アングル:小売業の春闘、大手けん引 賃上げ持続性には懸念
[東京 22日 ロイター] - 小売業の2025年の春季労使交渉(春闘)は、24年と同様に大手企業が相場形成をけん引するとみられている。アルバイトやパート従業員を含めた小売業の裾野の広い賃上げは、次の利上げ時期を探る日銀のサポートにもなりそうだ。もっとも、長引く物価高で消費者の節約志向が根強く残る中、輸送費や光熱費などを含む増加した全てのコストを販売価格には上乗せしづらく、専門家からは、今後の小売業の賃上げ継続に懸念の声も出ている。
長引くインフレで消費者の購買力が低下し、小売りの現場からは消費者の購入点数の減少や、低額品への需要のシフトも報告されている。加えて人件費や販売促進費などの負担増もあり、足元の業績は悪化している。そうした中でも各社が賃上げを表明するのは人手不足が深刻なためだ。
Japan's labour-intensive retail sector is among those suffering the worst labour shortages食品や日用品を扱うスーパーマーケットでは、店舗に勤務する従業員のパート・アルバイト比率が約7割に上り、人員不足は日々の営業に直接影響する。ライフの岩崎社長は、パート従業員について「(首都圏のパート時給が平均1200円台前半のところ)採れないエリアでは時給1300円、あるいはそれ以上の条件で募集を出しても集まらない」といい、外国人やスポットワーカーなどに入ってもらいながら、何とかやり繰りしてオペレーションをつないでいる状況だと明かす。
<裾野に広がり>
イオンは25年もパート時給を平均7%引き上げる方向で調整中。同社の四方基之執行役は10日の決算説明会で、賃上げした結果、非常に採用がしやすくなったという声が現場から上がっている、と紹介。人中心に成り立つ小売業では、人的投資ができなければ企業は存続できないと強調した。
日銀は23─24日の金融政策決定会合で利上げを議論する方針で、植田和男総裁は判断する上で米国の第2次トランプ政権の経済政策や国内の春闘のモメンタムが重要と説明している。賃上げについては年初の企業幹部の発言や今月の支店長会議での報告を踏まえると「前向きな話が多い」との認識を示している。
<価格転嫁、フルには難しく>
もっとも、小売業には百貨店、総合スーパー(GMS)、ドラッグストア、スーパーマーケット、家電量販店、専門店など業態による違いや、大手・中小における経営体力の差もある。民間エコノミストからは企業の賃上げの実行性や持続性について懸念する声も上がっている。
厚生労働省の昨年11月の毎月勤労統計によると、実質賃金は前年比0.3%減と4カ月連続でマイナスだった。賃上げ効果や冬のボーナス支給が一部で始まり名目賃金を押し上げたが、電気・ガス補助金の終了などで物価の上昇ペースの方が上回った。
帝国データバンクの藤井俊情報統括部長は、人々に生活が向上したという実感は乏しく、根強い節約志向があると指摘。小売業でも店頭の末端価格が据え置かれる傾向にあるという。商品への価格転嫁が進みにくい中、人件費の増加が収益を圧迫し、「中小企業の賃上げは昨年ほど見込めない可能性もある」とみている。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員も、小売業では安売りを志向する店の売り上げが伸びている傾向があり、「価格を上げても消費者がついてきてくれる流れがやや途切れかけている」と指摘。各種のコスト増を販売価格に転嫁するのは難しく、この先も賃上げを継続できるか「こと小売り業界に関しては心配だ」と話す。
中小企業の賃上げ原資の安定的な確保には、企業自身による生産性向上や、サプライチェーン全体を通じた取り組みが必要となるが、消費者と接点の多いサービス産業では「消費者マインド」という高いハードルもある。消費者が価格アップに理解を示し、受け入れるかも賃上げの成否に重要な要因となる。
杉山健太郎、山崎牧子 取材協力:清水律子 編集:内田慎一
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