比嘉大吾の世界戦はなぜ常に大接戦になるのか 英国人ライターが分析

杉浦大介スポーツライター
Photo : Naoki Fukuda through Boxlab Promotions

 ドラマチックだった寺地拳四朗(BMB)対リカルド・サンドバル(アメリカ)戦のセミファイナルとして行われたWBA世界バンタム級タイトルマッチ、アントニオ・バルガス(アメリカ)対比嘉大吾(志成)戦も好ファイトとなった。

 4回、比嘉が左フックのカウンターを決めて先制のダウンを奪い、やや優勢かという展開。バルガスも12回、起死回生の右ショートフックを当ててダウンを奪い返した。判定は3人のジャッジが揃って113-113と採点するドロー。辛くも初防衛を果たしたバルガスは19勝(10KO)1敗1分となった。またも惜しい試合を逃し、世界戦で2試合連続引き分けの比嘉は21勝(19KO)3敗3分。比嘉は試合後に引退表明している。

 試合後、軽量級にも精通するリングマガジンのマネージングエディター、英国人のトム・グレイ氏にこの一戦を振り返ってもらった。

 以下、グレイ記者の1人語り

ポイントを奪われてしまいがちな理由

 試合終了後には、比嘉に少し同情せざるを得なかった。本当に素晴らしい試合であり、非常に拮抗していたが、もし12ラウンドでダウンを奪われていなければ比嘉が世界タイトルを手にしていたわけだから。彼はもう長い間、そのタイトルを追いかけてきた。

 今年2月、堤聖也に挑んだ一戦では引き分けだったし、昨年9月の武居由樹への挑戦試合でも僅差の判定負けだった。フライ級で一度は世界王者になったことがあるのが救いだが、そうでなければ、こうしてギリギリのところで世界タイトルに届かない経験は彼を精神的に圧迫しかねなかっただろう。

 もっとも、正直に言うと、個人的には今回の試合では12ラウンドの時点でバルガスがやや優勢だと感じていた。引き分けという結果はやや比嘉に有利に働いた採点だったようにも思う。ひとつ気になったのは、比嘉は相手に攻め込まれている時、ガードを上げたまま後ろに下がる傾向にあること。その際にほとんど頭を動かさないし、上半身の角度も変えない。だから実際にはクリーンヒットされていなくても、ジャッジにはパンチが当たっているように見えるかもしれない。

昨年9月の武居戦も激闘の末、比嘉は惜しくも判定負けだった写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 比嘉の戦い方には常にそういった傾向が見られ、おかげでポイントを奪われてしまいがち。彼の試合がいつも接戦になるのは偶然ではないと私は思っている。今回で引き分けは3度目だが、現役を続行するのであれば、今後も拮抗した戦いを続けるのだろう。

 試合直後、比嘉が現役引退を表明したことは知っている。激闘直後、感情的な反応を示した部分もあったのではないかと思う。2018年にクリストファー・ロサレスに敗れてフライ級タイトルを失ったあと、彼は数年間は姿を消していたが、また戻ってきた。

 比嘉はまだ29歳であり、世界のトップレベルで戦えることはすでに証明されている。バルガス戦でもいいファイトを演じたわけだから、日本のバンタム級の層が厚いことを考えても再び重要な試合に出るチャンスは来るのだろう。少し冷静になり、リングに戻ってきてくれることを私は期待しているよ。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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