「かくれ資産」66兆円、中古品に訪日客が熱視線 チェックド・イン・ジャパンは信頼の証
フリーマーケットアプリの普及や物価高を追い風に、中古品市場が活況となっている。高級ブランド品や中古車などにも裾野が広がり、国内市場は6兆円を超えた。牽引(けんいん)役として比重が高まっているのがインバウンド(訪日客)を中心とした外国人需要だ。使用状態が良く、偽物が少ないことから「ユーズド・イン・ジャパン」(日本で使用)や「チェックド・イン・ジャパン」(日本で鑑定)などとして高く評価されている。
「終活」で出る不要品も
訪日客でにぎわう大阪・心斎橋には中古品店が軒を連ねる一角がある。2010年に移転開業した「KOMEHYO心斎橋店」では、バッグから時計、宝石、衣類まで高級ブランド品がずらりと並ぶ。420万円の仏エルメスの高級バッグ「バーキン」もショーケースに置かれ、定価の数倍に上るものもあった。傷が少なく、希少性が高ければ高値が付くという。
中古品店が立ち並ぶ大阪・心斎橋。訪日客の姿も目立つ=大阪市中央区担当者は「大切に使われ、きれいな状態が多いことから日本の中古品は『ユーズド・イン・ジャパン』と人気を呼んできた。それに加えて専門スタッフや人工知能(AI)などを使った正確な査定評価が『チェックド・イン・ジャパン』となり、さらに支持が高まっている」と話す。
市場は活況で、内閣府が24年に発表した調査報告によると、国内の中古品販売額は22年に6兆2千億円と12年間で倍増。中古車に加え、衣服やブランド品での利用が増えている。
中古品人気を支える消費者の節約志向は、昨今の物価高によるところも大きい。割安に買いたいのと同時に、不要品を売って生活費の足しにしたいニーズも生まれているためだ。高齢化が進む日本では、人生の最期を迎える前に身辺整理する「終活」で出る不要品も多い。フリマアプリ大手メルカリの調査では、日本の家庭に眠る不要品を金額換算した「かくれ資産」が66兆6772億円と5年間で約1・8倍に増えた。
M&Aや新業態立ち上げ活発化
対象となる商品群の広がりで、M&A(企業の合併・買収)や新業態立ち上げの動きも活発化している。
業界大手のバイセルテクノロジーズは24年に買い取り専門のむすび(横浜市)と買い取りサイト「福ちゃん」を展開するレクストホールディングスを買収。年間26万以上の家庭を訪問して着物や切手、ブランド品などを買い取り、通販サイトや店舗で売る手法で事業を広げている。
ハードオフコーポレーション(新潟県新発田(しばた)市)は1993年に市場参入。新品のオーディオ販売を手がけてきた祖業を生かし、中古楽器やオーディオの買い取り・販売店を始め、フィギュアなどが専門の「ホビーオフ」やプロ用工具を集めた「ハードオフ工具館」など7業態に増やしている。専門特化することでその分野の知識が豊富なスタッフを置き、正確な査定につなげている。
同社は米国や東南アジアなど海外出店にも注力。台湾の店舗では日本人形や木彫りのクマなど、日本では在庫になりがちな意外な物が売れるという。「親日感情は間違いなく需要を押し上げている」(長橋健(つよし)専務)といい、中古品における外国人需要の強さが鮮明となっている。(田村慶子)
長持ち商品や修理業に追い風 SOMPOインスティチュート・プラスの小池理人上級研究員
小池理人氏中古品市場が盛り上がる背景には、物価高による昨今の厳しい家計事情がある。「家計の足しに」とさまざまな物を売る人が増え、高齢化が進む中で不要品を処分する機会も増えている。また経済的な側面とは別に、環境意識の高まりも市場拡大に寄与している。
こうした中で日本人が使った物は汚れや傷が少なく、偽物が出回りづらいとの信頼性も相まって、インバウンド(訪日客)からの消費が流れている。
ただこれは裏を返せば、詐欺や模倣品が増えて対応が後手に回れば、信頼を損ない市場が縮むリスクをはらむ。業界では人工知能(AI)技術を用いた査定などの導入も進む。今後も市場が成長を続ける上で、正確な真がん判定の仕組みや詐欺を防ぐ対策をどう構築するかが重要だ。
中古品に消費が流れ、新品の流通市場に影響を及ぼす懸念がある一方、高く売れる物を買い、使おうとする意識も高まっている。このため、高品質で長持ちな商品を手がけるメーカーや修理業には追い風となりそうだ。