英国の支援は利害の調整、ウクライナのグリペンE調達に3億ユーロを拠出

ウクライナとスウェーデンはグリペンE購入の正式な協定を締結、EUもグリペンE購入に資金を供給するため「承認済みの防衛・軍事援助枠に基づく融資計画を承認した」と発表し、英国のスターマー首相も16日「ウクライナのグリペンE調達を支援するため3億ユーロを拠出する」と発表した。

参考:Prime Minister commits €300 million to fund fighter jets for Ukraine – backing British jobs and bolstering Ukraine’s defence 参考:United Kingdom Announced €300 Million in Support for Joint Delivery with Sweden of 16 Advanced Aircraft to Ukraine – Volodymyr Zelenskyy Met with Keir Starmer 参考:Joint Statement of the European Union and the United Kingdom on United Kingdom participation under the Ukraine Support Loan

ウクライナとスウェーデンは2025年10月「グリペンEを100機~150機調達するための意向書」に署名したが、これは「グリペンEの購入を正式に要請する」という意味合いで、クリステション首相もヨンソン国防相も「両国は購入に向けた最初のステップとしてグリペンE購入資金の調達方法を検討している」「(仮に商業契約が締結されても)150機全てを1度に納入するのは不可能だ」「スウェーデンでのグリペンE生産は始まったばかりで発注から納品まで3年はかかる」「(今回の意向書署名は)グリペンE購入に向けて準備と意欲を示しただけで実際のプロセスはこれから始まる」と強調。

出典:President of Ukraine

両国は2026年5月「グリペン調達に向けた防衛協定の締結」を発表、ゼレンスキー大統領は「グリペン調達にウクライナ支援融資(Ukraine Support Loan=USL)から25億ユーロを割り当てる」と言及し、両国は6月30日にグリペンEを16機購入する協定に署名、これを受けてスウェーデン防衛資材管理局(FMV)も「ウクライナとグリペンE売却に関する契約を締結し、機体の引き渡しは2029年中に開始される予定だ」「この政府間協定には後方支援サービスおよび包括的な訓練パッケージも含まれている」「FMVはウクライナへの売却を実現するためサーブにグリペンEを16機発注する契約を締結した」と発表。

サーブも「ウクライナ向けグリペンE×16機に関する契約をFMVと締結した」「契約金額は約246億スウェーデンクローナ=約22億ユーロで2026年第3四半期に計上される予定だ」「FMVへの納入は2029年から2030年にかけて行われる」と発表し、EUは7月15日「ドローン、ミサイル、戦闘機の調達資金として承認済みの防衛・軍事援助枠(600億ユーロ)から新たに100億ユーロを融資する計画を承認した」と発表し、欧州委員会の外交官はkyiv Independentの取材に「100億ユーロの融資のうち戦闘機調達に約25億ユーロが充てられる」と明かした。

出典:President of Ukraine

サーブが受注したグリペンE×16機の契約金額は約22億ユーロだが、グリペンEを運用するためのパイロットや地上要員の訓練、インフラの構築、搭載兵器の調達、スウェーデン政府が無償供与するグリペンC/D×16機(グリペンE購入が前提)の受け入れ費用なども発生するため、USLの約25億ユーロで全てをカバーできるのか謎だったが、英国のスターマー首相は16日にキーウを訪問して「ウクライナのグリペンE調達を支援するため3億ユーロを拠出する」「この支援にはパイロットや地上要員の訓練、シミュレーター、スペアパーツ、グリペンEを前線で運用するのに必要な装備も含まれている」と発表。

英国がウクライナのグリペンE調達に単独で資金を拠出するのは「EU加盟国ではないのでUSLに参加していないから」という側面もあるが、今回の3億ユーロ拠出は「英国の美しい善意」ではなく「USLを原資としたグリペンE調達に英産業界が関与するための参加料」という側面もあり、USLを原資とした軍事装備の調達には欧州優先・カスケード原則が適用されるためEU加盟国、EEA-EFTA諸国、ウクライナで生産されたものしか基本的に購入(例外条項あり)できない上、同地域外を起源とする部品コストが調達する装備コストの35%を超えてはならないという制限がある。

Sweden is leading a major new deal to get Gripen fighter jets to Ukraine.

With over 30% of each aircraft built in the UK, it’s expected to support over 5,000 jobs, more than 50 companies across Britain, and deliver a £500m boost to the economy.

Backing Ukraine. Backing Britain. pic.twitter.com/FBk5NjXs5x

— Ministry of Defence 🇬🇧 (@DefenceHQ) June 8, 2026

英国防省はウクライナとスウェーデンが「グリペン調達に向けた防衛協定の締結」を発表した直後「スウェーデンはウクライナへのグリペン戦闘機導入に向けた新たな大型契約を主導している」「この機体の30%以上が英国で製造されるため、この契約は英国全土で50を超える企業と5,000人以上の雇用を支え、5億ポンドの経済効果をもたらすと見込まれている」と言及し、EUは7月13日「900億ユーロのウクライナ支援融資(USL)に対する英国の参加交渉の妥結を示す契約合意書への署名を歓迎する」と発表。

“これは英国の参加に向けた重要な一歩であり、ウクライナがUSLの下でより幅広い防衛企業から調達を行うことを可能にし、ロシアの侵略に対抗できる能力を確実に維持できるようにするものだ。英国は自国企業が受注した契約額に見合った形で資金調達に伴う費用に対し、公平かつ相応の拠出を行う”

出典:European Union

英防衛産業界(Leonardo UK、APPH、Martin Baker、GKN Aerospaceなど)はグリペンEを構成するRaven ES-05 AESA、Skyward-G IRST、Mode5 NATO IFF、BriteCloud、降着装置、射出座席、電子装置やアビオニクス関連の一部、エンジンのメンテナンスや修理サービスを供給しており、英国を起源とする部品コストがグリペンEのコストの35%を超えるのか不明だが、サーブは2012年に英下院の国防委員会に提出した書面の中で「グリペンの最大36%が英国で製造されている」と明かしている。

グリペンE/Fに関する英防衛産業界の関与率について公式な言及はないものの、英国防省が「30%以上」と言及しているので最低でもグリペンC/Dと同等の関与率であることが予想され、英国の3億ユーロ拠出は「USLを原資とした調達で5億ポンドの経済効果を享受する公平かつ相応の拠出」と解釈するのが妥当だろう。

出典:President of Ukraine

ちなみに米産業界(General Electric、Honeywell、Collins Aerospace、L3Harrisなど)はグリペンEを構成するF414-GE-39E、生命維持システム、電子装置やアビオニクス関連の一部を供給しているため、関与率は約30%前後と予想されており、以上を踏まえるとスウェーデンの関与率は50%未満で、USLによるグリペンE調達は欧州優先・カスケード原則の例外規定=デロゲーションが適用されているかもしれないが、ウクライナがグリペンEを入手するという事実には何も変わりがない。

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※アイキャッチ画像の出典:President of Ukraine

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