トランプ米大統領の北米関税措置、アジアの同盟国への影響避けられず
トランプ米大統領が計画するメキシコとカナダへの関税発動は、アジアにおける米国の最も緊密な同盟国にも打撃を与えそうだ。
メキシコとカナダの工場から米国市場に製品を供給する日本の自動車メーカー、そして韓国の自動車、鉄鋼、バッテリーメーカーは、トランプ大統領がメキシコとカナダに25%の関税を課したことで板挟みの状態に陥っている。3日の日本株は急落し、主要株価指数は昨年9月以来の下落率を記録。韓国総合株価指数は前週末比2.5%下落した。
米国のメキシコとカナダへの関税措置の影響について、ある推計によれば、日本の自動車メーカーの対米輸出による年間利益は合計で100億ドル(約1兆5500億円)減少する可能性がある。カナダとメキシコ両政府は4日に発効予定の米関税計画への対抗措置を講じる構えを示しており、利益はさらに悪化する恐れがある。
安全保障で米国と連携する他の地域も身構えている。台湾政府は3日、米国の関税引き上げへの対応策として、米アップルのスマートフォン「iPhone」を受託生産する鴻海精密工業など、メキシコで事業を行う企業が生産ラインや投資を必要に応じて変更できるように支援すると表明した。
韓国の元産業通商資源省通商交渉本部長で、現在ピーターソン国際経済研究所のシニアフェローである呂翰九氏は、「企業はパニック状態にあると言えるだろう。トランプ政権下で関税合戦がどうエスカレートするのか、現時点で企業は把握できていない」と語った。
Trump’s Tariff Threat Hangs Over Four-Million-Vehicle Industry
Source: Mexican Automotive Industry Association
日本や韓国、台湾にとってトランプ関税への対応は重要性が高く、それは単に経済面での理由だけではない。日本と韓国には最大規模の海外米軍基地があり、アジア諸国は中国や北朝鮮に対する抑止力として米軍に大きく依存し続けている。1日に行われたヘグセス米国防長官と中谷元防衛相の電話会談では、日米同盟強化への取り組みを継続することで合意した。
オーストラリアのカー元外相は、カナダのような国に対するトランプ大統領の行動は、他国に圧力をかける際に同盟関係を考慮する可能性が低いことを示していると述べた。米国はカナダとメキシコに25%の関税を課すが、中国に対しては10%の追加関税だ。
カー氏は「価値観の共有や同盟国であることを涙ながらに祝うことはあり得ない。同時に『わたしたちは君たちを敵として扱っている』と言っている」と述べた。
関税を巡る論争は、今週ワシントンを訪問し、トランプ大統領と初の直接会談を予定している石破茂首相にとっても不吉な兆候だ。トランプ氏は過去にも、日本の自動車メーカーは不公正だと指摘したり、日本の対米貿易黒字に不満を示したりしている。ただ、先月ホワイトハウスに復帰してから、こうした問題には言及していない。
日本の政府当局者によると、石破首相は米国における日本企業の大型投資と雇用創出を強調する予定だ。このメッセージは、今後4年間で1000億ドルを米国に投資し、10万人の雇用を創出するというソフトバンクグループの最近の発表も後ろ盾となるだろう。首相自身、韓国でも検討されている米国産の石油やガスの購入を拡大する新たな取引の可能性を示唆した。
韓国の崔相穆大統領代行は国内の輸出業者と面会し、「あらゆる手段を講じる」と支援を約束した。韓国政府は最近、トランプ氏の貿易政策についてより具体的な情報を得るために実務者レベルのチームをワシントンに派遣し、韓国企業への影響を最小限に抑えるための行動計画を策定中だと政府高官は述べている。
Manufacturers exported about 2.77 million vehicles to the US last year
Source: Mexico’s National Institute of Statistics and Geography
トランプ氏は、カナダとメキシコに対する今回の関税計画は麻薬や移民の流入による安全保障上の脅威への対応を意図したものだと説明する一方、貿易不均衡の是正を図るための関税を準備しているとも述べている。2日には欧州連合(EU)に対し、新たな関税を「間違いなく」課すことを改めて表明した。
米国によるメキシコとカナダへの関税措置で日本が最も影響が出るのは自動車産業だろう。メキシコ国立統計地理情報院によると、日本企業は昨年、米国に輸出した自動車277万台のうち約半分をメキシコから出荷した。
シティグループは、メキシコとカナダで事業展開する日本の大手自動車メーカー4社の年間利益の合計減少額を1兆5800億円(約102億ドル)と推定している。トヨタ自動車はメキシコのバハカリフォルニア州とグアナフアト州の2カ所に生産拠点があり、ピックアップトラックの「タコマ」を組み立てている。両拠点で北米市場向けに年間約26万台を生産している。
日本企業の中でメキシコから米国市場に最も多く自動車を輸出しているのは、業績不振の日産自動車だ。同社の広報担当者によると、23年の日産の米国販売台数のほぼ4分の1をメキシコで生産された車が占めた。
韓国の自動車メーカーでは、起亜自動車が唯一メキシコで事業を展開。韓国企業はメキシコで鉄鋼、カナダでバッテリーの事業も行っている。
韓国の鉄鋼大手ポスコは、メキシコにある亜鉛メッキ鋼板、圧延鋼板、線材加工の工場から自動車や家電のメーカーに供給している。同社はブルームバーグの取材に対し、トランプ大統領の関税政策を注視していくと述べた。
日本の経済産業省は2日、米国の関税措置の影響を受ける可能性がある企業を対象に相談窓口を設置したと発表した。
日本貿易振興機構(ジェトロ)ニューヨーク事務所の調査担当ディレクター、赤平大寿氏はリポートで、「北米で生産される自動車は、原材料から完成車として輸出されるまでに平均で8回国境を越えるといわれている」と指摘。「メキシコに追加関税が課されれば影響は大きくなる」との見方を示した。
原題:Trump’s Tariffs on North America Also Set to Pummel Asian Allies(抜粋)