「築古・住民高齢化」マンション、資産価値低いと限らず

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不動産コンサルタントの田中歩氏が、マイホーム選びの様々なポイントを解説する「20代からのマイホーム考」。今回のテーマは築年数が古く、居住者も高齢化したマンションの資産価値についてです。

先日、国土交通省が今年6月に公表した「2023年度マンション総合調査結果」をみた人から「古い分譲マンションは高齢者世帯が多く、空室や滞納の割合が多くなるようで不安だ」との声を聞きました。国土交通省のウェブサイトでも「高経年マンションに居住する70歳以上の世帯主が半数以上に」といったタイトルが付いており、マンションの老朽化と居住者の高齢化に焦点が当たっているようです。今回はこの調査結果について私の見解をお話ししたいと思います。

この調査は国土交通省が5年に1度、マンション管理の実態を把握するため、管理組合や区分所有者を対象に実施しています。調査結果の中には、マンションの完成年次別にみた複数のデータがあります。

例えば完成年次別にみた世帯主の年齢割合は次のグラフの通りとなっており、60歳代以上の世帯主は1984年以前に完成したマンションだと約76%、2005〜14年に完成したマンションだと約36%ですからかなりの差です。

同様に、空室戸数(3カ月以上)が1戸以上あるマンションの割合、空室のうち所有者が不明または連絡先不明が1戸以上あるマンションの割合、管理費または修繕積立金の滞納(3カ月以上)をしている住戸が1戸以上あるマンションの割合などが完成年次別の調査結果として報告されており、筆者はこれらを抜粋して以下の表にまとめてみました。

数字だけを見ると、築年数が経過するのに伴い、高齢の世帯主が多くなる傾向が強く、また空室や所有者不明の住戸の比率や、建物を維持修繕するための修繕積立金などの滞納の発生率も高まるという傾向が見て取れます。

築年数が古いことや高齢者世帯が多いことだけが、空室や所有者不明などの戸数、滞納している戸数の割合が高まる原因なのでしょうか。筆者は大都市圏などの需要のある立地にマンションがあるかないかが大きな原因ではないかと考えています。

空室であっても、「売り出せば売れる」ならば空室は解消できます。「老人ホームへ入所したので、売るつもりがないけれど当面は空室にしておきたい」という場合も、相続が発生すれば相続人が売却するというケースが多く、これも空室の解消につながっています。

所有者不明などの戸数が増えるというのは、相続が発生したものの「売るに売れない資産」なので相続登記をしていないというケースが想定されます(今年から相続登記は義務化されています)。売って一定の現金が手に入る資産なら、相続人は相続登記をして現金化しようとするのが一般的です。

滞納は所有者本人の資力の低下が考えられますが、相続登記がなされないことによって債権の回収先が分からなくなったケース(所有者不明など)による滞納が大きな問題となります。これも、売ってある程度の現金が回収可能なマンションであれば、問題は解消される可能性が高いと筆者は考えています。

築年数が古く、高齢者世帯が多いマンションでも、区分所有者で構成する管理組合の活動が活発な場合、マンションの維持管理は比較的適切にされています。大都市圏に立地している場合は売れ行きも悪くありません。

先日、千葉県の船橋駅から徒歩8分、築50年超の中古マンション取引にかかわりました。売り主は80代の女性、買い主は20代の若い夫婦でした。そのマンションは高齢者世帯も多いのですが、空き室が出ると若い世帯が購入するというサイクルが生まれている例の一つでした。管理組合の活動もこうした若い世代が加わることで活発な議論がなされているようでした。

マンションの資産価値は、立地と管理で決まると筆者は思っています。古いマンションの場合、管理組合が問題意識を持って主体的に活動しているほうがよりよい管理が実現していることが多いようです。管理組合が発行している総会議案書と議事録を数期分読んでみると、そのマンションの課題や活動内容がよく分かります。チェックしてみるといいでしょう。

(20代からのマイホーム考 第114回)

田中歩(たなか・あゆみ)1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、「あゆみリアルティーサービス」を設立。不動産・相続コンサルティングを軸にした仲介サービスを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」にも参画。
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