【中国ウオッチ】習近平主席4選の布石か◇新「思想」大々的に宣伝:時事ドットコム
中国共産党は習近平国家主席(党総書記)の指導理念として「習近平党建思想」を提起し、大々的に宣伝を開始した。政権運営の根幹である党組織建設に関する習氏の思想が公式化されたのは初めてで、来年開かれる第21回党大会での総書記4選に向けた布石とみられる。(時事通信解説委員 西村哲也)
全国党建工作座談会が6月15日、北京で開かれ、最高指導部の党政治局常務委員会から党中央書記局の蔡奇筆頭書記と党中央規律検査委の李希書記の2人が出席した。公式報道によると、座談会は、習氏が総書記に就任した2012年の第18回党大会以後、習氏を核心とする党中央が長期執政のマルクス主義政党をどのようにつくり上げていくのかについて一連の新理念・新思想・新戦略を打ち出し、習近平党建思想を形成したとの認識を示した。
この思想は「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想の重要な構成部分」「新時代における党建設強化の根本的指針」であり、「中国の特色ある社会主義の最も本質的特長」としての党の指導や党中央の集中統一指導などを堅持することを明確にしたとされる。理論的に目新しいものは特にないが、座談会では、習氏に対する個人崇拝スローガンである「二つの確立」「二つの擁護」の重要性も同時に強調されており、要するに、組織編成や人事配置は習氏個人の考えに絶対従えということなのだろう。
国営通信社の新華社は同日の論評で、西側の政党政治はさまざまな苦境に陥り、ポピュリズムが台頭し、極右思想が広まって、各党は新たな理論的指針を必要としていると指摘。その上で、「習近平党建思想はその崇高な価値志向と独特の思想的魅力によって、西側政党制度の神話を打ち破り、グローバル化時代の世界政治文明の発展と人類政治文明の進歩に中国の主張を提起し、中国の知恵を届けた」と同思想を評価した。経済発展レベルが中国よりはるかに高い西側諸国の政治も習氏の思想を見習うべきだという現実離れした主張であり、尋常ではない持ち上げ方だ。
習氏の分野別の指導理念としては、既に「習近平経済思想」「習近平外交思想」「習近平強軍思想」などが公式化されていたが、いずれも個別の政策指針であり、政権の在り方に関わるものではなかった。
座談会から8日後の23日には、早くも「習近平党建文選」の出版が発表された。「習近平経済思想」など他の分野別思想の文選は、思想の公式化から数年後に出版されたか、まだ出版されておらず、今回の宣伝は力の入れ方が違う。
なお、座談会が開かれた15日は習氏の73歳の誕生日。意図的に日にちを合わせたと思われる。中国では指導者の誕生日を公式には祝わないことになっているが、党中央宣伝部の指導下にある国営中央テレビはこの日、「共産党員習近平」と題する番組を流して、個人崇拝ムードをあおった。
落ち目の清華大人脈
この種の会合は通常、習氏自身が出席するか、指示を伝達するが、全国党建工作座談会はそのどちらもなく、中央党建設指導工作小組の組長である蔡氏が演説した。習氏最側近の蔡氏が総書記の代理を務めた形だ。2月の同小組会議では、副組長の李希氏も演説したが、今回は蔡氏だけが演説して、実力者としての存在を誇示した。
また、蔡氏は6月5日、幹部養成機関の中央党校校長を兼ねたことが判明した。これまでも、幹事長に当たる党中央の筆頭書記と、総書記の日々の活動を支える党中央弁公庁主任を兼務して異例の重責を担ってきたが、さらに幹部人事に関与する要職を増やした。
ただ、政治局常務委員である筆頭書記が中央党校校長を兼任するのは、江沢民時代以後の慣例に戻ったにすぎない。習氏や胡錦濤国家主席も筆頭書記(国家副主席兼務)時代に同校長を務めた。習政権2期目に党中央組織部の陳希部長(党政治局員)が同校長を兼ね、習政権3期目になって部長・政治局員を退任した後も一般党員として校長を続投していたのが変則的な人事だったのだ。
陳希氏は蔡氏と同じ福建省出身ながら、蔡氏が率いる習派内の福建閥ではなく、清華大学人脈のリーダーといわれている。福建は習氏が若い頃に長く勤務した地方、清華大は習氏の母校である。陳希氏が異例の人事で長く中央党校校長の座にあったことは、習氏が人事面で陳希氏をいかに頼りにしていたかを示している。
陳希氏は習政権3期目でも、同校長に留任した上で、同じ清華大出身で山東省党委書記だった李幹傑氏を中央組織部長に据えて、幹部人事への影響力を保っていた。しかし、昨年春、李幹傑氏は党中央統一戦線工作部長に異動。形式上は横滑りだが、事実上は左遷だった。
その時点で陳希氏の影響力は大幅に低下し、校長退任でそれが決定的になった。同氏失墜の原因は不明だが、もし清華大人脈全体の問題だとすれば、この人脈に属する上海市党委の陳吉寧書記(政治局員)も巻き込まれる可能性がある。同氏は清華大の元学長で、陳希氏の直系。第21回党大会で政治局常務委入りするといわれてきたものの、3期目の習政権は習派の有力者でも粛清・左遷されるケースが多く、次期指導部人事は不透明感が増している。
不安招く「社会主義改造」絶賛
6月の中国は政治関係の動きが目立ち、中央党校校長人事や習近平党建思想に続いて、主要公式メディアによる「社会主義改造」礼賛が注目された。
中国共産党結成105周年(7月1日)を前に、新華社は6月19日、党機関紙の人民日報は同20、21の両日、毛沢東時代初期の1950年代に党が断行した農業や商工業の社会主義化(公有化)政策を取り上げた。特に新華社の記事はこの政策を「未曽有の意義深い社会変革」「偉大な変革」と評価し、「当時の模索は今日の中国式現代化に強固な制度的支えと貴重な経験を提供した」とその現代的意義を強調した。
社会主義の前段階である「新民主主義」体制でスタートした中華人民共和国は「公私合営」などの社会主義改造により、社会主義体制に移行したとされているので、公式メディアがそれを称賛するのは当たり前。だが、商工業の社会主義改造は事実上、民間企業の収奪だったので、民間ビジネスを振興する改革・開放時代になってからは、社会主義改造の意義を派手にアピールすることは避けられてきた。
このため、新華社の社会主義改造絶賛は、習政権がより左傾化して、民間ビジネスや私有財産に対する社会主義的規制を強めていくのではないかとの印象を与えた。経済面でも党の指導をひたすら拡大する習政権の政策のせいで国内経済が失速し、SNSには失業・収入減や不動産暴落を嘆く声があふれている状況なので、民間側の不安はなおさら大きいだろう。
もっとも、習政権はこれらの声にも馬耳東風で、相変わらず中国経済光明論を唱えている。中国は、習政権が内紛を抱えながらもまだまだ続き、習氏とごく少数の最側近に権力がますます集中して、経済に対する締め付けを強化していくことになりそうだ。
(2026年06月30日)