ドイツ総選挙、強硬右派躍進の背景に「反移民」感情噴出&物価高騰への不満…右派への拒否感に変化

 【ベルリン=工藤彩香】23日に投開票されたドイツ連邦議会(下院、定数630)選挙でショルツ首相が所属する中道左派の与党・社会民主党(SPD)が大敗したのは、移民問題の深刻化と経済の低迷を背景に、現状への不満が噴出したためだ。不満の受け皿となった強硬右派が躍進し、ドイツ社会の変化が改めて浮き彫りになった。

23日、ベルリンで、総選挙の出口調査の結果を見守るSPDのショルツ首相=ロイター

 「私の責任だ」。ショルツ氏は23日夜、苦渋の表情で敗戦の弁を述べた。2021年の前回総選挙で25・7%を獲得したSPDは今回、16・4%と歴史的惨敗を喫した。

23日、ベルリンで、総選挙の出口調査の結果に笑顔を見せるAfDのアリス・ワイデル共同党首(中央)ら=ロイター

 大きく得票を伸ばしたのが、反移民を鮮明にする強硬右派「ドイツのための選択肢(AfD)」だ。得票率は前回の10・4%から20・8%に倍増し、中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)に次ぐ第2党の座を確保した。浮動票の多くがAfDに流れた可能性がある。

ドイツ連邦議会の勢力比較

 ドイツでは戦後、ナチス時代への反省から、世論は右派勢力に対して強い拒否感を示してきた経緯があり、強硬右派の躍進は衝撃的な現象と受け止められている。

 AfDは、トランプ米大統領が掲げる「米国を再び偉大に」のスローガンを 彷彿(ほうふつ) とさせる「ドイツを再び偉大に」を旗印に、移民排除の姿勢を鮮明にして選挙戦を争った。アリス・ワイデル共同党首は「ドイツの文化と価値観を守る」と主張し、ショルツ政権の寛容な移民政策からの方針転換を繰り返し呼びかけていた。

 投票日の2週間前には、南部ミュンヘンで、アフガニスタン国籍の難民申請者が車を暴走させて多数が死傷する事件があり、AfDに追い風となった。米実業家イーロン・マスク氏がAfDの選挙集会にオンライン出演し、「AfDはドイツの希望だ」と露骨に後押ししたことも選挙結果に影響したとみられる。

 移民問題と並んで争点となったのが経済政策だ。

 欧州では新型コロナ対策に伴う財政出動と、ウクライナ侵略に伴うロシア産エネルギー資源の締め出しで物価の高騰が続いている。ドイツも例外ではなく、国民の不満が高まっていた。地域別では、平均所得が低く、経済低迷の打撃を受けやすい旧東独でAfDの勢いが目立った。

 ショルツ氏個人の魅力の乏しさも指摘される。前任のアンゲラ・メルケル氏に比べて国際的存在感は薄く、国内政治でも指導力を発揮する場面は少なかった。

 選挙管理委員会の暫定結果によると、CDU・CSUは208議席で単独過半数(316議席)に届かず、他党と連立を組む必要がある。ただ、連立交渉は難航が予想され、新政権発足には数か月かかる可能性がある。CDU・CSUはSPDとの「大連立」を目指す方針だが、移民政策などを巡っては隔たりが大きく、予断を許さない状況だ。

 今回躍進したAfDが連立与党入りする可能性は低い。CDU・CSUは先月、不法移民の取り締まり強化でAfDと共同歩調をとったところ、国内で猛批判を浴びたため、AfDとは交渉しないと明言している。

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