「歌を忘れたカナリア」 旧ジャニーズ問題で沈黙したメディアに警鐘

記者会見をする「ジャニーズ性加害問題当事者の会」(現在は解散)のメンバーら=東京都千代田区で2023年9月7日午後4時15分、玉城達郎撮影

 オールドメディアは「報道しない自由」を振りかざしている――。

 新聞やテレビ局が人々の知る権利に応えていないと皮肉る言葉が、よく聞かれる。

 不信に拍車をかけたのが、旧ジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏による性加害問題だ。

 『なぜ日本のメディアはジャニーズ問題を報じられなかったのか』(平凡社新書)を刊行したメディア評論家の柴山哲也さんは、記者が沈黙した要因を「人権意識の欠如」にみる。

 「価値観をアップデートできなかった業界の構造的問題に目を向けるべきです」

 メディアに<歌を忘れたカナリア>と警鐘を鳴らす柴山さんに話を聞いた。

不信は「ツケの表れ」

 「オールドメディア批判は、ツケの表れ。今気づかないとアウトですよ」

 長年にわたって大手メディアを「内」と「外」から見つめてきた。

 1970年に朝日新聞社に入社し、週刊誌「朝日ジャーナル」編集部などに所属。94年に退社後、米国のシンクタンクで日米メディアの比較研究に携わり、帰国後は京都女子大や立命館大で教えた。

 本書で取り上げるのは、ジャニーズ、宝塚歌劇団員が死亡した問題、元TBS記者の性暴力を告発したジャーナリストの伊藤詩織さんの事案など、日本の大手メディアが発覚当初、積極的に報じなかったニュースだ。根底にある問題を多角的に検証する。

きっかけはBBC

 表題のジャニーズ問題を振り返る。

 88年に元ジャニーズの北公次氏が著書で被害を告発し、99年に週刊文春がキャンペーン報道を展開。事務所は同年、文芸春秋を名誉毀損(きそん)で提訴したが、2004年にジャニー氏の加害行為を認定した東京高裁判決が最高裁で確定している。

 だが新聞やテレビは独自に調査して報道することはおろか、こうした事実すら大きく報じなかった。重い腰を上げたのは、ジャニー氏死去から4年後の23年、英BBCがドキュメンタリー番組を放送した後のことだ。事務所設置の外部専門家による再発防止特別チームは、被害拡大の背景に「マスメディアの沈黙」があったと指摘した。

 なぜ報じなかったのか。

 指摘を重く受け、複数のテレビ局は23年に局内の検証内容を報じた。「週刊誌の芸能ネタと片付けてしまった」「男性への性加害に鈍感だった」との証言が聞かれたほか、「事務所を怒らせたら面倒くさい」とトラブルを避ける思考が働いたことも紹介。日々の番組編成でも事務所への過剰なそんたくがあったことが伝えられた。

 新聞社も自己検証し、毎日新聞は第三者機関「開かれた新聞委員会」で経緯を報告。「刑事事件にならず、取材しにくい、裏がとれない、という感じがあった」などと説明した。

 だが柴山さんは各社の検証を「まだ甘い」と批判する。…

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