<第三者委報告から>(下)組織風土 知事の意向は側近通じて職員に伝達 相互不信生む

告発文書問題を巡り、第三者委が提出した調査報告書

 第三者調査委員会の報告書にこんなくだりがある。

 「使ってみたいな」。斎藤元彦知事の一言に、県の職員は察した。「知事は贈与を希望している」。そして高砂市名産「竜山石」の商品を扱う団体理事長に相談、約4万円相当の湯飲みを譲り受ける。2023年5月のことだ。

 告発文書にあった知事が各団体などから贈答品を受領した疑惑について、第三者委は「贈収賄と評価できる事実はなかった」と結論付けた。一方で竜山石の湯飲みの件のように、知事が要望したとも受け取れる発言が複数あったと記す。

 「知事は普段からあまり多くを語らず、周囲の職員には意向や趣旨をくみ取って動くことを期待していた様子だった」

     ◆   ◆

 一連のパワハラや告発文書への不適切な対応の背景と原因として、第三者委は次の四つを挙げる。

 【1】知事と職員とのコミュニケーション不足【2】知事と側近の「同質的な集団」化【3】知事と側近の批判耐性の弱さ【4】ハラスメント防止規定や公益通報の要綱が十分に機能しない体制。

 20年間続いた井戸県政の刷新を掲げた斎藤知事は就任後、自身の考えや政策を浸透させるために直轄組織「新県政推進室」を立ち上げる。メンバーは主に総務省の官僚時代に知り合った兵庫県の職員で、県庁の部長級幹部は登用しなかった。

 知事の意向は推進室の側近を通して間接的に、職員に伝えられるようになった。第三者委はこの状況が「組織の分断と不透明感、相互不信を生んだ」と指摘する。

 また、側近は知事の叱責(しっせき)を受けるうちに個性を失って知事と「同質化」し、「いさめることができない集団になっていた」とする。

 聞き取り調査に対し、職員からは年長者を中心に「過去はもっとひどいパワハラがあった」「これぐらいは我慢できる」との証言が寄せられた。第三者委はこうした「我慢強い職員風土」がパワハラを温存させていたとみる。そして「真面目に頑張ることは評価すべきだが、就業環境を害することも顧みず、上司の要求に応えようとする職員風土、空気感は改善されなければならない」と求めた。

     ◆   ◆

 斎藤県政発足から3年、庁内は異論を許さない空気感が漂い、「組織的な安全装置が働かない状態にあった」。コミュニケーション不足から認識の齟齬(そご)が生じる中、知事はいら立ちを募らせていく。第三者委は昨年3月20日、告発文書を知った時の心境を推察する。「自身を非難する内容の言説に接し、冷静な判断を欠いたまま違法不当な対応につながった」

 外部機関に判断を委ねることを進言する職員もいたが、知事は耳を傾けなかった、とも記している。

 告発文書にある、プロ野球阪神・オリックスの優勝パレードを巡る補助金疑惑について、第三者委は「キックバックは認められなかった」と判断。ひょうご震災記念21世紀研究機構理事長の急死を巡る疑惑も「死亡とストレスの因果関係は不明」とした。

 だが、いずれも「疑念を生じさせかねない点」「職員が疑問を抱く余地」があったと断じた。

     ◆   ◆

 第三者委は総括として、知事と幹部に「自分とは違う見方もありうると複眼的な思考を行う姿勢を持つべきだ」と求めた。藤本久俊委員長は今月19日の会見で「知事に望むこと」を問われ、諭すように語った。

 「すぐに反論したり、判断したりしないでほしい。ゆっくり報告書を読んでほしい。違う意見もあるかもしれないが、取り入れるところは取り入れよう。そんな姿勢を持っていただけたら」

 斎藤知事は21日、一連の対応は「適切だった」と改めて自身の正当性を主張。一方で「報告書をしっかり読み込んでいく」とも語り、26日以降に見解を表明する意向を示している。(連載取材班)

関連記事: