ネット右翼の「本当の実力」は参院選で明らかになる…石破首相にトドメを刺し得る"危険因子"の正体 少なくとも有権者の2%、200万~250万人いる
2024年10月の衆院選で自民党は大きく議席を減らした。この苦境をどう乗り越えるのか。文筆家の古谷経衡さんは「石破首相にとって、来夏の参院選こそが『本丸』であり、『総決戦』だ。しかし、味方であるはずの自民党内に敵となり得る危険因子が潜んでいる」という――。
※本稿は、鈴木エイト・古谷経衡・小川寛大・窪田順生ほか『自民党の正体 亡国と欺瞞の伏魔殿』(宝島社)の一部を再編集したものです。
写真=共同通信社
記者団の取材に応じる石破首相=2024年11月22日夜、首相官邸
旧安倍派の心臓部は参議院にある
今次の衆院選で旧安倍派の議員が続々と落選したが、とはいえその中枢はしぶとく生き残っている。高市早苗や小林鷹之、萩生田光一、西村康稔(萩生田と西村は無所属当選で自民会派入り)らは衆院選を乗り切ったが、その他の右派系議員の多く――つまり、ネット右翼に支持される少なくない政治家――は参議院議員であることである。
例えば、青山繁晴、小野田紀美、片山さつき、山田宏、和田政宗などといった議員は先の総裁選で高市の推薦人となった者も多く、全員が参院選出である。とりわけ参院全国比例から当選している者が多い。だから、衆院旧安倍派は痛打をこうむったが、他方参院の旧安倍派系は無傷で温存されており、心臓部はむしろそちらにあるのではないかということだ。
「ネット右翼2%説」が裏付けられた
この理由は選挙制度の構造からくるものである。
ネット右翼は、筆者の調査では全国に少なくとも200万~250万人(有権者の約2%)存在している。その多くが都市部に集積しているが、小選挙区では有権者数が20万~50万人の母数となり、1区ごとに影響を及ぼすのは投票率を加味すると、せいぜい数千票程度になる。大接戦ではその限りではないが、小選挙区の帰趨きすうを決するほどの力をネット右翼が持っているわけではない。
その証拠に今次衆院選では、まさにネット右翼から大きく支持された日本保守党が河村たかしの小選挙区で1議席を獲得したが、それは河村の名古屋市長としての知名度に過ぎず、その他の小選挙区ではすべて落としている。
同党はそれ以外に比例ブロック(近畿、東海)で計2議席を獲得したが、有権者の2%程度のネット右翼は投票率が高く、全体投票率が50%強しかなければ、単純計算で投票数に現れるのは3%台~4%未満である。
日本保守党の比例得票合計は約114万票で、有効票の約2.11%となり国政政党に昇格した。この数字はすべて、私による「ネット右翼2%説」を裏付けるものである。
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この事情を慮おもんぱかって、郵政選挙で自民党を離党した参議院議員らを復党させたのが第一次安倍政権(2006年)だったが、有権者には「小泉改革の後退」と映ったのか、直後の参院選の結果は惨敗に終わった石破が参院選でも裏金議員の処置を適切にできるのかは、議席数の問題もあり微妙かもしれない。
まして今回の衆院選終盤で「しんぶん赤旗」に暴露された党支部への2000万円支給問題などを繰り返せば、またも裏公認との誹ぞしりを受けよう。
ともあれそのような背景を見越して、今次衆院選で不出馬を表明して一旦下野した杉田水脈が、来夏の参院選出馬に意欲を燃やしているのである。
石破にとっては、大量の旧安倍派議員が残存する参院での選挙をどう制御し、自公で参議院過半数を死守するのかが、政権が長期になるか否かを占う最大の難関と言える。参議院でも旧安倍派議員の多くを完全な非公認とし、小泉に倣って刺客などを立てれば、「大坂夏の陣」よろしく旧安倍派――清和会は完全な落日を迎えよう。
ネット右翼が石破氏を毛嫌いする理由
では旧安倍派議員の支持基盤となっているネット右翼の動向は今後どう変わるのか。
ネット右翼界隈は岸田政権下で成立したLGBT理解増進法を「反日・売国の悪法」と糾弾しており、爾来じらい、岸田政権を呪詛じゅそし続けてきた。表面上はこの法律が成立したことを奇貨として、百田尚樹らが率いる日本保守党が誕生したのである。
9月の総裁選で石破が高市に競り勝つはるか前から、彼らは石破を「安倍晋三の敵」と見做して徹底して攻撃の対象としてきた。
事実、2012年の自民党総裁選では安倍vs石破の戦いが行われたし、2018年の総裁選でも安倍との一騎打ちを石破が演じた。清和会の天下であった第二次安倍政権下において、たしかに石破は「党内野党」と言わしめられたが、一方で自民党幹事長として君臨(2012~14)し、初期の第二次安倍政権を支えたことも事実である。