朝日新聞は「原発回帰」が悔しい? 「脱原発」の欧州が続々転向

欧州の原発回帰を報じる朝日新聞(記事部分は見えないように加工しています)

 朝日新聞が9月22日、欧州で広がる「原発回帰」を1面で報じていました。朝日新聞といえば、原発について慎重な論調を続けてきた新聞です。社説(2025年7月23日)でも「長い時間がかかっても、原発に頼らない社会をめざすべきだ」と明確に主張しています。

 その朝日新聞が「欧州で原発回帰が進んでいる」という現実を伝えなければならなくなったところに、エネルギー政策をめぐる時代の変化を感じます。少し意地悪な読み方をすれば、どことなく「悔しさ」がにじんでいるようにも感じます。

 しかし、これは朝日新聞だけの問題ではありません。2011年福島第一原発事故後、「脱原発」に向かうと考えられていた世界のエネルギー政策そのものが、大きく変わってしまったのです。

「脱原発」の欧州で何が起きているのか

 欧州では福島第一原発事故後、原発への逆風が強まりました。ドイツは2023年に最後の原発を停止し、脱原発を完了しました。ところが、その後、状況が変わります。ロシアによるウクライナ侵攻や国際情勢の緊迫化によって、天然ガスや石油を海外に依存すること自体が国家安全保障上のリスクだと認識されるようになりました。

 さらに脱炭素を進めながら、AIやデータセンターなどによって増加する電力需要にも対応しなければなりません。「脱炭素」「安定供給」「エネルギー安全保障」という三つの課題を同時に解こうとすると、原発を簡単には手放せないのが現状です。

 実際、EUではベルギーが2025年に新設容認、スウェーデンが2022年に新設禁止の方針を撤回、スイスも2025年に新設禁止を撤廃する方針を示しています。

 欧州委員会も2026年、まだ安全に利用できる既存原発を早期に閉鎖しないよう加盟国に促す方向を示しています。EUの原発による発電量は2024年に前年比4.8%増加し、EU全体の発電量の23.3%を占めました(欧州委員会=5月19日)。

原発やめたイタリアまで動き始めた

 象徴的なのがイタリアです。イタリアは1987年の国民投票を経て原発から撤退しましたが、現在、原発を約40年ぶりに再び可能にするための制度整備が進んでいます。

 さらにフランス電力(EDF)は、2035年までにEU域内で10基の小型モジュール炉(SMR)を建設する構想を明らかにしました。第1号をフランス、もう1基をイタリアに建設することを想定し、ポーランド、ベルギー、フィンランドとも協議していると報じられています(ロイター=9月18日)。かつて「原発から撤退した国」に、新しい原発が建つ可能性が出てきたわけです。

 この動きは欧州だけではありません。国際原子力機関(IAEA)によると、2024年末時点で世界では417基、377GWの原発が稼働し、62基、64.5GWが建設中でした。特に中国の存在感は大きく、建設中の原発容量の46%を占めています(IAEAレポート)。

 米国でも、停止した原発を再稼働させる動きが出ています。背景にはAIやデータセンターによる電力需要の増加があります。世界銀行も2025年、IAEAとの協力協定を結び、数十年ぶりに原子力分野への関与を再開しました。「原発は先進国が捨てていく古いエネルギー」という10年ほど前までのイメージでは、現在の世界の動きを説明できなくなっています。

「変化していく現実」を直視

 世界で原発回帰が進んでいるからといって、原発が抱える問題がなくなったわけではありません。新設原発には巨額の建設費がかかり、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分という難題も残ります。福島第一原発事故が示した重大事故のリスクを忘れることもできません。

 日本では、中部電力浜岡原発の再稼働審査をめぐるデータ不正が明らかになったばかりです。安全性に関する信頼を失えば、どれほど世界的に原発回帰が進んでも、日本で社会的理解を得ることは難しいでしょう。

 私自身、原子力規制委員会を長く取材し、原発の安全性や規制の問題を研究してきました。その立場から現在の世界を見て感じるのは、原発をめぐる議論の前提そのものが変化しているということです。

 背景にあるのは気候変動だけではありません。ウクライナ戦争などの地政学リスク、化石燃料価格、エネルギー安全保障、AI・データセンターによる電力需要増加――。原発を取り巻く条件が大きく変わってしまったのです。

 重要なのは、推進派も反対派も、自分たちに都合のいい事実だけを見ることではありません。最も危険なのは、過去に決めた立場を守るために、目の前で変化している現実を見なくなることではないでしょうか。

大和大学教授/環境学者/防災士

大和大学社会学部教授。新聞記者として20年間、国内外を取材してきました。専門は地球環境で、東京大学で博士号取得、京都大学で修士号取得。報道の現場で培った取材力を基盤に、環境問題を社会構造や国際関係の文脈から多角的に分析しています。とりわけ、資源をめぐる国家間の緊張や利害対立、エネルギー政策の意思決定過程などを主要テーマとしている。加えて、ラーメンなどの食文化、アイドルなどの推し活、生成AIなど幅広く現代社会が直面する課題に対し、実証的かつ批判的な視点から研究を行っています。主な著書に『アジアの水覇権 中国・インドの資源紛争を解く』(博論社)、『原子力規制委員会の孤独』(エネルギーフォーラム)。

*******
****************************************************************************
*******
****************************************************************************

関連記事: