天の川銀河とアンドロメダ銀河の衝突確率、「不可避」から「半々」に減少

1世紀以上にわたり、天文学者たちは、われわれがいる天の川銀河の隣にある巨大なアンドロメダ銀河が、こちらに向かって猛スピードで接近してくる様子を観測してきた。ハッブル宇宙望遠鏡を使った近年の観測結果も、長く語られてきた予言を裏付けているかのように思われた。つまり、今から40〜50億年後、ふたつの銀河は衝突し、融合してとてつもなく大きな新しい銀河ができるというものだ。

しかし、このふたつの銀河と、近くにあるほかのいくつかの銀河を改めて調べたところ、そうした悲劇的な結末に疑問が投げかけられることとなった。新たな予測によると、今から数十億年先にアンドロメダ銀河と天の川銀河が衝突する確率は五分五分だという。論文は2025年6月2日付で学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。

「コイン投げと同じような、運任せの状態と言えるでしょう」と語るのは、この研究の筆頭著者であるフィンランド、ヘルシンキ大学の天体物理学者ティル・サワラ氏だ。

銀河が壮絶な終焉(しゅうえん)を迎えるという展開は、もはや確かなことではなくなった。論文の中でサワラ氏らは、「われわれの天の川銀河に終焉の危機が迫っているという宣言は、大いに誇張されたものだったようだ」と書いている。

地球は今から50億年後には存在していないだろう。膨張して死にゆく太陽に焼かれ、飲み込まれてしまう可能性が高い。それでも、もし天の川銀河とアンドロメダ銀河が互いに衝突せずにすむなら、未来の世界にとっては朗報だ。

というのも、これほど大規模な銀河が融合すると、多くの場合、それぞれの銀河の中心にある超大質量ブラックホールが合体して、恐ろしいほどのエネルギーに満ちたモンスターのような天体が出現するからだ。そうなれば、周囲にあるガスは温度が下がらず、集まって新しい恒星ができることもない。新しい恒星がなければ、新しい惑星も生まれない。

ふたつの銀河が衝突せず、ニアミスですむ可能性があると考えると、「どこかホッとする気持ち」を覚えると語るのは、オーストラリア、スウィンバーン工科大学で銀河を研究するアリスター・グレアム氏だ。「天の川銀河が今後も長く生き残り、惑星ができる可能性があると考えるのはうれしいものです」。なお、氏は今回の研究には関与していない。

天文学者たちは、アンドロメダ銀河が天の川銀河に猛スピードで近づいていることに20世紀初頭から気づいていた。だが、正面から衝突するのか、それともかすめる程度なのか、あまり詳しいことについてはわかっていなかった。

しかし2012年、ハッブル宇宙望遠鏡を使った画期的な研究により、はっきりとした結論が出された。恒星の動きと銀河の莫大な質量をもとに計算すると、両者は重力によって互いに引き寄せられ、40〜50億年後には正面衝突を起こすというのだ(その後の研究では、衝突が起こる時期についてはもう少し前後する予測も出ていたが、衝突が避けられないという点に疑問が呈されることはなかった)。

そして、嵐のような激しい衝突から約20億年後には、渦巻いていたふたつの銀河は融合し、ひとつの楕円状の銀河として落ち着きを取り戻すことになる。

2012年以降、この結末は科学界における常識、教科書に載る定説となった。「天の川銀河とアンドロメダ銀河だけを考慮するのであれば、両者は互いにまっすぐ正面衝突に向かっていくでしょう」とグレアム氏は言う。

しかし、将来の衝突の可能性は、「局所銀河群」に含まれるその他すべての天体のふるまいに左右される。局所銀河群とは、天の川銀河とアンドロメダ銀河を中心とした宇宙の一角に漂う、少なくとも100個の銀河からなる集団のことだ。近くにある大きな銀河は、長い年月の間に、天の川銀河とアンドロメダ銀河の動きに影響を与える可能性がある。

サワラ氏のチームは、天の川銀河とアンドロメダ銀河の進化を100億年先までシミュレーションすることにした。実行するにあたり、彼らは同時に、局所銀河群に含まれる重要な天体、特に3番目に大きな銀河であり、渦を巻いている「さんかく座銀河」と、天の川銀河のまわりを公転する不規則銀河である「大マゼラン雲」の影響を加味した。

研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡と、欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡ガイアによるデータを用いて、これらの銀河の動きと質量をこれまで以上に精密に割り出した。この質量には、通常の物質と、目には見えないもののより多く存在している暗黒物質(ダークマター)の両方が含まれている。

さんかく座銀河が非常に大きいことは以前から知られていたが、大マゼラン雲については、これまでは比較的軽いと考えられてきた。しかし、新たなデータは、大マゼラン雲が予想外に重く、天の川銀河の質量の10〜20%に相当することを示している。「これほどの質量を持つ天体であれば、天の川銀河の宇宙空間での動きに影響を与えることになります」とサワラ氏は言う。

研究チームは、これら4つの重たい銀河の動きのシミュレーションを数千回にわたって実行した。その結果、さんかく座銀河の重力は天の川銀河とアンドロメダ銀河を互いに引き寄せる方向に働いた一方、大マゼラン雲は逆に引き離す作用をもたらした。そして、4つの銀河が"共に踊る"とき、最終的に大規模な衝突が起こる確率はわずか2分の1にとどまった。

「天の川銀河とアンドロメダ銀河がいつ、どのように融合するかについては、今後も不確かな要素が残るでしょう」と、英マンチェスター大学の銀河系外天文学者クリストファー・コンセリス氏は言う。なお、氏は今回の研究には関与していない。

暗黒物質が、銀河同士を結びつける力として働く可能性はある。一方で、宇宙のすべてを引き離そうとしていると考えられている不思議な力である暗黒エネルギー(ダークエネルギー)もまた、重要な役割を果たすだろう。

最近のデータは、暗黒エネルギーの力が時間とともに変化することを示唆している。つまり、はるか未来の銀河の融合を予測するのは、そう単純な話ではないということだ。それでも、これらふたつの銀河はいずれ衝突するという説が、もはや確実とは言えなくなったことは確かだろう。

一部の天文学者は、天の川(ミルキー・ウェイ)銀河とアンドロメダ銀河が衝突した後に生まれる新しい銀河を「ミルコメダ」と名付けようと提案している。あまり発音しやすい名前とは言えないが、心配はいらないとサワラ氏は言う。「もっといい名前を考える時間は、まだ数十億年残っていますから」

いずれにせよ、天の川銀河の未来は、さまざまな力が複雑に絡み合う混乱の中で決まることになる。たとえ大マゼラン雲がアンドロメダ銀河と天の川銀河を引き離しているのだとしても、サワラ氏らのシミュレーションは、大マゼラン雲が今後20億年以内に天の川銀河に飲み込まれる運命にあることを示している。

「大マゼラン雲が天の川銀河に飲み込まれる確率はほぼ100%です」とサワラ氏は言う。「これを逃れることはできません」

文=Robin George Andrews/訳=北村京子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2025年6月6日公開)

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