WHOがトランプ氏に脱退再考呼びかけ-代替なしなら資金難に拍車も

トランプ米大統領が20日署名した世界保健機関(WHO)からの脱退を命じる大統領令について、WHOが米国に再考を呼びかけた。今回の動きが世界的な公衆衛生上の安全保障を損ねる恐れがあることを示唆している。

  米国が脱退すれば、WHOは2022-23年に13億ドル(約2030億円)を提供した最大の拠出国である同国以外から資金調達先を探さなくてはならない。米国の資金拠出がなければ、エイズウイルス(HIV)やポリオ、エボラ出血熱、そして最近発生した致死率が高いマールブルグ病などの疾病の抑制に向けたWHOの取り組みがリスクにさらされる恐れがある。

コンゴ民主共和国でエムポックスのワクチン接種を受ける子供ら

  WHOは21日、「われわれは共に天然痘を終わらせ、ポリオも撲滅の寸前まで追い込んだ」と指摘。「WHOは米国人を含む世界の人々の健康と安全を守る重要な役割を担っている」とコメントした。

  トランプ氏の大統領令では、WHOに1年間の猶予が与えられ、代替の資金調達先を見つける時間が確保された。WHO事務局長代行を務めたアンデルス・ノルドストローム氏は、財政状況を考えると、ドイツやフランスといった伝統的な拠出国は恐らく資金提供を拡大することはできないとの見方を示す。

  ノルドストローム氏は、アジアや中東の国々が拠出を増やし、世界的な公衆衛生への影響力も高まると見込んでいる。中国は21日、支持を早速表明し、外務省報道官はWHOの役割は「強化されるべきであり、弱体化されるべきではない」と述べた。

  欧州連合(EU)も米国に再考を促し、加盟国にコミットメントの強化を呼びかけた。

Funding by contributor 2024-2025, updated until November 2024

Source: World Health Organization

  WHOは世界的な公衆衛生上の脅威に対処する上で重要な役割を果たしている。テドロス事務局長は現在、エボラ出血熱に似た症状が特徴のマールブルグ病への対応の調整役として、タンザニアに滞在している。

  WHOは以前からトランプ氏に目をつけられていた。1期目の終わりにも、新型コロナウイルス感染症の拡大初期に中国政府に肩入れし過ぎ、迅速に抑え込まなかったとして、WHOから脱退しようとしていた。当時の動きは感染拡大を許したトランプ政権による対応の責任転嫁を狙った政治的行動だと、公衆衛生の擁護派と民主党議員の双方から幅広く批判を受けた。

  トランプ大統領は20日、「われわれはWHOにだまし取られている」と主張。「誰もが米国からだまし取っている。こうしたことは二度と起こらない」と述べた。

  WHOの22-23年のプログラム予算は67億ドルだった。調達資金の大部分は請負業者とスタッフに費やされ、戦略的活動という点では緊急オペレーションに最も多くの資金が投入されている。

Expenses in the year 2023

Source: World Health Organization

  アドバイザリー企業スパーク・ストリート・アドバイザーズのニナ・シュワルビー最高経営責任者(CEO)は脱退によるWHOへの影響はまず、米国の機関から出向しているスタッフに及び、速やかに帰国することになるだろうと話す。

  シュワルビー氏は米国のWHOへの支払いが遅れ気味であることに加え、今回の大統領令で資金拠出が中断されることから、予想よりも早く財務的な打撃が生じる可能性もあると指摘。「直ちに資金不足に陥る」ことを意味するかもしれないと語った。

  別の主要な拠出団体であるゲイツ財団は自らのコミットメントを改めて表明。WHOについて「米国人を含む全ての人に影響を与える健康上の脅威と闘う上で極めて重要な役割を果たしている 」とコメントした。

  エラスムス大学医療センターのマリオン・クープマンス氏は決定を巡る官僚主義に対する不満など、WHOに対する批判があるかもしれないとしながらも、「露骨に手を引くということは世界に背を向けるということだ」と指摘した。

原題:World Health Organization Urges Trump to Reconsider Exit (3)(抜粋)

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