【二宮和也】途方もない状況で「最悪、終わらなくてもいい」と思える理由/映画『8番出口』 - エンジニアtype

異変を見逃さないこと 異変を見つけたら、すぐに引き返すこと 異変が見つからなかったら、引き返さないこと

8番出口から外に出ること

わずか四つの指示だけを頼りに、無機質な地下通路の先にあるともしれない「8番出口」を目指して歩き続けるーーそれが、ゲーム『8番出口』の全てだ。

ゲーム『8番出口』は、2023年にインディーゲームクリエイター・コタケ(KOTAKE CREATE)さんが個人開発したウォーキングシミュレーター。リリース直後からYouTubeや各種SNSで爆発的に拡散され、全世界累計販売本数は190万本超の大ヒットとなった。

そして、実写映画『8番出口』の制作が発表されるやいなや、あの独特な世界観をどう表現するのかと話題沸騰。ゲーム内では姿が一切明かされていない主人公を、アイドルグループ・嵐のメンバーであり、大のゲーム好きとして知られる二宮和也さんが務めるとあって、期待値が高まっている。

今回は、映画『8番出口』主演の二宮さんに、撮影時のエピソードや自身とゲームの関係性について聞いた特別インタビューの様子をお届けしよう。

究極のシンプルさで熱狂を生んだ『8番出口』の設計

ゲーム『8番出口』の舞台は、白色蛍光灯が規則的に並び、無機質なタイルで覆われた地下通路。プレイヤーは通路を真っすぐに歩き、「異変」を発見したら引き返し、異変が無ければ前進する。ゲームシステムは極めてシンプルだ。

しかし、その単純さこそがこのゲームの核であり、恐怖と緊張を生み出す要因となっている。

プレイヤーは「8番出口」を目指して歩くが、この地下通路は無限ループしている。異変に気付いて適切なタイミングで方向転換しなければ出口には辿り着けない。異変は一目瞭然のものから注意深く観察しなければ分からないものまで多種多様。壁の状態、ポスターの内容、対向から来る歩行者の挙動といった細部に現れる。これらを見逃すと延々と同じ場所を歩き続けることになるわけだ。

このゲームが社会現象ともいえるほどに多くの人々を虜にした要因は、ゲームシステムを極限まで簡略化しながらも、高度な観察力と注意力を要求する設計の妙だ。

一般的なホラーゲームは、敵との戦闘や逃走、複雑な謎解きを伴うことが多い。だが本作では、行動を「進むか戻るか」の二択に集約し、その分プレイヤーの脳内で生まれる「違和感」の検知に全リソースを割かせる設計になっている。このミニマルさは、シンプルかつ洗練されたUIと環境演出、そしてプレイヤーの感覚だけでゲームを成り立たせるという意味で優れていたといえるだろう。

本作が業界にもたらしたインパクトは計り知れず、リリース後まもなくして類似の仕掛けを持つ“8番出口ライク”なゲームが多数登場。まさに一つのトレンドを生み出した。

「物語」としての魅力が増す映画『8番出口』

その設計の美にストーリー性が加わり、ゲームのファンから映画好きまで魅了する作りとなったのが、映画『8番出口』だ。主人公の内面描写や周囲の人物など設定が追加され、ゲームでは抽象的だったループ構造に物語的な深みが加えられている。

監督・脚本は『世界から猫が消えたなら』などで知られる川村元気さん。脚本には主演の二宮さんも参加した。主人公を除き、ゲームに登場する唯一の人物キャラクター「歩く男」も実写化され、俳優・河内大和さんが怪演。小松菜奈さんも出演している。

2025年8月29日の全国公開に先駆けて、カンヌ国際映画祭のミッドナイト・スクリーニング部門で上映されると、観客席からスタンディングオベーションが巻き起こるほどの高評価を得た。

原作では性格や一切のバックグラウンドを持たない、徹底的に個性を排除した主人公。そんな「迷う男」を演じた二宮さんに、話を聞いた。

ゲームは「今の自分の気持ち」を教えてくれる存在

二宮和也さん(@nino_honmono

1983年6月17日生まれ、東京都出身。アイドルグループ『嵐』のメンバー。99年、シングル『A・RA・SHI』でCDデビュー。アイドル活動に加え、俳優、歌手、司会者、YouTuberとしても幅広く活躍。俳優としては、ハリウッド映画『硫黄島からの手紙』(2006年)で世界的な評価を獲得。日本アカデミー賞では、『母と暮せば』(15年)で最優秀主演男優賞を受賞するなど、数々の賞に輝く。主な出演作は、TBS系ドラマ『山田太郎ものがたり』(07年)、TBS系ドラマ『流星の絆』(08年)、フジテレビ系ドラマ『フリーター、家を買う。』(10年)、フジテレビ系ドラマ『弱くても勝てます 〜青志先生とへっぽこ高校球児の野望〜』(14年)、TBS系ドラマ『ブラックペアン』シリーズ(18年、24年)、映画『GANTZ』シリーズ(11年)、映画『プラチナデータ』(13年)、映画『検察側の罪人』(18年)、映画『浅田家!』(20年)、TBS系ドラマ『マイファミリー』(22年)、映画『ラーゲリより愛を込めて』(22年)など ■公式HP:https://office-nino.co.jp/ ■「オフィスにの」公式X:@office_nino

前述した通り、本作には「脚本協力」としても二宮さんの名前が記されている。脚本に参加した背景を、二宮さんは「もらった台本でそのまま芝居をするのは、この作品に関しては難しいと思った」からだと説明する。

「今回の作品は、ほとんどのシーンが僕一人。そうなると、人に書いていただいた脚本と自分の間に歪みが出てしまうんじゃないかと思ったんです。現場でかなり口を出してしまうかもしれない、という予感があったんですよね。

その懸念を監督の元気さんも感じ取ってくださって、だから『脚本に参加しない?』と声を掛けてくれたんだろうなと思っています。ありがたかったですね」

二宮さんといえば、かねてから根っからのゲーマーであることで有名だ。エンジニアtype読者の中にも、ゲームが好きな人、むしろゲーム開発を生業にしている人もいるだろう。

多忙な日々を送る中で、「ゲーム」は二宮さんにとってどのような存在なのか。

「これまでの人生を振り返っても、僕はずっとゲームをし続けてきたタイプの人間なので、すでに生活の一部になっています。

昔は呼吸するように自然とゲームをしていた感覚で、言うなれば息抜きに近かった。でも、最近はゲームとの付き合い方も変わってきているかもしれません。

今はもっと、人生と連動している気がする。例えば、冒険してフィールドを広げていったり、仲間を増やしていったり……そういうゲームをやりたくなるときって、私生活でも同じ願望があるときなんですよね。

ゲームの中で冒険しながら、現実世界でも『新しいことに挑戦したい』と思ったり、新しい作品作りのための仲間を集めたいと考えたりしている。だから、自分が今何をしたいのか、どんな気持ちなのかは、選んだゲームが教えてくれるんです。

今も昔もゲームが好きなことに変わりはないけど、最近は『助けられているな』と思うことが多いですね」

自分の深層にある願望を教えてくれるーー

しかし、その願望を実現するのは決して容易ではない。押し寄せてくる「すべきこと」に追われてしまう日々もあるだろう。

思えば、今作の主人公もそうだ。終わりが見えない地下通路をひたすら歩き、いつたどり着くかも分からない出口を目指す。

二宮さん自身はどうだろうか。アイドルとして、俳優として、多くの仕事と向き合う中で、ふと「見えない出口」に思いをはせることはないのだろうか。問うと、「連続ドラマの撮影中は、これ終わるのかな? なんて思うこともあるけど」と笑ってから、次のように答えてくれた。

「昔のことは鮮明に思い出せるのに、昨日の出来事が思い出せないときってないですか? 仕事の結果も、そういうものなのかなって思うんですよ。すぐに評価されるものばかりじゃなくて、後から結果がついてくるような。

だから僕は、終わりが見えないと思うようなことでも『まあ、最悪出口が見つからなくてもいいや』と思うようにしているんです。終わらないことを嘆くんじゃなくて、未来で結果につながるだろうって信じてるから

「自分で信じてないと、やってられなくなっちゃいますからね」と、最後はまた笑みを浮かべた二宮さん。柔らかくも芯のあるその言葉に、勇気づけられた人もいるだろう。

途方もなく感じるようなことでも、正解が分からないような課題でも、ひたむきに向き合い続ける。そうすることで、自分なりの「出口」にたどり着けるのかもしれない。

取材・文・編集/秋元 祐香里(編集部) 撮影/コウ ユウシエン ヘアメイク/浅津陽介 スタイリスト/福田春美

作品情報

映画『8番出口』2025年8月29日(金)全国公開

原作:KOTAKE CREATE「8番出口」 監督:川村元気 脚本:平瀬謙太朗、川村元気 音楽:Yasutaka Nakata(CAPSULE)、網守将平 脚本協力:二宮和也 製作:東宝 STORY inc. オフィスにの メトロアドエージェンシー AOI Pro. ローソン 水鈴社 トーハン 制作プロダクション:STORY inc. AOI Pro.

配給:東宝


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