24年日本株勝者は金融やバリュー株、日銀利上げと物言う株主が存在感
2024年の日本株相場の上昇は、日本銀行が金融政策の正常化に踏み出す歴史的な転換とアクティビスト(物言う株主)による投資の拡大がもたらしたものであり、市場ではこの構図は来年も継続するとの見方が出ている。
日経平均株価は3月に初めて4万円の大台に乗せ、その後東証株価指数(TOPIX)と共に7月に史上最高値(4万2426円、2946.60)を更新した。日銀が予想に反し今年2度目の利上げを行ったほか、米国経済の先行き懸念が強まった8月に1987年以来の急落を経験したが、その後両指数は反発。20日時点の両指数の年初来上昇率は約15%となっている。
東証33業種の年初来騰落率では上昇率1位が保険業(56%)、銀行業(42%)が3位とTOPIXを大きくアウトパフォーム。日銀が3月に17年ぶりの利上げに踏み切り、7月にも追加利上げを行ったことで利ざやの拡大など事業環境が好転すると期待された。保険株は、政策保有株の削減を打ち出したことも株高の要因だ。
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アクティビストの動きが活発化したことも日本株を押し上げた。ブルームバーグが大量保有報告書などを基に調べたところ、アクテビィストファンドは少なくとも146社に投資し、年間ベースの過去最高を4年ぶりに更新。住友商事や東京ガス、サプリメントによる健康被害と死亡事故を起こした小林製薬などは、ファンドによる投資が判明した後に株価が上昇した。
東京証券取引所は昨春、上場企業に対し資本コストの効率化と株価を意識した経営を求めたことをきっかけに、株価純資産倍率(PBR)が1倍を下回る企業を中心に自社株買いや増配など株主還元策を発表する企業が増加。アクティビストファンドの投資は経営や資本効率の改善に対する市場の期待をさらに高めることになった。
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英ロンドンが拠点のポーラー・キャピタルで日本バリュー・ファンドを共同運用するクリス・スミス氏は「コーポレートガバナンス(企業統治)の圧力を受けて企業が変化するにつれ、市場への参入準備ができている資金はたくさんある」と述べた。
一方、陸運業や電気・ガス業など公益セクター、パルプ・紙など有利子負債が相対的に多く、金利上昇で借り入れコストが増え、収益を圧迫すると懸念されたセクターの年初来騰落率はマイナスとなっている。
自動車を含む輸送用機器、電機など輸出セクターもTOPIXをアンダーパフォーム。外国為替市場の円相場が7月に対ドルで一時161円95銭と約38年ぶりの円安を付けたことが下支えしたが、市場の関心が日銀に移ったこともあり、以前と比べ円相場の変動に左右されにくくなった。
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岸田文雄前政権から石破茂政権に代わっても、世界的に物価が高止まりする中で企業に対し引き続き賃上げを求めている上、日銀もさらなる金融政策の正常化を目指しており、市場では日本のインフレ傾向が25年の日本株相場を支えるとの見方が出ている。トランプ次期米大統領が海外製品に対する関税の導入を示唆し、世界経済の先行きに懸念があることも投資家の目を日本国内に向かせる要因の一つだ。
24年の日本株市場で上昇が目立ったセクターや投資スタイルの詳細と市場関係者の見方を以下で紹介する。
金融
日銀が8年余り続いたマイナス金利政策を見直し、収益面で金利上昇の恩恵を受けるとみられた金融セクターが高騰。業種別上昇率トップの保険株ではSOMPOホールディングスが78%高、MS&ADインシュアランスグループホールディングスが83%高と指数以上に上げ、銀行株では楽天銀行が2.1倍、三井住友フィナンシャルグループやりそなホールディングスは50%超上昇と上げが目立った。
中古車販売会社による自動車保険の不正請求や共同保険料の事前調整問題が発覚した保険株では、金融庁が企業構造の透明化を目指して株式持ち合いに対する監視を強化した結果、政策保有株を縮減する動きが本格化したことも上昇要因だ。
ポーラーのスミス氏は、政策保有株の減少は長期的に有益で、保険料値上げの影響も明らかになるため、保険株の好調は来年も続くだろうと予想。「保険業界は国内の金融サイクルと企業改革の両方の追い風を受けている」と指摘した。
バリュー株
TOPIXのスタイル別指数を見ると、バリュー指数は年初から18%上昇し、グロース指数の10%高を上回る。金利の上昇局面では、株価収益率(PER)やPBRなど投資指標が割安なバリュー株が成長性を評価するグロース株よりも選好されるほか、東証やアクティビストの動きもバリュー株に投資家の目が向いた要因だ。
日興アセットマネジメントの高山純一インベストメント・ディレクターは「市場全体の回復はバリュー株がけん引している」と指摘し、「企業は今、株主価値の向上により重点を置いている」と語った。
全ての企業が株主価値の向上を目指して改革を進めているわけではないが、カナダのコンビニエンスストア大手アリマンタシォン・クシュタールによるセブン&アイ・ホールディングスへの買収提案のような注目度の高い合併・買収(M&A)の動きはより多くの海外アクティビストの市場参入を促し、バリュー株は今後も上昇を続けるだろうと高山氏はみている。
防衛
今年の日経平均銘柄の上昇率上位10社のうち、IHI(3倍)、三菱重工業(2.7倍)、日本製鋼所(2.5倍)、川崎重工業(2.1倍)と4社が防衛関連銘柄だ。
T&Dアセットマネジメントの酒井祐輔氏シニア・トレーダーは、日本を取り巻く地政学リスクへの懸念が中国と台湾の緊張関係や朝鮮半島の政治的不安定によって高まり、投資家がこのセクターに注目したと分析。「防衛問題は日本が避けて通れず、関連株が買われるのは必然」だと言う。
政府による防衛費増強のための政府の増税方針やトランプ次期米大統領の米国第一主義の安全保障方針を背景に、25年は防衛関連分野の株価がさらに上昇する可能性が高いと酒井氏は予想している。