中国EV、ハンガリーに相次ぎ進出…首相と蜜月背景に欧州輸出への「関税の抜け穴」
EU(欧州連合)加盟国の中欧・ハンガリーに、中国の電気自動車(EV)関連企業が相次いで進出している。ビクトル・オルバン首相は「欧州の異端児」と呼ばれ、中国やロシアと親密なことが背景にある。EUは安価な中国製EVの流入を防ぐために追加関税を導入したが、中国勢はハンガリーを玄関口としてEU域内に輸出できる体制を築きつつある。(ハンガリー南部セゲド 秋山洋成、写真も)
工場進出続々
1月、大学の街・セゲド郊外では、中国のEV大手BYDが欧州初の工場建設を進めていた。
BYDが建設を進めているEV工場(1月、ハンガリー南部セゲドで)現場には中国語のはり紙や「BYD」のロゴが貼られ、重機が忙しそうに動いていた。工場は2025年後半にも稼働する見通しで、数千人の雇用につながるとされる。近くのショッピングモールで働く男性(20)は「最先端のEVが生産されれば街も活気づく」と期待していた。
中国車載電池大手、寧徳時代新能源科技(CATL)も今年の稼働を目指して東部デブレツェンで新工場を建設するなど、ハンガリーには中国勢の進出が相次ぐ。日本貿易振興機構(ジェトロ)ブダペスト事務所によると、20年以降の中国企業の投資はEV関連を中心に計38件、160億ユーロ(2兆5800億円)以上に上る。
中国製EVも徐々に浸透し、BYDは23年10月に現地の販売代理会社2社と契約を結んだ。民間調査会社「データハウス」によると、BYDの販売台数は23年の17台から24年は1437台に増えた。代理店の1社で販売責任者のビキシュ・ミクロスさん(51)は「国内に工場を作り、政府との関係も良好だ」と手応えを語る。
「電池製造大国」
ハンガリーのオルバン首相と中国の 習近平(シージンピン) 国家主席は蜜月関係にある。2人は昨年5月、ハンガリーで会談し、EV関連などの経済協力の強化で合意。ハンガリーは成長戦略として、EV電池の製造大国を掲げる。
オルバン首相は権威主義的で、ロシア寄りの姿勢でもEUと摩擦を抱えており、中国企業に多額の補助金を用意し、EU域外との関係を強化しようとしている。
ただ、住民からは不満の声も出ている。CATLの工場建設地の近くに住む母親たちでつくる市民団体代表のエバ・コズマさんは「住民の意見を聞かずに、住宅のすぐそばに危険な化学工場が建設されている。交通渋滞も激しく、住民の健康よりも投資家が優遇されている」と憤る。
補助金調査へ
調査研究機関の欧州交通環境連盟は、EUで販売されたEVに占める中国メーカーの割合は19年の0・4%から、25年には14%に拡大すると推計する。EUは24年10月に中国製EVに追加関税を課したが、中国勢がEU域内のハンガリーに工場を作れば、関税を回避する「抜け穴」となる。
英紙フィナンシャル・タイムズは20日、EUの執行機関・欧州委員会が、中国政府がハンガリーのBYD工場に不当な補助金を支給したか、調査に乗り出したと報じた。不当と判断すれば、生産能力の削減や補助金の返済を強制するといい、今後のEUの対応が注目される。