麻薬カルテルをテロ組織指定の米大統領令、銀行業界を萎縮させる恐れ
トランプ米大統領はメキシコの麻薬カルテルを外国テロ組織に指定することで、金融機関やその他企業に対し萎縮効果を与える可能性がある。たとえ意図的でなくても犯罪者へのサービス提供や金銭支払いで厳しい罰則を科されるかもしれないと恐れるからだ。
元当局者によると、取引の仲介役としての役割を踏まえると、メキシコの銀行業界は融資やその他サービスに対して特に一段と慎重なアプローチを取る可能性が高い。同国の銀行部門は、少数の外資系企業が支配する寡占状態にあり、鉱業や畜産から運輸業や農業に至るまで、麻薬取引と関係があるとされる分野での事業を縮小する可能性があるという。
メキシコの銀行規制当局でマネーロンダリング(資金洗浄)対策部門トップを務めた経歴を持ち、現在は独立系コンサルタントのサンドロ・ガルシア氏はインタビューで、「これは金融システムにとってかつてないほどの難題だ」と指摘。「これにより本人確認手続きが10倍に強化されるだろう」と語った。
トランプ氏は、麻薬取引の根絶に向け麻薬カルテルを外国テロ組織に指定するとした公約を実行した。銀行は、不注意から違法な活動に資金提供してしまうリスクやそれに伴う高額な罰金を強く警戒しており、取引からは数段階離れているとしても関与を控える公算が大きい。
銀行システムは、7兆5000億メキシコ・ペソ(約57兆円)規模の融資ポートフォリオを有し、1日当たり約1400万件の銀行間送金を処理している。法執行当局者によると、麻薬密売組織と直接的に関係しているのはごく一部に過ぎないものの、個人や企業によるみかじめ料や身代金の支払い、その他の裏取引を算定するのは不可能に近いという。
一部の金融機関は、資金処理や貿易金融、二者間の現金管理などの取引を容易にするコルレス銀行サービスを提供しており、違法行為のスクリーニングを一段と複雑にしている。トランプ大統領による指定は、こうした業務を阻害する要因となり、銀行はリスクモデルの再構築を迫られる可能性があると、ガルシア氏は指摘している。
メキシコで事業を手掛ける大手金融機関には、ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)やグルポ・フィナンシエロ・バノルテ、サンタンデール銀行、シティグループ、HSBCホールディングス、ノバスコシア銀行が含まれる。これら銀行にコメントを求めたものの、大半の銀行の担当者はコメントを控えた。
メキシコの銀行協会ABMは、国内銀行が米当局と強固な関係を築いており、マネーロンダリング規制に完全に従っていると説明。広報担当者は、同協会は新たな指定について分析中であり、まもなく見解を発表する予定だと述べた。
カルテルグループがメキシコの広範な地域で勢力を伸ばし、恐喝行為やダミー会社のネットワークへと手を広げていることを踏まえると、影響は銀行だけにとどまらないだろう。新たな大統領令がどの程度まで執行されるかにもよるが、不動産やガソリン販売、警備サービス、自動車部品、その他の製造業など、みかじめ料を支払っているないしは犯罪組織とつながりのあるサプライヤーと取引を行っている恐れのある業界にも影響を及ぼす可能性がある。
どのカルテルや集団を外国テロ組織として認定するかについて、米国務長官は今回の大統領令の発令から14日以内に提言を行う。
原題:Trump’s Terrorist Label for Cartels Is Putting Banks on Edge(抜粋)