焦点:ホンダ案に日産衝撃、子会社化「論外」 危機感の溝埋まらず
<子会社化「冗談にしか聞こえない」>
日産の取締役会が統合交渉を白紙に戻す方針を固める2週間以上前の1月中旬。同社関係者は破談の予兆をすでに感じ取っていた。内田誠社長の様子から「交渉はうまくいっていない、話をまとめるのは厳しいと思った」と振り返る。
別の日産関係者によると、両社は1月末をめどに発表する予定にしていた統合の可能性についての方向性を見い出すため、週2回のペースで話し合いを重ねていた。業績が悪化している日産が示した人員・生産能力の削減などの再生計画は踏み込みが甘く、ホンダは納得できずにいた。
複数の関係者によると、日産は工場閉鎖には消極的だったといい、閉鎖した場合に生じる決算上の減損損失を避けたがっていたと関係者の1人は話す。
ホンダ関係者は「実効性を感じられるような再生計画は出てこないし、持ち株会社の統合比率の算出も対等意識が強く平行線だった」と語る。株式時価総額から算定した統合比率は5対1だったが、算出する対象期間などを巡り意見がまとまらなかった。
ホンダは、当初計画していた持ち株会社方式での統合では経営のスピードが上がらないと判断。日産が福岡県北九州市で電池工場の新設計画を発表し、同拠点の生産能力を削減しない方針を示した翌1月23日、日産に子会社化案を打診した。しかし、内田社長が「どちらが上、下ではなく」と昨年12月の会見で述べた通り、対等の関係で統合を想定していた日産社内では突然の提案に反発が広がった。
「日産にホンダの子会社になれと提案するなど到底受け入れられない。全く論外だ」と日産関係者は語り、「日本最古の自動車メーカー(の1つ)が、ホンダの完全子会社になるなんて冗談にしか聞こえない」と憤った。
ロイターはホンダと日産に交渉過程についてコメントを求めた。ホンダ広報は「当社が発表したものではない」とし、日産広報は「憶測に対してはコメントしない」とした。ルノーは、協議の詳細は知らされていないとする一方、自社の利益を「断固として守る」とコメントした。
<4つの拠点>
九州だけでなく、米国のスマーナ、メキシコのアグアスカリエンテス、英国のサンダーランドの工場は「EV戦略を進める上で譲れない。閉鎖するような計画にはなっていない」と関係者は話す。
米国はスマーナを含めて3工場で人員を削減するが、いずれも解雇ではなく希望者による早期退職を4月から募る。別の関係者によると、東南アジア最大の拠点タイでは25年秋までに約1000人減らす予定だが、配置転換を含む数字で純粋な削減数ではない。
日産の年間生産能力は約500万台。これを26年までに足元の販売台数と同水準の350万台まで落とす。昨年11月に削減計画を発表した際、坂本副社長は工場を閉鎖せず、ラインの速度を落としたり、老朽化したラインを併存する新鋭ラインに統合するなどして達成すると説明していた。日産は世界に25の生産ラインを持つが、関係者によると、ホンダとの統合協議を始めた12月中旬以降も方針は変わらなかった。
英調査会社ペルハム・スミサーズ・アソシエーツの自動車産業アナリスト、ジュリー・ブート氏は「これは(日産の)マネジメントの問題だ」と指摘。「彼らは自分の立場やブランド価値、そして事業を立て直す能力を完全に過大評価している」と話す。
一方のホンダも決して安泰ではない。堅調な業績は二輪事業が下支えしており、年間の営業利益率は10%以上の二輪に比べ、四輪は5%未満と低水準のまま。特にこれまで稼ぎ頭だった中国で販売が低迷している構図は日産と同じだ。
だが、ホンダは中国の生産能力を今期中に146万台から96万台まで削減する。また、同社関係者によれば、中国だけでも2年弱で1万人近くを削減しており、ホンダよりも業績の悪い日産の再生計画が「26年度までに世界で9000人削減」にとどまることを疑問視する。
<「ホンダには幸運」>
「ホンダが日産との統合を検討したのは戦略的に大きな間違いだった」。日本株投資に助言するアシンメトリック・アドバイザーズのアミール・アンバーザデ氏は言う。「日産が子会社化案を拒否したのは、ホンダにとって幸運だった。ホンダは先の見えない統合協議から無傷で逃れられた」と語る。
両社は13日に24年4━12月期決算発表を予定する。同日に開く取締役会で統合協議の打ち切りを正式に決める見通しだ。両社とも決算会見で理由や今後の方針を説明する必要があり、とりわけ日産には事業再生計画の実効性を具体的に示すことが求められる。
「これから誰と組むにしても、まずはリストラ。ターンアラウンド(再生計画)で膿を出すのが先決だ」と日産関係者は話す。「子会社化されなくてよかったが、客観的に見れば、今の日産がいかに駄目かが浮き彫りになった」。
(白木真紀、Daniel Leussink、白水徳彦 編集:久保信博)
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Daniel Leussink is a correspondent in Japan. Most recently, he has been covering Japan’s automotive industry, chronicling how some of the world's biggest automakers navigate a transition to electric vehicles and unprecedented supply chain disruptions. Since joining Reuters in 2018, Leussink has also covered Japan’s economy, the Tokyo 2020 Olympics, COVID-19 and the Bank of Japan’s ultra-easy monetary policy experiment.