っていたSNSのタイムラインが、瞬く間に悲惨な〝戦争〟に染まっていきました。

「助けて」

「薬が手に入らない」

目の前にはリアルな戦争の情報があふれているのに何もできない無力感。「これが現代の戦争の、市民の巻き込まれ方なのか」と感じたといいます。

侵攻から1週間後、友人から「生きているよ」と連絡がきてほっとしました。

しかし、報道で目にするウクライナの情報は、戦況や死者の数ばかり。「自分はウクライナのことをあまり知らない」と痛感しました。そのときに思いついたのが、これまで自分の世界を広げ、深めてくれた同人誌作りでした。

ヤポネツさんは友人に「ウィキペディアにもニュースにも載っていないような、『私たちのウクライナ』を集めた本を作らない?」と提案しました。

「いま自分たちが残したい」風景に賛同

ウクライナでも同人活動があるそうで、友人から同人誌を作ってきたカテリーナさんを紹介してもらいました。

そして、カテリーナさんがウクライナ各地から20人の賛同者を集めてくれました。

ヤポネツさんも交えてグループチャットを作り、企画を練り、「自分のスマホの中にある、本に残したい写真」を募りました。

グループチャットでは、世界遺産の写真集などからはこぼれ落ちてしまうような「個人のささやかな思い出」こそ、残すべき「貴重なもの」なんだと話し合いました。

集まった写真の多くはロシアによる侵攻前のものでした。

16歳の夏、親友と田舎に旅行に出かけた写真。「人生最後の本当に無邪気な月だった」=Team Svitlyny提供

村の風景の写真には、16歳の夏、親友と滞在した村の思い出と「私たちの人生で最後の『本当に無邪気だった月(※編集部注:夏の一月)』だったのかもしれない」との文章が添えられました。

幼少期、父親と街の祭りに行って、おっかなびっくりワニに触りながら撮った写真には、侵攻後に同じ場所で撮った写真が並びました。背景のホテルは空爆で破壊されていました。

にぎやかな街の通りで、おっかなびっくりワニに触りながら撮った写真=Team Svitlyny提供

侵攻後に同じ場所で撮った写真。背景のホテルは空爆で破壊された=Team Svitlyny提供

自宅の屋根に座るネコ越しに撮った美しい空の写真には、「二度と戻ることはないでしょう。もう戻る家がないのだから」と書き添えられています。

ウクライナ人たちが考えて、合同写真集は「スヴィトリニィ Світлини / Svitlyny」というタイトルに決まり、2025年8月に完成。サークル名「Team Svitlyny」として、各地の同人誌即売会に参加するようになりました。

兵士の日記「『普通』が、まるで天からの恵み」

Team Svitlynyの20人のメンバーの中に、100枚もの写真を送ってきた「つわもの」がいました。それが、ウクライナの前線で戦っている兵士、Pashaさんでした。

ヤポネツさんは「みんな、家族や友人など誰かしらが『前線』にいる状況だったので、Pashaさんとも自然につながった感じです」と言います。

Pashaさんとの普段のやりとりは、機械翻訳を活用してウクライナ語で行っています。PashaさんがSNSに公開していた数年分の日記も読みました。

「ウクライナに生きる人たちの〝手触り〟のようなものが感じられるような内容のもの」が多く、ヤポネツさんは引きつけられたと言います。

塹壕(ざんごう)の様子=Pashaさん撮影

送られてきた写真に写るのは、削られた土壁に囲まれた塹壕と、簡素なベッドやランプ。

また、敵の砲撃や冬の寒さから逃れて塹壕にやってくる猫や犬たちとの暮らしや、任務で入った森で見つけたキノコ、湖畔、虹といった美しい自然に、過酷な日々の中でも心を打たれる様子も伝わってきました。

「イカれた不快感と危険の渦に投げ込まれたと思えば、次の瞬間には少しだけマシな『悪い』状態に戻り、そして普通の状態が訪れる。そんな『普通』が、まるで天からの恵みのように感じられる」(「Pasha's Story:」2025年8月発行より)

塹壕(ざんごう)に逃げてきた猫たちとPashaさん。一緒に生活している=Pashaさん撮影

立ち寄った村でおばあさんからイチゴを買った時、第2次世界大戦で友人を亡くした話を聞き「戦争は決して良いものをもたらさない」とつづったり、村で出会った7歳の少年とお菓子を一緒に食べながら「村にほかに子どもがいない」と聞いて胸を痛めたことを書いたり……。

Pashaさんの物語を「付録」として出したところ、本編の合同写真集を上回る反響があり、自主制作漫画誌展示即売会「COMITIA」の人気投票で上位に食い込みました。

写真集で得た利益はチームで話し合い、ウクライナの慈善団体に寄付されました。

戦場から送ってきた美しい空の写真=Pashaさん撮影

Pashaさんが日々、SNSで更新する日記には「母から差し入れが届いた」などと喜ぶ様子が描かれていました。

そこでヤポネツさんは、「日本から何か差し入れするのもアリなのかも」と考えたそうです。

戦時下の国に差し入れが送れるのか。筆者は驚きましたが、ヤポネツさんは、これまでも完成したZINEを必ず本人に送っており、ウクライナ各地の参加メンバーにも、戦時下でも無事に物が届くことを知っていたそうです。

Pashaさんに「差し入れってしてもいいの?」と聞くと、「大丈夫だよ。両親宛てに送ってくれたら転送されるから」との答えがあったといいます。

さっそく近所のドラッグストアに行き、選んだのは、日持ちする菓子やカップ麺でした。

日々のPashaさんとのやりとりや日記を読んでいて、薬や包帯などの「必需品」は軍から支給されており、Pashaさんが喜んでいる差し入れは「ウクライナの菓子」などの嗜好(しこう)品だと知っていたからです。

選んだ7割は「誰でも口に合いそうな歌舞伎揚げなど王道枠」、残り3割は「わさび味などおもしろ枠」として選びました。

差し入れを送って、それで終わるはずでした。

しかし、しばらくするとPashaさんが、自身の日記で「日本(ヤポネツ)さんから届いた品物」として、その感想や点数をつけ、友人たちに紹介を始めたのです。

ヤポネツさんはその「ガチレビュー」が「最高に面白かった」と言います。

「カップラーメンやお菓子という『共通項』を介して、我々の日常からものすごく遠いところとつながることで、いま世界で起きている事件や戦争という、もう一つの現実に疑似的に対面する……対面せざるをえなくなることができた」と語ります。

日本からの差し入れの箱が届いた様子=Pashaさん撮影

そして「ガチレビュー」を本にしようと考え、Pashaさんにも快諾してもらいました。

あえてそれまで発行してきたZINEとは違う、軽い内容を思わせる装丁と導入にして、極力お菓子レビューだけの内容で編集しました。

「戦争」という入り口では興味を持たない人も「菓子のレビュー」だったら面白く読み始められるはず。でも、ヤポネツさんが本当に伝えたかったのは「やはり『塹壕での生活の現実』だった」と言います。

だから最後の「担々麺の長文レビュー」には、あえて菓子レビューと落差をつけました。

「お気楽な感じのレビューをしているけれど、軍務中のPashaさんの生活はこれだけシビアで、その上にこの『ささやかな喜び』が本当にささやかに存在するんだ、というのを表現できたら」との思いを込めました。

この「落差」が多くの読者の心に衝撃を残しました。

「普通のあんちゃん」だからこそ

ガチレビューの背景には、日本では想像できない塹壕生活が写り込んでいます。

一方で、戦争という非常事態の中にも、Pashaさんの目を通して、日々を生きる人たちの「手触り」があふれています。

ZINE制作を通して、ヤポネツさんはPashaさんの人柄をどう見ているのでしょうか。

一晩考えて、ヤポネツさんは、こう返事をしてくれました。

「Pashaさんは、本当に『普通のあんちゃん』だなぁと思います」

前線にインスタントカメラを持っていき、写真を撮っているというPashaさん=Pashaさん撮影

10歳年下のPashaさんの日記には、休暇には家族とのだんらんや、女友達との自撮り写真がアップされます。前線での軍務中も、合間の休憩時間にはNetflixでチェックした映画やドラマについて感想を書いたり、プロボクシング世界ヘビー級王者オレクサンドル・ウシクの王座防衛戦の配信を遠隔地の友人たちとグループチャットでつないで〝一緒に観戦〟しながら「すごすぎて寝られなかった」と興奮したり。

一方で近距離で攻撃を受け、仲間が亡くなるのを目撃したことも日記には書かれています。

Pashaさんの拠点から写した前線の状況。「地獄そのものであることが視認できる」=Pashaさん撮影

「『普通のあんちゃん』だからこそ、兵役の中でも人間性を失わずに、人と人との出会いや交流を大事にしたりとか、村で出会った少年にお菓子をあげてギターを弾かせてあげたりする、人間として生まれ備わった『善性』のようなものを感じました」

そんなPashaさんも巻き込まれてしまった戦争。ヤポネツさんは「戦争は人間が始めた最大の犯罪」と憤りますが、「Pashaさんからはそんな人間という生き物に対して必ずしも絶望する必要はないみたいな、そんなことを感じたりします」と話しました。

先日はPashaさんから「差し入れのお礼だよ!」と、段ボールいっぱいのウクライナのお菓子が届いたそうです。

塹壕(ざんごう)の朝=Pashaさん撮影

「ガチレビュー本」は当初、売れても100部ほどだと想定していました。そして売り上げはすべて「日本のお菓子やカップ麺に変わり」「Pashaさんの胃袋に収まる」としていました。

ところがSNSなどで話題になり、予約分を含めて、想定していた7倍以上を増刷することになり、お菓子だけでは使い切れないほどの反響になりました。

売上金をどうするかは、Pashaさんと相談して考えるとのことです。

ロシアの全面侵攻が始まり、4年半を超えました。鳴りやまない空襲警報や、空爆、終わりの見えない不安な日々の中でも、チームスヴィトリニィのグループチャットでは、メンバーの発信したい気持ちが途切れることはないと言います。

「今度はボルシチの本にする?」と、次の本の構想が早くも上がっているそうです。

送られてきた日本のカップ麺を作った様子=Pashaさん撮影

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16歳の夏、親友と田舎に旅行に出かけた写真。「人生最後の本当に無邪気な月だった」=Team Svitlyny提供

塹壕(ざんごう)の様子=Pashaさん撮影

塹壕(ざんごう)での普段の食事と思われる風景=Pashaさん撮影

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