現地記者が綴る久保建英への愛と期待「レアル・ソシエダの“王”となり、それからビッグクラブへ羽ばたけばいい」|ラ・リーガ(DAZN News)
練習場のスビエタでもホームスタジアムのアノエタでも、目にできる光景は一切変わらない。可愛らしくも凛々しい顔のあの日本人が現れると、レアル・ソシエダのサポーターは一際大きな歓声を上げる。 「クボ!」 「タケ!」 「クラック(スペイン語で名手の意)!」 「エレス・メホール(お前が一番だ)!」 「ミ・ハポネス・ファボリート(私のお気に入りの日本人)!」 とりわけ、子供たちの熱狂ぶりがすごいが、大人たちも彼にはある種の“格”を感じ取っている。 バスクのクラブであるソシエダは、伝統的に下部組織を重視しており、サポーターは自家製の選手たちに深い愛情を注ぐ。しかし彼らにとっては、久保建英も特別な存在なのだ。ソシエダ加入から4シーズン目を迎えた彼が、過渡期に差し掛かったチームを引っ張ってくれれば――そう願う人々は少なくない。
私たちが久保を愛する理由の一つには、はっきりと物を言う性格が挙げられる。試合後のフラッシュインタビューや記者会見で、彼はほかの選手のように上っ面やテンプレートの話はしない。その発言は率直かつ誠実でありながら機知にも富んでいて、「クボの話には耳を傾けなくてはいけない」と、サポーターだけでなく記者たちも彼に魅了されてきた。 ただ今夏、そうした彼の性格が騒動を起こしてしまった。 ソシエダは今季、新たなスタートを切っている。昨季はこれまで以上の過密日程に苦しみ、ラ・リーガを11位で終えて6シーズン連続の欧州カップ出場を逃した。その結果、クラブの一時代を築いた監督イマノル・アルグアシルが去ることになり、彼のようにBチームを率いていたセルヒオ・フランシスコが後任に。さらに中盤の柱だったMFマルティン・スビメンディが、移籍金7000万ユーロでアーセナルへと移籍している。 昨夏にロビン・ル・ノルマン(現アトレティコ・マドリード)、ミケル・メリーノ(現アーセナル)も売却しているソシエダからさらなる主力が流出--久保はチームの弱体化を危惧して声を上げた。日本ツアー中、スペインメディアに対して、こう語ったのだった。 「僕たちには経験ある選手たち、新しい風をもたらす選手たちが必要です。自分がラ・レアルにやってきたときには、(ダビド)シルバ、ミケル・メリーノ、スビメンディ、ブライス・メンデスのような選手たちに囲まれていました。僕たちには“プラス”となるものが必要なんです」 この発言は爆弾のように扱われ、監督のセルヒオも会長のジョキン・アペリバイも「チームには十分なクオリティーがある」と火消しに走っている。選手がそういったことを言えば、やはり問題になるだろう。たとえソシエダを思っての発言でも、“今いる選手たちでは頼りない”というチームメートの軽視につながり、グループの団結を損ねることになる。加えて、前述のとおりソシエダは、自分たちが根を下ろす地域や下部組織を重視し、外部からの積極補強には否定的なクラブだ。下部組織からトップチームまでプレーシステムを一貫させ、監督も選手もできる限り自クラブで育てて、確かな帰属意識を持った選手たちがピッチに立つ--彼らにとって、このクラブのアイデンティティーは大きな誇りなのだ。
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……もちろん、分かってはいるのだ。久保がソシエダの絶対的な存在になるときは、欧州のビッグクラブに渡るときなのだと。今夏にもその可能性はあったが、本人はあくまで誠実だった。 「何が起こるかは分かりません。けれど今、僕がここにいることがすべてなんだと思います。自分がソシエダの選手であるのは間違いないです」 “そのとき”がくれば出ていくが、ソシエダの選手である限りはここで全力を尽くす。だからこそ、チームのためにも言わなきゃいけないと思うことは言わせてもらう--久保の話には、やはり嘘がない。だからこそ、彼のことは信じないといけないのだ。 今日もアノエタでは、この日本人の名を叫ぶ声がこだまする。タケ・クボは、ソシエダが紡ぐ物語の真ん中に立っている。