マジで世界に1台しかないの!? 超個性的で「クセ強」なクルマに試乗してみた
/ コラム
「多くの人が読みたいと思う試乗レポートを!」と心がけるベストカー編集部だが、なかには「激レア車のレポートが読みたい!」という声もチラホラ。ならば「世界に一台」のトムス エンジェルT01の試乗レポをお届けしよう!!※本稿は2025年6月のものです文:鈴木直也/写真:大西 靖 ほか
初出:『ベストカー』2025年7月10日号
【画像ギャラリー】鈴木直也氏30年ぶりの再会!? 世界に一台のクセ強&激レア車・トムス エンジェルT01(16枚)デザイナーはF1マシンのロータスT100などをデザインしたマーチン・オグリビー氏で、開発時の車両名は「LIMIT(リミット)」だったという。この車両はプロトタイプとして世界で一台だけ製作されたものだ
日本がバブル景気に沸いていた1990年頃、独立系チューニングショップでロードカーを製造・市販する企画がいくつか立ち上がった。
有名どころはミツオカやトミーカイラなどだが、トヨタ系レーシングチームの雄として知られるトムスでもオリジナルのスポーツカー製造計画が存在していたことはあまり知られていない。
当時のトムスは欧州におけるレース活動のため英国にトムスGBという拠点を構えていたのだが、レーシングマシンが造れるなら少量生産スポーツカーまではあと一歩。また製造を英国で行えば日本で市販する際には“輸入車”ということでナンバー登録のハードルも下がる。
そんな時代の空気に押されるように生まれたのが、今回試乗したトムス エンジェルT01だ。
開発コンセプトで特徴的なのは、とにかく可能な限りコンパクトかつ軽量に仕上げようという設計者(マーチン・オグリビー)の強い意志だ。
ロータスでF1開発に携わったオグリビーは、トムスGBでF3プロジェクトを推進したのち、このエンジェルT01をデザイン。
全長3320×全幅1620×全高1080mmというディメンションはほとんど「軽自動車並み」のサイズ感覚だし、2175mmというホイールベースは短いことで有名なランチア ストラトスよりさらに5mmショート。
パワーユニットはAE101型レビン/トレノ用の4A-GE 20バルブ(160ps/16.5kgm)だが780kg(車検証表記)の車重には充分以上で、4.88kg/psという良好なパワーウェイト比を実現している。
ボディ形式はFRPモノコック製クローズドクーペだが、ユニークなのはサイドウィンドウ部だけガルウイング形式で跳ね上がるドアのレイアウトだ。
おそらく、開口部を小さくして車体剛性を高める狙いだが、ドア機構を簡略化することで重量とコストを節約するという目的もありそうだ。
レーシングカーと同様の燃料タンク形状を採用。容量はカタログ値で35Lだが、実際に使える量はもっと少ないらしい
そんなわけだから、まずクルマに乗り込むだけでもちょっとしたコツが要る。
サイドウィンドウを跳ね上げたらレーシングカー式の脱着式ステアリングを外し、高さ60cmほどもあるサイドシルをまたいで身体をシートに滑り込ませる。
クルマ好きは「気分はルマン・ハイパーカー!」と盛り上がるが、スカート姿の女性をドライブに誘うのはやめたほうがいい。
レイアウトから想像できるとおり、その走りっぷりは「公道を走るレーシングカー」そのものだ。
タイトなシートに身体を収めステアリングを取り付けると、インパネには当時レース業界標準だったSTACK(スタック)製デジタルメーター。エンジンを始動すると室内に4A-G E20バルブの咆哮が響きわたる。強化型ゆえか、つながりの唐突なクラッチを慎重に合わせて走り出す。
ゴキゲンなのはアクセルに即反応してダッシュするレスポンスのよさだ。4A-GE 20バルブは典型的な高回転型エンジンだが、車重700kg台のクルマに乗せると「こんなにトルキーだったのか?」とビックリする。
ハンドリングは同類のトミーカイラZZやエリーゼと比べてもよりスパルタンな感覚だ。
超ダイレクトで路面状況をビシビシ伝えてくるステアリング、ホイールストローク5cm程度と思われる硬いフロントサス、公道で試せる程度の横Gではビクともしない後輪グリップ。こういう非日常的な感覚は新鮮そのもの。
このクルマの本当の面白さを味わうなら路面の荒れた公道よりサーキットがオススメなのだが、公道で非日常性を楽しむのもナンバーの付いたクルマならではの楽しみといえる。
電動化時代になりクルマがどんどん重くなってゆく今、「スポーツカーは軽さが正義!」という真実を思い出させてくれるクルマでございました。
●トムス エンジェルT01 主要諸元・全長×全幅×全高:3320×1620×1080mm・ホイールベース:2175mm・車両重量:780kg・総排気量:1.58L・エンジン:直4 DOHC 20バルブ・最高出力:160ps/7400rpm・最大トルク:16.5kgm/5200rpm・パワーウェイトレシオ:4.88kg/ps
・サスペンション:ダブルウィッシュボーン5段階調整ダンパー