ヘッジファンドのモメンタム戦略総崩れ、ボラティリティーが不意打ち

ヘッジファンドに信頼されてきた単純な戦略が、今年はうまく行かない。大型ハイテク株と米経済の好調を前提とした賭けは、ことごとく敗北している。

  市場の勝ち組に買いを入れ負け組に売りを出すモメンタム投資は、関税に起因するボラティリティー(変動性)の嵐に足をすくわれた。幅広い資産クラスを対象とするトレンド追随型のクオンツファンドをはじめ、ヘッジファンド全般が打撃を受けた。ヘッジファンドは好調な時期には勝ち組取引のエクスポージャーを拡大し、軟調な時期にはリスクを縮小する傾向がある。

  ソシエテ・ジェネラルがまとめた指数によれば、トレンド追随型のヘッジファンドは今年4.3%下落。2014年の同指数開始以来、2番目に悪い成績だ。背景では貿易政策と米経済の力強さに対する不透明感が深まっている。こうしたファンドは先物市場に投資するのが典型的だ。天井知らずの米ハイテク銘柄や大豆、円に至るまで、何もかもが急反転したことが下落の原因だ。

  株式に重点を置いたモメンタム戦略は、3月10日までの4週間で21%下落し、同種の戦略としては最速ペースでの後退を記録。米国の値がさ株に対するセンチメントが悪化する中、ブラックロックが運用する140億ドル(約2兆1000億円)規模の上場投資信託(ETF)からは、8億ドルが引き揚げられた。2年ぶりの大規模な流出だ。同ETFは値上がり率の高い銘柄と連動する。

  株式を上場するヘッジファンドの最大手、マン・グループのアダム・シングルトン氏は「リスク回避と同時にファンダメンタルズが悪化、さらに同じタイミングで地政学的な不確実性も深まっている」と指摘。同社でエクスターナルアルファ戦略の最高投資責任者(CIO)を務めるシングルトン氏は「これらの要素が合わされば、ある時点で圧力が高まり過ぎてモメンタム戦略に損失が生じるようになる」と述べた。

  予測不能な市場はあらゆる投資スタイルに影響。ヘッジファンド・リサーチの指標によれば、ファストマネー戦略86指数のうち、約50が2月は損失を被った。

円ショートは苦境

  トランプ米政権は中国やメキシコ、カナダなど貿易相手国を関税で脅している。米経済の先行き不安でドルが下げ、円をショートにしていたトレーダーは苦しい立場に追い込まれた。

  クオンツファンド運用キャンベルのケビン・コール最高経営責任者(CEO)は「米国例外主義やハイテク、人工知能(AI)といった昨年大成功した戦略の一部が、特に大きく反転したようだ」と指摘する。「そうしたポジションをロングにしていた投資家は、状況が一変したことを実感している」と述べた。同氏が運用する18億ドル規模のマクロファンドは、年初から4.1%上昇。短期のトレードシグナルと為替変動が有利に働いた。

  市場ではまた、その変わりやすさが鮮明になっている。株式相場は2日連続で上昇し、ボラティリティーの指標は最近の高水準から低下した。リスク志向の投資家は一息つけるものの、投資モデルの反応が比較的遅いクオンツファンドは課題を突きつけられている。

波乱は好機

  ロベコでオルタナティブ・アルファ・リサーチを率いるマイク・チェン氏は「アメリカ・ファースト」のテーマ崩壊がファストマネーのトレーダーには新しいチャンスを生み出していると指摘する。

  「システムがショックを受けているのは明らかだ」とチェン氏は先週ニューヨークで開かれたクオンツ戦略会議で発言。「正しいタイプの投資にとってはチャンスだ。相対価値や、マクロ経済のファンダメンタルズに焦点を絞った戦略には、こうした波乱が有利に働くだろう。ただ新たな現実に市場が水準を合わせるのに、もう少し時間がかかるかもしれない」と述べた。

原題:Hedge-Fund Momentum Bets Crater All at Once in Volatile Markets(抜粋)

関連記事: