日本で参院選、自公が過半数割れ確実に 衆参両院で少数与党に
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日本の参議院選挙が20日に投開票された。国内主要メディアは21日早朝までに、開票結果や出口調査をもとに、与党の自民党と公明党が議席を減らし、非改選を含めた参院(定数248)全体で過半数(125議席)を維持できなくなったと伝えた。石破茂首相の責任論が高まることも予想されるが、石破氏は21日、「国政に停滞を招かない」ことが最も重要と述べ、続投の意向を正式に示した。
物価上昇とアメリカの関税の脅威に日本が直面する中で行われた今回の参院選で、自公両党が過半数維持に必要だった改選50議席に届かなかったと、NHKなどの国内メディアは報じている。
複数報道によると、開票の結果、自民党は今回と非改選を合わせて計101議席と、選挙前の114議席から減らした。公明党は計21議席で、選挙前の27議席から減らした。公示前の自公は計141議席だったが、今回の選挙の結果、自公は計122議席になった。
野党は計126議席の見通し。立憲民主党が改選22議席を得て、公示前と同じ計38議席を維持。国民民主党と参政党は、共に大幅に議席を増やした。公示前の議席が9議席(改選4議席)だった国民民主党は17議席を獲得。非改選5議席と合わせて計22議席となる。同様に公示前に2議席(同1議席)だった参政党は、14議席を獲得し、計15議席の勢力になる。
共同通信によると、同日午後9時の推定投票率(選挙区)は57.50%で、前回2022年の52.05%を約5ポイント上回る可能性がある。NHKの推定では、57.91%前後になる見通しという。
投票日から一夜明けた21日午後、自民党本部で記者経験した石破首相は、今回の選挙結果を「真摯(しんし)に謙虚に受け止めなければならない」と考えているとしたうえで、アメリカとの関税交渉や国内の物価高、明日起きるかもしれない自然災害、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境、「国難とも言える厳しい状況」に直面している中で「いま最も重要なのは国政に停滞を招かない」ことだとして、「今般の選挙結果に対する重大な責任を痛感しながらも、政治を停滞させないよう、漂流させないよう」、「比較第一党としての責任、国家・国民の皆様への責任を果たしていかなければならないと考えております」と述べ、首相続投の意思を示した。
さらに、記者会見に先立ち公明党の斉藤鉄夫代表らと会談したことに触れ、引き続き公明党と連携して政権運営にあたっていくと表明。加えて、公明党以外の他党と「真剣に真摯に」協議していく姿勢を示しつつ、「これから先はいばらの道」だが「赤心奉国(せきしんほうこく)の思いで国政にあたって参ります」と強調した。
アメリカとの関税交渉については、「日米双方にとって利益となる合意を実現する」、「私自身もできる限り早期にトランプ大統領と直接話をし、目に見える成果を出して参りたい」との考えを示した。物価高対策には、成長への投資加速や賃上げ促進を基本に、党派を超えた協議を呼び掛けていくとした。
記者団から、「続投期限を区切る考えはあるか」と質問されたのに対しては、「『いつまで』という期限を今、考えているわけではない」と答え、内外の喫緊の課題について解決の道筋をつけて全力で対応すると述べた。
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衆議院ではすでに、与党が過半数を割り込んでいる。NHKによると、自民党が中心の政権にとって、衆参両院で少数与党となるのは1955年の結党以来初めてだという。
自民党総裁の石破首相は、「非改選を含めて自公で過半数」を勝敗ラインにしていた。しかし、与党で改選50議席に届かず、目標が達成できないのは確実な情勢のため、石破氏の首相退陣論が高まり政情が不安定になる可能性がある。
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石破氏は開票中の20日午後10時ごろ、NHKの生放送のインタビューで、与党で過半数確保が困難な情勢について問われると、「この厳しい情勢というもの、本当に謙虚に真摯に受け止めなければいけないと思っています」と述べた。
選挙戦で掲げた目標を達成できなかった場合の進退を含めた責任については、「まだ開票が続いていますので、あまり軽々なことは申し上げられないと思っています」と話した。それは続投するということか、という問いには、「最終的な結果をみなければどうにもなりませんが、責任というものをきちんと果たすということはよく自覚したい」と答えた。
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今回の選挙では、若い有権者を引きつけようとソーシャルメディアを活用してきた参政党の人気の高まりが注目された。
世論調査によると、同党の「日本人ファースト」のスローガンが、一部の保守派の心をつかんだとみられる。ただ、同党の外国人に対する強硬な姿勢は、批判も呼んできた。
同党は、移民に関して厳格な規則と制限を主張している。また、「グローバリズム」と「過激な」ジェンダー政策に反対し、脱炭素化とワクチン接種に関して見直しを求めている。
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今回の結果の見通しは、コメの価格を含めた生活費の高騰やアメリカとの通商交渉など難問が山積する中、石破首相に対する有権者の不満を浮き彫りにしたものとなっている。石破氏は国民の信頼を得るのに苦戦している。
有権者の多くは、自民党にまつわる一連の政治スキャンダルにも、強い不満を抱いている。
過去に参議院で過半数を失った自民党の首相3人は、いずれも2カ月以内に辞任している。それだけに多くの専門家は、今回の参院選で自民党が大きく後退した場合も同様の展開になると予測してきた。
仮に石破首相退陣となった場合は、昨年の自民党総裁選で石破氏に次ぐ2位となった高市早苗氏、元経済安全保障担当相の小林鷹之氏、小泉純一郎元首相の息子の小泉進次郎農水相など、自民党の他の有力議員らが党首選に出馬する可能性が出てくる。
与党の指導者交代は、アメリカとの通商交渉が重要局面を迎える中で、日本政府に政治的混乱をもたらし、不安定化させるのは確実だ。
与党・自公に対する支持は、右派の小規模政党・参政党によって浸食された。「日本人ファースト」や反移民的な主張で保守層の票を集めた同党は、新型コロナウイルスのパンデミック中にユーチューブで注目を集め、ワクチンに関する陰謀論や、「闇のエリート層が世界で暗躍している」などの陰謀論を拡散した。
外国人住民や移民政策が今回の選挙戦で争点の一つとなる中、参政党の極端で排外的なレトリックが支持を広げた。
孤立主義的な文化と厳格な移民政策で知られる島国・日本では近年、「オーバーツーリズム」と言われる観光客急増による国内の日常への影響が課題となっているほか、外国人住民の数が過去最多を記録している。
こうした外国人の流入急増のため日本人の生活費がこれまで以上に高騰している、あるいは外国人が日本を利用している――などの不満が、国内の一部で高まっている。
こうした状況を背景に石破首相は先週、「一部の外国人による犯罪や迷惑行為」に対処するためのタスクフォースを立ち上げた。対象とする問題には、移民、土地取得、社会保険料の未払いなども含まれている。
神田外語大学で講師を務めるジェフリー・ホール氏はBBCに対して、自民党よりさらに右寄りの政党への支持が高まることで、自民党の支持基盤が崩れたと話した。
「安倍晋三元首相の支持者たちにとって、石破首相は保守ぶりが足りない」のだと、ホール氏は言う。「石破氏はナショナリストな歴史観を抱いていない、安倍氏に比べて中国に対して強硬姿勢ではないと、安倍氏の支持者たちからは思われている」。
そのため、自民党支持層の一部が参政党に移ったのだと、ホール氏は説明。参政党は「陰謀論や反外国的な発言、歴史に関するきわめて強力な修正主義的見解」を抱いているため、同党の議員は今後「これまで参議院議員が公の場で口にしたことのないような発言」をしていくだろうと予測した。