すぐそばにあるものに目を向ければ、もっと幸せに生きられる──特集「THE WORLD IN 2025」

※雑誌『WIRED』日本版 VOL.55 特集「THE WORLD IN 2025」の詳細はこちら

世界中のビジョナリーや起業家、ビッグシンカーがキーワードを掲げ、2025年の最重要パラダイムを読み解く恒例の総力特集「THE WORLD IN 2025」。認知神経科学者のターリ・シャーロットは、日々の生活のなかですぐそばにあるものに目を向ければ、もっと幸せに生きられると言う。

2024年が終わろうとするいま、多くの人が自分の人生を振り返り、もっと充実した生き方をするために翌年には何ができるかと考えることだろう。そのなかで、ひとつの疑問が浮かぶかもしれない──仕事には満足していて、家族にも愛され、家も居心地がいいなど、自分の人生には素敵なものがいくつもあるのに、それらが日々の幸せにあまり影響を与えていないように感じるのはなぜだろう、と。

一方、人生には人間関係のヒビ、ネット上で出合う失礼な態度、職場の非効率さなどあまりよくないものもある。そして、どうやらわたしたちはこうした慢性的な問題に慣れてしまうようで、そうなると改善しようという気も起きづらい。

つまり、人はいつも自分の周りに存在しているものを意識しなくなるのだ。その状況を変える方法をここに紹介しよう。

慣れとは脳の基本的な特性であり、常に存在するものや頻繁に起こるものに対して次第に反応しなくなる傾向を指す。

コーヒーショップに入るときのことを想像してほしい。最初は淹れたてのコーヒーの香りが際立つが、20分もすればその香りを感じなくなる。これは、嗅覚ニューロンが反応しなくなる、つまり慣れるからだ。コーヒーの香りに慣れるのと同じように、わたしたちは人生のもっと複雑な局面にも慣れてしまうことがある。

そこで課題となるのが、敏感さを取り戻すことだ。人生における素晴らしいものに対しては、再び喜びを感じられるようにしたい。一方、見えにくくなった問題点を改めて認識することで、努力すれば状況を変えられるかもしれない。それでは、どうすれば慣れから脱却できるだろう?

分割して楽しむ

その問いに対する答えは、経済学者ティボール・シトフスキーの名言のなかにある──「喜びは、欲望が不完全かつ断続的に満たされることから生まれる」

あなたの好きな曲を思い浮かべよう。それを最初から最後まで通しで聴くのと、途中で何度か止めながら聴くのでは、どちらのほうが楽しめるだろうか? 99%の人は止めたくないと答えるだろう。しかし研究では、中断しながら聴いたほうがその曲を楽しめるという結果が出ている。なぜか? 曲を聴き続けていると、最初に感じた喜びが徐々に薄れていくからだ。中断することでその慣れが解消され、曲が再び流れるたびに喜びのレベルがまた跳ね上がるのだ。

慣れに対抗して喜びを最大化するためには、人生のなかのいいものを少しずつ楽しむ必要がある。Netflixの番組、チョコレートケーキ、新しい恋──どれも一気に消費するのではなく、少しずつ味わおう。

嫌なことは丸のみ

一方、家事や事務作業などの面倒な仕事を片づけなければならないときは、一気に終わらせてしまおう。研究によると、不快な騒音(掃除機の音など)を聞く場合、休憩を挟むよりもずっと聞き続けるほうが苦痛が少ないことがわかっている。継続的に騒音に晒されていると、最初に感じた苦痛は次第に軽減される。一方、休憩が入ると慣れがなくなるため、騒音が再び聞こえてくるたびに苦痛のレベルがまた跳ね上がるのだ。

生活に実験を

日々の生活で自分のなかにストレスや不安を引き起こしているかもしれないが、常にそばにあるせいでそれがどの程度自分に影響を与えているのかよくわからず、だから改善しようとしていないものについて考えてみよう。それは、部屋のエアコンの音のように背景で響き続けている。その騒音がどれほど悪影響を及ぼしているかは、誰かがエアコンを切って心地よい静けさが訪れるまで気づかないものだ。

関連記事: