4年半ぶりビザ免除再開。キャッシュレス社会・中国に渡航する際に絶対必要な準備とは

決済も入場も案内もQRコードが標準になっている。スマホと通信環境は必携だ。

撮影:浦上早苗

日本人が中国を訪れる際に短期滞在のビザを免除する措置が11月30日に再開する。

ビザ免除が再開されるのは約4年半ぶりとなる。渡航のハードルが大きく下がり、観光やビジネスで中国に行きやすくなるが、中国はコロナ禍の間に独自のオンライン化とキャッシュレスが一層進行しており、公共交通機関や観光スポットもモバイル決済と入場が一般的になっている。

今の状況と旅行者が準備しておくべきことを紹介したい。

滞在期間は15日→30日に延長

中国外務省は22日、日本人に対する短期滞在のビザ免除措置を11月30日に実施すると発表した。中国政府は2020年3月、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて同措置を停止。コロナ禍が収束した2023年以降、多くの国に対しビザ免除を実施・再開したが、日本は外されていた。

日本企業や政府からの要望を受け、4年半ぶりにビザ免除が復活する。従来15日としていたビザなしの滞在期間は30日に延長される。実施期間は2025年末までとしている。

筆者がゼロコロナ終了後に初めて中国に渡航したのは2023年6月。この時は観光ビザの取得ですら争奪戦で、「ビザ申請」の予約を入れるまで最短で3週間待ち、そこからビザが下りるまで1週間かかっていたので、航空券を購入したのにビザが間に合わず、渡航を諦めた人もいた。

中国発着のフライトも回復しておらず、日本と結ぶ航空券は片道10万円前後にまで高騰していた(コロナ禍前は往復で4~7万円程度だった)。というわけで、約4年ぶりに訪れた“鎖国”明けの中国は、外国人旅行者の存在を忘れたデジタル・ガラパゴスと化していた。

国際クレカは普及していない。その理由

新しい機械はそもそも現金を受け付けないものが多い。写真は四川省・成都の駅の券売機。

撮影:浦上早苗

中国は以前から国際クレジットカードが使える場所が外国人の利用が多いホテル、レストランに限られている。手数料の高さが敬遠されたからだが、現金以外の決済手段が非常に少なかった故に、2010年代半ばに登場したモバイル決済「アリペイ(支付宝)」「WeChat Pay(微信支付)」が一気に普及し、2018年ごろには日常生活に現金が必要ないキャッシュレス社会に移行した。

コロナ禍で非接触を徹底し、感染源と疑われるものを全て消毒していた中国では、人の手を介する現金も悪者になり、何かにつけ消毒された。また、感染源を追跡するため建物の入退出、交通機関の利用でも携帯番号や身分証明書と紐づいたQRコードが広く使われた。コロナ禍の経験によって、「実名認証」「QRコード決済」が社会システムの標準になった。

昨年6月の渡航時に話を戻そう。

上野動物園で生まれたシャンシャンが暮らす四川省・雅安のケンタッキーに入るとメニューもレジもなかった。暇そうにお喋りしている店員から、スマートフォンでQRコードを読み取って決済するよう説明された。

世界遺産級の観光地でも、チケット売り場が撤去され、オンラインで買うためのQRコードが掲示されていた。

地下鉄やバスはアリペイのミニアプリから「交通乗車QRコード」を取得し、改札でQRコードをかざして入場する。降りる時も同様で、運賃は自動決済される。バスも同様だった。

現金はほとんど使われていない

スマホの充電が切れたら詰むので、いたるところにバッテリー貸出機がある。

撮影:浦上早苗

コロナ禍前に中国のキャッシュレス社会を経験していた筆者はおおむね対応できたが、飲食店でレジがない、世界遺産に登録されている観光地でチケット売り場がない状況には驚きを禁じ得なかった。

WeChat Payは中国の銀行口座と連携していないと使えなかった。アリペイは国際クレジットカードと連携できたが、店舗やシステムによっては、中国の銀行口座と連携していないアカウントを受け付けない。深センの地下鉄もそうだった。

仕方なく券売機で乗車券を買うことにしたが、中国人が誰も使っていないので、ほとんどの券売機が「メンテナンス中」となっていた。

初回の利用時に携帯電話の番号を入力し、SMS(ショートメッセージ)でコードを送ってもらうことが必要なサービスも少なくない。中国の携帯番号でないとだめだったり、身分証明書の番号入力欄が外国のパスポートに対応していなかったり、そんなこんなで高速鉄道のオンライン予約システムも、アリババグループの航空券予約システムも使えなかった。

このような不便極まりない状況は昨年7月以降徐々に改善されていった。

今はWeChat Payも国際クレジットカードと連携して利用できる。同12月に中国に行ったときには、高速鉄道のオンライン予約もできた。今は国際クレジットカードと連携しておけば、だいたいのことはアリペイとWeChat Payで支払えるが、小さな店や地方都市では使えない店やサービスもあると聞く。

かといって現金で払おうとすると、お店の人がお釣りを持っていなかったりする。皆が現金を持たなくなり、スリはずいぶん減ったという。

決済アプリと地図アプリの準備を

飲食店に関してはメニューや価格がすぐ分かるので便利だ。利用履歴も簡単に見れる。

アリペイのミニプログラムから

では今後中国に旅行する人はどんな準備をすればよいか。

必需品と言えるのが国際クレジットカードと紐づけたアリペイ、WeChat Payのアカウント。そして現地の地図アプリ「百度地図」「高徳地図」のいずれかだ。中国ではGoogleのサービスがブロックされているので、Google Mapが役に立たない。一方、中国のアプリを入れておけば、公共交通機関に乗った時に、降りる駅が近づくとお知らせしてくれる。

飲食店や小売店は基本的にアリペイ、WeChat Payの両方が使えるが、公共交通機関や観光スポットの入場券はどちらか一方しか利用できないことがままある。

日本の外食チェーンでもモバイルオーダーの導入が進んでいる。中国は店舗のアプリがアリペイ、WeChat Payの中にぎゅっと収められているイメージだ。日本でモバイルオーダーを使い慣れている人は、中国の買い物や飲食もすぐに適応できるはずだ。

飲食店の注文はテーブルに貼ってあるQRコードを読み取り、メニューを表示して料理やドリンクを選び、注文ボタンを押すのが基本。決済もQRコードを読み取って行う。

2019年に中国でこのシステムを初体験した際は、正直「店員は何をしてるのだ」と思った。店員は料理を運んだりテーブルを片づける以外は客と同じように座ってくつろいでいたからだ。だが写真を見て選ぶことができるし会計金額も逐次確認できるので、使い慣れると外国人にとってはかなり便利なシステムでもある。

カフェもスマホでオーダーして番号で受け取り待ちをするだけなので、一度経験するととても簡単だ。

ちなみに中国人と食事をすると会計時に「私が払う」とレジに行くまで伝票の取り合いになることがよくあったが、今はQRコードの読み取りを巡って争うことになる。筆者が読み取ろうとすると近くにあるティッシュ箱や手で隠されたり、テーブルを引っ張られたりする。自分がおごりたい場合は、QRコードをすぐ読み取れる席に着席しよう。

コロナ禍の産物で、中国のホテルではしょっちゅう配送ロボットを見かける。

撮影:浦上早苗

近場の移動なら地下鉄か配車サービス「DiDi(滴滴出行)」を使う。DiDiもWeChatやアリペイのミニアプリからGrabやUberと同じように操作できる。

Uberと違うのは中国のDiDiは正規のタクシーと民間ドライバーの両方に対応している点。値段はそう変わらないので、中国に慣れていないなら正規のタクシーを呼ぶことをお勧めする。

中国の運転手はすぐに電話してくる。路上で呼ぶとそこが一時駐車できなかったり、一方通行だったりして、電話で連絡を取りながら調整することが少なくない。車を停めやすいホテルや建物にピンを差して、双方がすぐ会えるようにすることをお勧めする。

運転手が乗客を簡単に見つけられないとき、中国の携帯番号を持っていないと到着後数分でキャンセルされたり、乗車できても「あなたの電話番号がないから連絡できずに困った」としばらく文句を言われることもある。タクシーは何度乗っても「いろんなドライバーがいるなあ」と思ってしまう。

ここまで読むと分かるだろうが、中国はスマートフォンと通信環境が命綱だ。Wi-Fiだけに頼って過ごすのはリスクが大きいので、日本のキャリアの海外ローミングを利用するか、日本のECサイトでプリペイドSIMを買っておきたい。中国の主要空港でもプリペイドSIMは販売している。

サービスの質は上がっている

宿泊施設や飲食店のレベルは急激に上がっている。写真は2023年夏に訪れた四川省・青城山の温泉宿。客室に半露天風呂が設置されていた。

画像:浦上早苗

モバイルオーダー、QRコード決済は日本でも浸透しつつあるので、そこまでハードルは高くない。より大きな壁は、中国の携帯番号や銀行口座を持っていないと使えないサービスが時々あることだろう。

ただ、筆者の経験からすると、多くの中国人が「中国は特殊なキャッシュレス社会が構築されており外国人には分かりにくい」ことを認識しているため、手間取っているといろいろと教えてくれることがほとんどだった。

配車アプリを使いこなせない筆者に苛立っていたタクシー運転手も、こちらが外国人と分かった途端、「!」という反応をして優しくなった。困ったときは早めに「私は外国人だから分からない」とSOSを出すといい。

中国はサービスの質が低いことで有名だったが、このあたりもコロナ禍の間に激変しており、飲食店で無料のお茶が出てきたり(以前はなかった)、従業員が笑顔で対応してくれるのは一般的になりつつある。

昨秋の上海訪問時にはホテルの朝食会場で写真を撮っていたら、スタッフが飛んできて「何か問題がありましたか」と聞かれた。SNSやレビューサイトに悪評を投稿されるのを心配したのだろう。

くしゃくしゃになったお札やお釣りを投げて寄こしてきた時代を知っていると、隔世の感がある。日本人が巻き込まれる事件が複数発生しており、現地に住む日本人の警戒度は上がっているが、大都市や典型的な観光地の飲食店や店舗で差別的な扱いを受けることは滅多にない。心配ならショッピングモールのチェーン店を利用することをお勧めする。

浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。「新型コロナ VS 中国14億人」「崖っぷち母子 仕事と子育てに詰んで中国へ飛ぶ」(大和書房)。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。

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