超伝導で従来の理論を完全に覆す発見が示した“未知の領域”

2024年、超伝導、つまり電流が抵抗ゼロで流れる現象が3つの異なる物質において発見された。そのうちのふたつは、超伝導現象に関する教科書的な理解の延長線上にあると言えるものだった。しかし3つめは、従来の理論を完全に覆すものだ。「多くの人がありえないと言ったであろう、極めて異例なかたちの超伝導です」と、ハーバード大学の物理学者で、今回の発見には関与していないアシュヴィン・ヴィシュワナスは言う。

1911年にオランダの科学者ヘイケ・カマリン・オンネスによって初めて電気抵抗の消失が観測されて以来、超伝導は物理学者たちを魅了してきた。超伝導が起こる仕組みはいまだ謎である。この現象が発生するためには、電流を運ぶ電子がペアになる必要がある。電子は本来反発し合う性質をもつのに、どうやってペアを形成できるのか?

技術開発への応用には多くの可能性がある。超伝導はすでにMRI装置や強力な粒子加速器の開発を可能にしてきた。この現象がどんなときにどのようにして発生するのかを完全に理解できれば、現在のように低温下のみでなく日常的な条件下で超伝導状態になる電線を開発できるかもしれない。そうなれば、送電ロスのない電力網や磁気で浮上する車両などが常温下で実現され、世界を一変させる可能性もある。

最近の一連の発見は、超伝導の謎をさらに深めると同時に希望も生んでいる。「超伝導はあらゆる物質において起こりうるのかもしれません」と、ワシントン大学の物理学者マシュー・ヤンコウィッツは言う。

今回の発見の土台となったのは、材料科学の分野における最近の革命的な進歩だ。超伝導が新たに観測された3つの例はいずれも、平面の原子層を材料とするデバイスを用いる。それらの2次元材料は、物性を自在に変えられるというこれまでにない柔軟性をもつ──ボタンをひとつ押すだけで、導電性、絶縁性、さらに特異な性質をもつように切り替えられるのだ。超伝導の研究を加速させた、現代の錬金術とも言える革新的技術である。

これにより、超伝導は多様な原因によって起こる可能性が高いと考えられ始めている。鳥やハチやトンボがそれぞれ異なる羽の構造で飛ぶように、材料ごとに異なる方法で電子がペアを形成しているようだ。さまざまな2次元材料における詳細なメカニズムについては研究者たちが議論を続けているが、超伝導を引き起こす材料がさらに見つかることでこの不思議な現象をより普遍的に理解できるだろうと期待されている。

超伝導に魅せられた物理学者たち

カマリン・オンネスの観測結果(および極低温状態の金属で発生する超伝導)の仕組みは長年謎のままだったが、1957年についに解明された。ジョン・バーディーン、レオン・クーパー、ジョン・ロバート・シュリーファーは、低温では物質の原子格子[編註: 固体物質において原子が規則正しく配列した状態の構造のこと]の熱振動が小さくなるために繊細な効果が現れるということを突き止めた。電子が原子格子中の陽子をわずかに内側に引き込み、正電荷の密度が局所的に増えて電荷の偏りが発生する。フォノンと呼ばれるこの変形が別の電子を引き寄せ、「クーパー対」が形成されるのだ。

クーパー対は、単独の電子とは異なり、多くのペアが一体となってコヒーレントな量子状態を形成する。その結果生じた量子のスープは、通常は電流を妨げる物質の原子の間を摩擦なく滑り抜けるので、電流を妨げる抵抗が起こらない。

フォノンを基盤とするこの超伝導理論を導いたバーディーン、クーパー、シュリーファーは、72年にノーベル物理学賞を受賞した。しかし、これが超伝導の全貌ではなかった。80年代、銅を中心金属とする結晶「クプラート」が、原子の振動によりフォノンの効果が消えてしまうはずの比較的高温でも超伝導状態になることが発見され、その後も同様の発見が続いた。

1911年に超伝導を発見したハイケ・カマリン・オンネス(写真左)。しかしその現象の仕組みはアルベルト・アインシュタインをはじめとする著名な物理学者たちも解明できず、50年代になってついにジョン・バーディーン、レオン・クーパー、ジョン・ロバート・シュリーファー(写真右。左から)が、フォノンと呼ばれる原子の振動によって引き起こされることを発見した。

Photographs: Alamy (left); AIP Emilio Segrè Visual Archives (right)

高温超伝導体では原子が特定の配置をしており、それが電子の動きを遅くするようだった。電子の動きがゆっくりになると、それらが集まって特殊な電場を新たに発生させ、そこでは電子が互いに反発せずペアを形成するなどの新たな動きができる。現在、特にクプラートでは電子が原子の間でペア形成の起こりやすい跳び方をするのではないかと考えられている。しかし、ほかの「非従来的な」超伝導体についてはいまだ多くが謎に包まれている。

新たな超伝導体の発見

そして2018年、新たな材料での超伝導が確認され、物理学界の視野を大きく拡げた。

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