コラム:犯罪率低下でも州兵派遣、トランプ氏に削られる主要都市の経済力

トランプ米大統領による中西部イリノイ州シカゴへの州兵派遣決定を巡り、シカゴの連邦控訴裁判所(高裁)は10月16日、下級審の派遣差し止め命令の取り消しを求めた政権側の申し立てを却下した。写真はシカゴにある米移民・関税執行局(ICE)の施設を歩く州兵。9日撮影(2025年 ロイター/Jeenah Moon)

[ワシントン 15日 ロイター Breakingviews ] - トランプ米大統領はまるで時間が止まったかのように、1970年代のマンハッタンに生きている。

タイムズスクエアが荒れ果てていた頃に不動産開発を始めたトランプ氏は、行く先々で街の荒廃を感じ取り、犯罪抑止のためと称して全米の大都市に州兵を派遣している。だが経済的現実は、こういった都市伝説の根拠を揺るがしている。

米国の都市は半世紀前、産業の空洞化や郊外化により財政危機や無法状態に陥り、一部では壊滅的な人口減少に見舞われ崩壊した。セントルイスやバッファローのような地域の中核都市は、中心街の住民を永遠に失った。ニューヨーク市は破産寸前に追い込まれ、救済を拒否した共和党大統領と対立した。

凶悪犯罪率は長年かけて徐々に低下していたが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)時に殺人や車両強奪、商店荒らしが増加。トランプ氏は2024年の大統領選で争点として取り上げた。

だがそのような犯罪は現在、沈静化している。同氏による州兵動員や、200年前の反乱防止法を発動するという脅しは、連邦権力の根拠なき濫用となっている。連邦政府資金による都市プロジェクトの破壊的な中止や遅延と相まって、国家経済の原動力に悪影響を与えている。

米国の各主要都市は経済の中核だ。たとえばシカゴ圏は昨年、ポーランドや台湾を上回る約9200億ドルの国内総生産(GDP)を創出した。シカゴ圏の経済規模は20年以降、30%増加したが、インフレ要因を考慮しても、州兵派遣を必要とするほどの混乱を示すものではない。

にもかかわらず、犯罪統計に関係なく、トランプ氏は共和党の支持率の高い州からの州兵を、民主党の支持率の高い都市へ事実上侵入させた。「治安維持活動」の多くは首都ワシントン、ロサンゼルス、ポートランドでの住居捜査による移民拘束やホームレス支援拠点の撤去に集中している。

こういった州兵派遣は有害な影響を及ぼしている。国防総省はワシントンへの州兵配備でほぼ1日200万ドルを投じたが、実際にはごみ拾いや落ち葉清掃を行ったに過ぎない。

昨年、同市の凶悪犯罪は30年ぶりの低水準にとどまった。初週には州兵の配備により、地元レストランの予約が24%減少した。ロサンゼルスでの2カ月間の軍展開で1億ドル以上の税金が費やされ、大規模な抗議活動を引き起こした。

ホワイトハウスは武力と同時に、経済手段も利用している。連邦政府の閉鎖下で、行政管理予算局(OMB)のラッセル・ボート局長は迅速にインフラ資金を凍結し、ニューヨークの鉄道・トンネル計画に割り当てられた180億ドルや、シカゴの交通向け20億ドルを停止させた。

都市を押さえつけ資金を枯渇させることは、米国経済に安全ではなく危機をもたらす。

●背景となるニュース

*トランプ大統領は10月7日、シカゴやポートランドなど米国都市への州兵派遣を続ける中で、200年前の連邦反乱防止法の適用を示唆した。影響を受ける都市や州の民主党当局者は裁判で異議を唱えている。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

Gabriel Rubin is a U.S. columnist for Reuters Breakingviews covering business and economics in Washington, DC. He joined Breakingviews in May 2024 after eight years at the Wall Street Journal, where he covered economics, politics, and financial regulation. He holds a bachelor's degree in history and Spanish from Washington University in St. Louis.

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