超特大のブラックホールが、重力レンズを作り出す巨大銀河の内側に潜んでいた

この画像を大きなサイズで見るコズミック・ホースシュー NASA/ESA/Hubble

宇宙には、まるで魔法のような現象が存在する。そのひとつが重力レンズだ。

この重力レンズによって、天文学者たちは通常では観測できないほど遠くの銀河や宇宙の構造を知ることができる。

 その代表的な例のひとつが馬の蹄鉄(ていてつ)型をした「コズミック・ホースシュ」だ。これは、地球から約55億光年先にある巨大な銀河「LRG 3-757」が、さらに奥の銀河の光を歪めて作り出したリング状の像である。

 新たな研究により、LRG 3-757銀河の中心には太陽の360億倍というとてつもない質量を持つ「極超大質量ブラックホール(ultra massive black hole)」が存在することが明らかになった。

 銀河や恒星の重力は、ときにレンズのような効果を発揮することがある。これを「重力レンズ」という。

 アインシュタインの一般相対性理論によれば、重力は周囲の時空を歪める。すると、そこを通過する光の進路も曲がることになる。

 その結果、銀河や恒星の後ろに隠れて通常なら地球から見えないはずの天体の姿が見えることがある。これが重力レンズである。

 それが結ぶ像は、ときにリングのように美しいものもあり、これを特にアインシュタイン・リングという。

 しし座の方角へ55億光年離れた高光度赤外線銀河「LRG 3-757」の重力レンズは、まるで”馬の蹄鉄(ていてつ)”のような形をしている。そこからついた愛称が「コズミック・ホースシュー」である。

 LRG 3-757銀河はとても大きな銀河で、私たちが暮らす天の川銀河の約100倍の質量がある。じつのところ、これまでに観測された最大級の銀河のひとつだ。

 だが、今回の研究では、その巨大銀河の中心に、これまでで最大級のブラックホールが存在することが明らかになっている。

 そのブラックホールの質量は、太陽の360億倍。あまりの巨大さに「極超大質量ブラックホール(ultra massive black hole)」と呼ばれている。

 あらゆる巨大銀河の中心には、太陽質量の約100万倍~数百億倍もある怪物のようなブラックホールが存在する。それが「超大質量ブラックホール」だ。

 極超大質量ブラックホールは、超大質量ブラックホールの中でもとびきり大きなもの。厳密な定義はないが、一般には太陽質量の50億倍以上のものがそう呼ばれるのだという。

 これらは、それを宿している銀河と共に進化しており、両者には密接な結びつきがあると考えられている。

この画像を大きなサイズで見る銀河のバルジ内(中心の膨らんだ部分)にある星々の「速度分散」と極超大質量ブラックホールの「質量」との関係を表したもの。その結びつきはかなり強固で、速度分散から超大質量ブラックホールの質量をかなり正確に知ることができるが、コズミック・ホースシューにある極超大質量ブラックホールはこの法則から逸脱している/Credit: arXiv (2025). DOI: 10.48550/arxiv.2502.13788

 今回の研究では、LRG 3-757銀河のバルジ内(中心の膨らんだ部分)にある星々の「速度分散」と、極超大質量ブラックホールの「質量」との相関関係が調べられている。

 速度分散とは、個々の星々が動くスピードが、そこにある星々の平均的なスピードに比べてどのくらいばらついているのか表すものだ。速度分散が大きいほど、星々は速く、かつランダムに移動しているということになる。

 じつはこの速度分散は、超大質量ブラックホールの質量とも関係していることが知られている。速度分散が大きいほど、銀河中心にある超大質量ブラックホールもまた大きいのだ。

 その結びつきはかなり強固なもので、速度分散から超大質量ブラックホールの質量をかなり正確に知ることができる。

 ところが、コズミック・ホースシューにある極超大質量ブラックホールの質量は、この相関関係から予測されるものよりもずっと大きかった。一般的な法則から逸脱しているのである。

 研究チームによると、こうした逸脱は、「銀河団中で最も明るい銀河(Brightest Cluster Galaxies)」では特に顕著で、LRG 3-757銀河の事例はそれを裏付けているという。

 ではこの逸脱は何が原因で起きているのだろうか? 研究チームは3つの可能性を考えている。

1. LRG 3-757銀河が「化石銀河群」の一部である可能性

 化石銀河群とは、中心に非常に大きな銀河が存在する大型の銀河群のことで、初期の銀河合体の残骸とされている。

 銀河の進化の終盤に差し掛かっており、大きな活動はない。だが過去に起きた銀河合体によって、一部の星々が追い出され、速度分散に影響した可能性がある。

2. LRG 3-757銀河が「スカウリング」を経験した可能性

 スカウリング(scouring)は、2つの巨大な銀河が合体し、中心部の星々の速度分散が影響を受ける現象のこと。

 この現象では、銀河中心部にあった星々が追い出され、星の速度分散が低下する。一方、超大質量ブラックホールの質量はほとんど変わらないので、法則から逸脱する。

3. 活動銀河核フィードバック

 銀河中心にある超大質量ブラックホールの中でも、特に活発に物質を飲み込んでいるものを「活動銀河核」という。

 活動銀河核から強力なジェットが噴出しているが、これは星の形成を抑制し、銀河中心部の構造を変化させる可能性がある。これが超大質量ブラックホールの成長と速度分散とのつながりを切り離すのかもしれない。

 こうした極超大質量ブラックホールの逸脱を理解するには、さらなる観測とより精緻なモデルが必要であるとのことだ。2023年に打ち上げられたESAのユークリッド宇宙望遠鏡の観測によって、その解明が進むと期待できるそうだ。

 この研究の未査読版は『arXiv』(2025年2月19日投稿)で閲覧できる。

References: Phys.org

本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに重要なポイントを抽出し、独自の視点で編集したものです。

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