トランプ関税、半導体も直撃しそう。どんな影響がある?

Image: Michael Vi / Shutterstock.com

第二次トランプ政権誕生からまだ3カ月たってないのにこの混乱ぶり。MAGAキャップ脱帽です。

トランプ大統領が導入を発表した世界規模の相互関税の影響で、株式市場がガタガタです。主要なテック企業の株価の下落幅はほとんど2桁いっちゃっいました。

トランプ関税対象外(仮)の半導体に忍び寄る魔の手

しかし、台湾などの国から輸入される半導体は当初の対象から除外されていたため、いまのところ大きな影響を免れています。

とはいえ、アメリカで販売されている電子機器の多くはアジア製の半導体を使っており、もし本当に関税が導入されれば、製品価格にもかなり響くと思われます。

そして、トランプ大統領は4月3日、ホワイトハウスでの記者団とのやりとりの中で、「間もなく」半導体に関税を課すつもりだと語りました。

企業は様子見

海外製品への関税の影響はもうすでに出始めています。たとえば、任天堂は関税の影響を評価するためにアメリカでのSwitch 2の予約受付を延期に。

また、食品の配達代金を分割払いにできるサービスで知られる後払いスタートアップ企業Klarna(クラーナ)も、金曜日(4月4日)に予定していた新規株式公開を延期することに。世界経済の先行き不透明すぎ感を考えると、「外食産業の安いメニューを無利子・無担保のローンで払いましょう」というビジネスモデルにとってもトランプ関税は打撃になるでしょうね。

半導体メーカーへの影響必至

アメリカ国内で重要なテクノロジーを育てるという目的を果たすために、トランプ大統領は海外製の半導体に高い関税を課すと宣言していました。

2022年に新型コロナウイルス感染拡大を受けて中国政府が上海を封鎖し、世界中に広がるサプライチェーンに依存するリスクが浮き彫りになったので、リスクを避けるためになるべく国内で生産するというのは悪いアイデアではないはず。

でも、いまの時点で海外の各地に置いている製造拠点を、企業がいきなりアメリカに移すのはかなり難しいでしょう。関税導入に数年の猶予期間を設けるなら話は別かもしれませんけど。

NVIDIA(エヌビディア)やApple(アップル)などと取引がある大手半導体メーカーの台湾積体電路製造(TSMC)は、アメリカ国内で生産および研究開発施設を立ち上げるために1000億ドル以上の投資を決めたようですが、規模拡大には長い時間を要するため、半導体への関税が導入されれば数年はそのあおりを食ってしまいます。

ウェドブッシュ証券のアナリストであるダン・アイブス氏は、Appleが生産拠点の10%をアメリカに移転するには、3年の時間と200億ドル(1ドル150円換算で約3兆円)のコストがかかる推定しています。

トランプ大統領がアメリカの製造業の競争力を高めようとしているのであれば、半導体への関税は理にかなっていると言えます。たとえば、Intel(インテル)を代表とする国内メーカーは、自社製の半導体を製造するために海外製の機械を使用しています。機械の輸入に関税がかかれば、製造コストも高くなるため、海外製の安価な半導体に競争力で劣ることになります。関税はこの競争力の差を埋める役割を果たします。

半導体をすべて輸入でまかなっている企業からすればたまったもんじゃありませんが、インテルと同じような事情を抱える大企業にとって、トランプ関税はウエルカムな一面もあるようです。

半導体価格と企業のコストは上昇必至

テック系サイトのTom’s Hardware(トムズ・ハードウェア)は、新たな関税が半導体の価格にどう影響するかについて詳しく解説しています。

たとえば、NVIDIAが5万ドルで販売しているAI向けGPU(画像処理ユニット)に25%の関税がかかるとします。粗利率が75%の場合、NVIDIAが申告する課税対象額は1万2500ドルになって、関税として3,125ドルを支払うことになります。関税が導入されれば、NVIDIAの利益率を圧迫するか、アメリカの消費者にとってGPUがより高価になるかのどちらかになるでしょう。100万個のGPUを使用するとされるイーロン・マスクの次世代データセンターにとっては、31億2500万ドルの追加コストとなります。

国内回帰の可能性と課題

トランプ大統領は、4月2日に発表した関税は製造業に公平な競争の場を整えるためのものだと主張しています。製造業を一部でもアメリカに呼び戻すという考えは理解できますが、実際に製造工場の場所を決めて建設、稼働するまでのプロセスには数年の時間を要するのが常識です。

しかも、人件費の高さや労働者の保護、さまざまな規制がコストを押し上げるため、国内製は海外製よりも高価になります。そもそも、アメリカはずっと長い間サービス業中心の経済で、単純作業や肉体労働を好む人はあまりいません。

トースターや靴のような日用品と比べて半導体は利益率が高いので、アメリカに戻すのもありかもしれません。

しかし、アメリカ国内で生産された製品が世界の市場で競争力を持てるかどうかは不透明であり、アメリカで採掘できないレアアースを必要とするメーカーは、輸入に依存するしかなくなると思われ、そうなると関税の影響を受けてしまいます。

世界一の経済大国であるアメリカは、製品の設計やプログラミングといったサービス分野が得意で、現場の単純作業は他国に任せる傾向があります。耐久消費財の製造がアメリカに戻ってきたとしても、その多くは自動化されるだろうという見方が広まっています。実際のところ、Amazonも工場の自動化に多額の投資を続けています。

関税が導入されれば、アメリカ人は品質が低い商品により多くの代金を支払うことになります。特に低所得層にとっては逆進的な(収入が低い人ほど負担が重くなる)税制になるのではと懸念されています。多くが指摘していますが、関税の皮をかぶった消費税ですよね、これ。

また、企業にとっても事業費が高くなるため、アメリカ企業の競争力が低下するおそれがあります。しかも、中国がAIや自動車といった分野で急成長を遂げている真っ最中というタイミングの悪さ。

財政赤字は関税の不均衡じゃなくアメリカ経済の構造的な問題

現在アメリカが直面している財政赤字は、国が輸出よりも輸入に多くの費用をかけている構造的な問題が原因と多くの経済学者が指摘しています。しかし、医薬品価格の引き下げ交渉のように、国民に負担をかけることなく収支の帳尻を合わせる方法はあります。それと同じように、他国と敵対することなく関税の不均衡を改善できるといいます。

どの国でも、たとえば農業への補助金のように、国内産業をある程度は支援しています。相互関税でも、理論的には国同士がお互いに納得できる妥協点を見つけるのは十分可能なはずです。政治は妥協で成り立っているので。

FRB議長はトランプ救済を否定

アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は、トランプ大統領の関税政策は「インフレ率の上昇と成長率の鈍化」につながる可能性が高いと述べ、数カ月堅調だった雇用についても、今後は失業率が上昇するおそれがあると警告しています。成長鈍化にインフレ率と失業率上昇の組み合わせって激ヤバ3点セットじゃないですか…。

しかし、FRBとしては関税の影響を軽減するために金利を引き下げる予定はないと付け加えています。つまり、経済界で関税への批判が広がっているにもかかわらず、パウエル議長にはトランプ大統領を救済するつもりがないということです。

やっぱりこのままスタグフレーション一直線…なのでしょうか?

Reference: Vox

関連記事: