業務監視ツールや評価AIが病院に導入されたせいで患者へのケアが悪化していると看護師らが主張
近年は企業が従業員の生産性を監視するためのツールが数多く登場しており、中にはAIを利用しているツールもあります。アメリカ最大規模の医療サービス組織・カイザーパーマネンテの看護師らは、職場に導入された監視ツールやAIのせいで、患者へのケアが悪化していると主張しました。
Kaiser nurses say AI, workplace surveillance are making their jobs and patient care worse - Local News Matters
https://localnewsmatters.org/2026/07/15/kaiser-nurses-say-ai-workplace-surveillance-are-making-their-jobs-and-patient-care-worse/アメリカの医療機関には「advice nurse(相談看護師、トリアージ看護師)」と呼ばれる仕事が存在します。相談看護師は電話などで健康に関する相談を受け付けて、家庭での治療が可能なのかや医療機関を受診した方がいいのかといったアドバイスを行い、必要に応じて医師の予約を取ることもあります。
カイザーパーマネンテの相談看護師らは、カリフォルニア州サンフランシスコのローカルメディアであるLocal News Mattersに対し、職場での監視によって患者へのケアが脅かされていると説明しています。相談看護師らによると、患者との通話に15分以上費やすと経営陣から日常的に批判を受けたり、業績評価会議に呼び出されたりするそうです。2010年からカイザーパーマネンテの相談看護師として勤務するラケル・アルバレス・サンチェス氏は、2025年に自殺願望がある患者から電話を受けた際、警察の到着を待つまで1時間以上にわたり電話を切らずに話し続けました。サンチェス氏は患者の自殺を防ぐため、患者自身がケアされていると感じられるように努めましたが、その一方で15分以上話すと平均通話時間が長くなって業績評価に響いてしまうと感じていたとのこと。 労働組合の代表を務めるサンチェス氏は同僚の業績評価会議に同席した際、実際に「15分以上電話をかけ続けていたこと」が問題視されるケースを目にしたと報告しています。この一点だけで相談看護師が解雇されたケースは知らないそうですが、通話時間を短くしろという継続的なプレッシャーにさらされた結果、退職を選ぶ相談看護師も現れる可能性があります。サンチェス氏は、「看護師全員が、平均患者対応時間について一度は注意を受けたことがあると思います」と述べ、カイザーパーマネンテの利益重視の姿勢を批判しました。
カイザーパーマネンテの報復を恐れて匿名で証言した別の相談看護師は、末期がんの診断を受けた高齢患者からの相談を受けました。この患者は末期がんの診断によるショック状態にあったため、相談看護師はじっくり話して思いやりや慰めを示したいと思ったものの、これが業績評価に悪影響を与えて上司から叱責(しっせき)されることを恐れ、長電話になる前に思いとどまってしまったそうです。 この相談看護師は、人々に思いやりのあるケアを提供するために看護師になったのに、「台本から外れたり必要以上に話したりしたら懲戒処分を受けることになるのだろうか?」と自問自答せざるを得なかったと述べています。 相談看護師への電話は治療の一歩目であることが多く、中には複数の症状や慢性疾患を抱える患者からの電話もあります。また、子育てに不安を抱える新生児の親や、人生を変えるような診断を受けて動揺している人など、長時間の電話を必要とするケースも多々あります。それにもかかわらず、相談看護師らは15分以内に電話を切るようにというプレッシャーを受けているとのこと。 また、中には通訳を必要とする電話もあり、この場合は1件の電話に30分以上かかることも多いそうです。カリフォルニア州の環境保健機関によると、カリフォルニア州民の約4割は英語以外の言語を話しており、そのうち半数は英語での会話がうまくできないとのこと。ある相談看護師は、「カイザーパーマネンテが私たちに与えている通話完了までの時間は、場合によっては安全だとは言えません」と語っています。
消費者擁護団体・Consumer Watchdogのミシェル・ラモス氏は、カイザーパーマネンテには過去にも州法で定められているより長く患者の予約を待たせたり、患者を個別療法ではなく集団療法に振り分けたり、薬物乱用障害の治療のための適切な医療提供者ネットワークを維持していなかったり、患者1人あたりの電話対応時間が短い従業員にボーナスを払ったりする問題があったと指摘。「カイザーパーマネンテは長年にわたり、医療の質よりも収益を優先してきたことで知られており、今回の件もそのひとつでしょう。これは患者にとって不利益になります」と述べました。
さらにカイザーパーマネンテは2024年夏、相談看護師と患者の声やトーンをAIで分析し、共感度などを評価するAIツールのテストを開始しました。これに対し看護師らは、患者のプライバシー権や透明性の向上、専門的判断権の行使を求める嘆願書を回覧して署名を集め、経営陣に対して看護師の意見やフィードバックを取り入れるように求めました。 AIツールのテストは2024年11月に終了しましたが、労働組合の代表者らは将来的にこのプログラムが再開される可能性があると伝えられたそうです。サンチェス氏は、「AIを使って私たちの通話を評価し、採点すると言われたことで、看護師への嫌がらせが強まりました」と語っています。別の看護師も、「AIは私たちの仕事内容を理解しておらず、いつも間違った評価をしていました」と主張しました。 10年近く相談看護師として勤務してきたパ・ヴュー氏によると、カイザーパーマネンテの看護師は定期的にマネージャーと通話効率について話し合い、月に一度評価点を受け取っているとのこと。実際にヴュー氏は、異常な症状や心臓疾患の可能性を懸念した患者に同じアドバイスを繰り返したことで、評価点が下がったことがあるそうです。また、看護師が専門的な見地からAIアルゴリズムの推奨に反対したり、医師に相談せず患者の予約を入れたりした場合に低い評価を付けられる場合もあったとしています。 ヴュー氏は、テクノロジーによって加速された効率化が看護師の集中力を阻害し、患者に対するケアの質を低下させる可能性があると考えています。ヴュー氏は、「患者にとって有益である限りAIの利用に反対するつもりはありませんが、今回の特定の利用(共感と声のトーンのモニタリング)は生産性向上・効率改善・コスト削減を目的としています。カイザーパーマネンテは、私たちが単なる顧客サポートのコールセンターではなく看護師であり、患者のケアをするためにいることを忘れているのです」と述べました。 カイザーパーマネンテの広報担当者は、監視ツールは同社の品質保証活動をサポートするものであり、人間によるレビューを受けていると主張。一方でAIツールに関する質問への回答は拒否して、コールセンターや医療施設におけるAIやその他の自動化システムの使用に関する質問にも答えませんでした。
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