ティム・クックが断言「アップルのAIであなたの人生は絶対に変わる」

Photo Illustration: Avishek Das / Getty Images

Text by Ben Cohen

アップルCEOとしての在職期間は、クックのキャリアにおいて最も長いものとなった。しかし、スティーブ・ジョブズの後継者という気の重いポジションに就いてから13年経ったいまでも、大きなイベントの日には緊張するという。 それは、ウォール街が「iPhoneの誕生以来最大かつ、クックがCEOに就任して以来最も重要な日」と評した、2024年の同社の年次開発者会議(WWDC)も例外ではなかった。 2024年6月、この会議の参加者たちが、きらめきを放つ「アップルパーク」を訪れた日は、天気までもがアップルにデザインされたかのように完璧だった。キャンパス内で最初に目にした車は赤いテスラで、ナンバープレートには「VISNPRO」とある。
ほんの数ヵ月前、アップルは空間コンピューティング用のスタイリッシュなヘッドセット「Vision Pro」をリリースしていた。それは、まるで未来に足を踏み入れたような感覚を味わわせてくれるガジェットだ。そしていま、アップルはそれに勝るとも劣らない、野心的な技術を披露しようとしていた。 大歓声のなか、クックはステージに駆け上がった。ジョブズのショーマンシップには及ばないかもしれないが、このイベントでは彼こそがロックスターだ。 観衆に挨拶した後、クックは最前列の隅に座り、幹部たちが代わる代わる登場して、この日の目玉であるApple Intelligenceの機能を披露するさまを見守った。 通知の要約、メールの校正、メールの書き換え(表現方法を「フレンドリー」、「プロフェッショナル」、「簡潔」の3通りに調整できる)、さらにオリジナルの絵文字の生成が可能である。そうした機能が、魅力的ながら恐ろしくもある概念をより身近で心地よいものに再ブランド化するという、巧みな効果ももたらした。 つまりは「人工知能」ではなく、「Apple Intelligence」というわけだ。クックは好んで、「これは私たち全員のためのAIだ」と口にする。
「私たちは世界に先駆けて生成AIを開発したわけではありません」とクックは言う。「ですが、カスタマーにとって最高の方法で実現できたと自負しています」 その「カスタマー」には、クック自身も含まれている。つい最近まで、彼は長文メールを読み通していたが、いまではApple Intelligenceの要約機能に頼っている。 「少しずつでも時間を節約できれば、1日、1週間、1ヵ月単位で見ると大きな違いになります」と彼は言う。Apple Intelligenceが正式リリースされる前から、その機能はクックの生産性と日常的な習慣に影響を及ぼしていた。「人生が変わりました」と彼は言う。「本当に変わったんです」 だが、それは彼のビジネスをどれほど変えるのだろうか。

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