伝説のネズミの王「ラットキング」は実在する、「作り話ではありません」と科学者(ナショナル ジオグラフィック日本版)
伝説のネズミの王「ラットキング」は、少なくとも1500年代から人々を魅了し続けてきた。細部は伝承によって異なるものの、複数のネズミ(ラット)の尾が絡み合って結び目になった状態として描かれることが多く、精神的な力を持つ1匹がリーダーとして他のネズミに指図する話もあれば、集団全体が一体となって、あたかも合体した怪物のように振る舞う話もある。 【関連画像】1714年の「ラットキング」の記録、ドイツ人医師による いずれにせよ、「ラットキング」はさまざまなポップカルチャーに登場している。このネズミの集団または単に支配的な1匹を指すネズミの王は、はたして本当に存在するのだろうか? 尾が絡み合ったネズミの集団の目撃例ならある。それでも、これまでに「発見」されたラットキングはねつ造だと疑う専門家がいる一方で、事実だと確信する専門家もいる。 「ラットキングは作り話ではありません」と、エストニアのタルトゥ大学自然史博物館の学芸員アンドレイ・ミリューティン氏は主張する。氏はメールで「神やヒューマノイドとは違って、ラットキングは世界のいくつかの博物館で誰もが直接目にし、研究できます。そのうちの2つは、私が今まさにこの文章を書いている、この建物に収蔵されています」と説明した。 「一番好きな動物はネズミ」と言い、縁あってラットキングの研究に携わることになったミリューティン氏だが、ラットキングの発見は決して喜ばしいことではないと強調する。 「実際のところ、ラットキング現象は死刑宣告です。この状態になったネズミは長く苦しむことになります。動き回って食料や水を探すこともできません。さらに悪いことに、自分たちではどうすることもできないのです」
2007年に学術誌「Proceedings of the Estonian Academy of Sciences」に発表されたミリューティン氏の研究によると、2005年以前に、信憑性が高いと思われるラットキングの目撃例は58件あったが、博物館に保存されているのはわずか6件だという。 興味深いことに、いくつかの共通項が明らかになっている。 インドネシアのジャワ島で記録された1件を除き、どのラットキングもクマネズミ(Rattus rattus)によるものだった。発見場所はドイツ、フランス、ポーランド、オランダ、ベルギーに多く、寒波が繰り返し訪れる地域と一致しているように思われた。 そこでミリューティン氏は、ラットキングは、クマネズミが生息する冬が寒い地域で起こりやすいと結論づけた。 どのように尻尾が絡まるかに関しては、誰かが結んだり、もつれ合って結び目ができたりしたのではなく、何らかの粘着性の物質によるものではないかとみている。 2021年にミリューティン氏がエストニア南部で調査した事例では、「尾の結び目は、粘土質の土、鶏糞、わら、羽根が混ざりあってできた、大きなボールのようでした」という。 しかもミリューティン氏が現場に到着したとき、ネズミたちはまだ生きていた。同氏は生きたままのラットキング現象を目撃した、数少ない人間の1人となった。 現地のニュースチャンネルは、オスメス両方の若いクマネズミ13匹が絡まり合った様子を動画に収めている。