【番記者の視点】柏の「勝ちきるチーム」への一歩…名古屋戦で見せた強さと今後

◆明治安田J1リーグ ▽第13節 名古屋1―2柏(29日・豊田スタジアム)

 【柏担当・浅岡諒祐】「チーム全体で成し遂げた素晴らしい逆転勝利」。リカルド・ロドリゲス監督が試合後の会見で語ったこの言葉に尽きる。エースの躍動、待望の追加点、2位浮上、リーグ唯一で最小の1敗をキープ。難しい時間帯もありながら、敵地で強さを発揮した。

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 サプライズは先発発表から始まった。ロドリゲス監督は前節の新潟戦(1△1)から先発を7人変更。うち、DF三丸拡、MF白井永地、MF中島舜は今季リーグ戦初先発だった。指揮官は「(26日の新潟戦から)中2日でやるのはとても難しいスケジュール。疲労ももちろん、残っている。けがのリスクを高めてしまうのも考慮し、こういう形でメンバーを変えた」と大量変更の意図を説明。システムも今季初めて2トップ、2シャドーという「基本的にはやっていない」(DF古賀太陽)型に挑戦した。

 しかし、決してメンバーの質を落としたわけではない。20日の湘南戦から続く3連戦を考慮し「新潟戦そして、中2日での名古屋戦という2試合を含めて考慮した形でメンバーを考えてきた」といい、「代わりに出た7人も素晴らしいパフォーマンスを練習、そしてカップ戦でも表現していた。彼らもチームの戦力として十分評価している」と称賛。今季の強みの一つであるオプションの多さを見せつけた。

 後半からはMF小泉佳穂やMF熊坂光希ら、新潟戦で先発した選手も投入した。「通常リーグ戦でプレー時間を長く得ている選手たちを途中投入することによって、後半のレベルをさらに維持して勝利を目指す。そういう形でカードを切るのも計算して準備してきた」と狙い通り。実際に終盤にかけて安定感が増し、古賀も「普段スタートで出ている選手も途中から出ることの役割をうまく整理して入ってくれた。もう1個ギアを上げてくれた印象もありますし、チームを助けてくれた、しっかり仕事をしてくれた印象はありますね」とうなずいた。

 それでも、後半から途中出場したMF久保藤次郎は「試合前に『野心を持て』と監督は言っていたので、戦術的というよりかは、新潟戦勝ちきれなかったからスタメン変えたぞ、という意図の方が強いと思う。前節スタメンで出た人たちは『外された』という気持ちで入ったと思うし、僕はそうやって入った」と危機感を募らせる。普段、先発で出ていても気が抜けない。今季途中出場も多いFW細谷真大が「また選手の層を厚く出来た。スタメンが変わった中でも勝ち切れたのはすごく大きい」と語るように、チーム内での激しい競争が選手個々の向上につながっている。

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 逆転して勝ち切れたこともプラスの要素だ。ロドリゲス監督が「試合のスタートが良くなかった。警戒していた形の失点だった」、古賀も「立ち上がりで前節からの反省をうまく生かせなかった」と反省するように、前半2分で早々に失点。さらに、「背後に蹴ってうまく相手陣地に入っていこうという狙いはあったんですけど、うまくできなかった」(MF山田雄士)と、流れを引き戻すことが出来ず、新潟戦で課題に挙がっていた開始約15分の動きの悪さが再び浮き彫りになった。

 しかし、同33分に山田が「真大がうまく奪い返してごちゃごちゃとなった所でこぼれてきた」と振り返るシュートを沈めて同点。「前半、ずっときつい展開の中でワンチャンスで点を取れてチーム全体もほっとするというか、勝つための気持ちに切り替わった。少し焦りが消えた」(山田)。焦りが消えれば、狙いの背後への攻撃も決まるようになる。となると、そこで「自分の強みでもある背後の飛び出しは生きていた」と語るエースの一発だ。

 「攻撃的な主導権を握るサッカー」の下、今季の無得点試合は1試合のみだが、複数得点も2試合のみ。第4節の浦和戦以降は8試合連続で1点以下で、「最後の質」が一つのテーマだった。後半5分に細谷が決めた“技あり”決勝弾は、その満点回答だったのではないか。

 視察に訪れた日本代表の森保一監督がその決定力に言及するように、DFジエゴの左クロスから元日本代表GKシュミット・ダニエルの右を抜くゴールは芸術的だった。「監督は『1点じゃ足りない』と話していますし、『追加点、追加点』と話している。今日の前半の入りは悪かったが、後半の入りはしっかり入っていこうと話していたので、うまくゴールにつながった」と細谷。今季苦しんでいるエースのこの一発は、「2点目」を取れずに悩んでいたチームも解放させる。そんな予兆を感じさせた。

 「負けないチーム」から「勝ちきるチーム」へ。新たな一歩を次戦の清水戦(5月6日・三協F柏)でも踏む。

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