FRBを見舞う物価ショック、関税が持続的インフレにつながる可能性

トランプ米大統領による関税政策が米国の消費者物価を押し上げるなら、インフレと闘う連邦準備制度理事会(FRB)にとってはそれだけで悪いニュースだ。そして、それはさらに悪い事態に道を開くことになりかねない。

  エコノミストらは、企業や労働者が予想する物価が、実際の物価を決定する上で重要な役割を果たし得ると指摘する。FRB当局者が将来のインフレ期待を常に注視しているのは、それが理由だ。直近に発表されたインフレ期待の指標は懸念すべき内容となっている。

  ミシガン大学が11日発表した4月の消費者マインド指数(速報値)で、5-10年先のインフレ期待は4.4%と、1991年以来の高水準となった。

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  消費者のこうした見方は、トランプ大統領の貿易戦争に伴う一度限りの物価への影響を、より持続的なインフレに転じさせる可能性がある。米国の家計は新型コロナ禍後の物価高騰による影響をいまだに受けている。インフレ期待上昇はこうした中で起きており、リスクは一段と大きい。

  消費者と企業のインフレ期待上昇は、中央銀行が物価を抑制する能力への信頼感低下につながり得る。ボストン連銀で調査担当ディレクターを務め、現在はブルッキングス研究所に勤務するジェフリー・フューラー氏は「それを私は憂慮する」と述べた。

  信頼感が中長期にわたって損なわれれば金融政策の効果は落ち、FRBは信頼を取り戻すまで、本来必要とする以上に政策金利を高く設定しなければならなくなる。

  仮に関税引き上げに伴う物価上昇率が向こう1年で3%を大きく超えるようになった場合、消費者はそれをニューノーマルと捉え、日々の生活でそれを計算に入れることになるかもしれない。労働者は賃金アップを求め、企業は価格設定を見直すことになる。

  フューラー氏は、FRBへの信頼感がそこまで損なわれなかったとしても、貿易戦争がFRBの仕事を一層困難にする可能性があると述べた。

  ミシガン大の調査では、1年先のインフレ期待が6.7%と、1981年以来の高水準となった。民間調査機関コンファレンスボードが発表する米消費者信頼感指数でも、1年先のインフレ期待が昨年12月以降、毎月上昇している。

  ニューヨーク連銀が調査する消費者のインフレ期待は14日に発表予定。

  パウエルFRB議長は3月の連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、ミシガン大などのセンチメント指標を深刻視していないことを示唆。関税措置のインフレ率押し上げ効果に関しては、「一過性」のものとなりそうだとの認識を示した。

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  それでもパウエル氏をはじめFRB当局者は、インフレ期待を注視している。

  ボストン連銀のコリンズ総裁は11日にヤフー・ファイナンスとのインタビューで、「FRBが有する最も重要な資産の一つはその信頼性であり、それは中長期のインフレ期待がしっかりと抑制されることに表れる」と述べた。

  税務コンサルティング会社RSM・USのチーフエコノミスト、ジョセフ・ブルスエラス氏は、米消費者は「まだ真に回復していない」と指摘。消費者はインフレ調査に対し、「現在の考え方を反映した回答をしている。つまり、強い打撃を受けたままということだ」と述べた。

  ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのリカルド・ライス氏は、インフレ期待は中央銀行への信頼感を映す鏡だとし、先進国の中銀にとってコロナ禍に伴う物価高騰はその重要性を再認識させる有益なものだったと話す。

  同氏は、インフレ期待を「無視し、一過性との認識を示して問題がないかのように振る舞うのは、すべきことではない」と述べた。

原題:Fed’s Deepest Tariff Fear Is a Price Shock That Won’t Fade Away(抜粋)

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