【日本市況】円全面安、FRB議長発言と関税巡る不透明感-債券下落

12日の日本市場は円が主要通貨に対して全面安。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が利下げを急がない考えを示したことに加え、米国の関税政策を巡る不透明感から売られ、対ドルで153円台後半と1週間ぶり安値を付けた。

  債券は日本銀行の利上げ継続への警戒感から下落。長期金利はこの日も約14年ぶりの高水準を更新し、新発5年債利回りは約16年ぶりとなる1%を付けた。株式は上昇。

  オーバーシー・チャイニーズ銀行(シンガポール)の為替ストラテジスト、クリストファー・ウォン氏は円安について「相互関税の不確実性によるもの」との見方を示す。「日本が打撃を受けるリスクがあり、円の短期的な見通しを複雑にする可能性がある」と言う。

  パウエルFRB議長は11日の上院銀行委員会の公聴会で「政策スタンスは景気抑制の度合いが以前より顕著に弱まっており、経済は強さを維持している」と述べ、政策金利の調整を急ぐ必要はないとの見解を示した。武藤容治経済産業相は12日の閣議後会見で、トランプ米大統領が署名した鉄鋼・アルミニウム輸入への25%関税について、日本企業を除外するよう申し入れたと明らかにした。

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  新発10年債利回りは1.34%に上昇。市場が想定する日銀利上げの到達点を示すOISフォワード金利2年先1年物金利は1%を超えている。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介シニア債券ストラテジストはリポートで、利上げ到達点が「これまでの市場コンセンサスだった1%を上回るかもしれないとの警戒感が強まっている」と指摘した。

12日の日本市場の為替・債券・株式相場の動き
  • 円は対ドルでニューヨーク終値比0.8%安の153円65銭-午後3時51分時点
  • 長期国債先物3月物の終値は前営業日比23銭安の139円79銭
  • 新発10年国債利回りは3ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)高い1.34%と2011年以来の高水準
  • 新発5年債利回りは1.5bp高い1%と08年10月以来の高水準
  • 東証株価指数(TOPIX)の終値は0.32ポイント高い2733.33
  • 日経平均株価は0.4%高の3万8963円70銭

外国為替

  円相場は全面安。市場ではこれまで主要通貨に対して円高が進んでいた反動が出たとの見方があった。外為どっとコム総合研究所の神田卓也調査部長は、パウエル議長の発言やトランプ大統領の関税政策などをきっかけに投機筋が円ロング(買い持ち)を手じまっているのではないかと指摘した。

  米商品先物取引委員会(CFTC)が発表したIMM通貨先物で、非商業部門の円ポジション(4日時点)が昨年12月以来の買い越しに転じていた。東海東京インテリジェンス・ラボの柴田秀樹金利・為替シニアストラテジストは、日米首脳会談など円買い要因として警戒されたイベントを無風で通過し、「いったんは円ロングを解消し、ドルを買い戻す動きが出ている可能性がある」と言う。

  テクニカル面でもドル高・円安が進みやすいという。大和証券の石月幸雄シニア為替ストラテジストは、ドル・円が上値抵抗線だった200日移動平均線(152円75銭)を上回ったことがドル買い・円売り材料になっていると語った。

債券

  債券相場は下落。パウエルFRB議長の議会証言を受けた米長期金利の上昇と、日銀の追加利上げ観測を背景に売りが強まった。10年物価連動国債入札は弱めの結果になったが、相場への影響は限られた。

  パインブリッジ・インベストメンツ債券運用部の松川忠部長は「10年債あたりは投資家のリスク許容度が低下している印象で、金利上昇が続く可能性がある」との見方を示した。

   三井住友トラスト・アセットマネジメントの稲留克俊シニアストラテジストは、5年債は14日の入札に注目が高まっており「1%台を付けないと収まらない感じだった」と語る。10年債利回りは節目の1.3%を早々に上抜けたため、押し目買いが入りづらくなっていると言う。

  物価連動債入札は最低落札価格が102円55銭と市場予想(103円10銭)を下回り、投資家需要の強弱を反映する応札倍率は2.76倍と前回の3.54倍から低下した。稲留氏は市場の期待インフレを示すブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)が「1.6%台ともなると、これ以上の上昇は見込めないとの見方が思ったより多かったのではないか」と指摘した。

新発国債利回り(午後3時時点)

  2年債 5年債 10年債 20年債 30年債 40年債   0.795% 1.000% 1.340% 1.995% 2.300% 2.640% 前営業日比 横ばい +1.5bp +3.0bp +2.0bp +1.0bp +0.5bp

株式

  株式は上昇。10日に発表した好調な決算を受けて情報・通信や非鉄金属などが買われ、精密機器も高くなった。個別銘柄ではエムスリーやフジクラが急騰した。

  ただ、欧州連合(EU)がトランプ大統領の関税に対抗措置を示唆したことを受けて、世界貿易に対する懸念は続き、自動車や商社は下落。TOPIXは一時0.5%安となる場面があった。

  T&Dアセットマネジメントの酒井祐輔シニア・トレーダーは「自動車を含め、今日の市場は重たい」とした上で、好調な決算が出ており、不安定な市場で明るい兆しとなったと指摘していた。

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この記事は一部にブルームバーグ・オートメーションを利用しています。

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