「誰に言ってんねん、コラー!」…“星のまち”を揺るがす壮絶パワハラ問題 内部通報はなぜ1年以上も放置されたか
大阪府交野市――。同府と奈良県の県境に位置する人口約7万7000人の都市だ。 1200年前の平安時代、弘法大師「空海」が同市内にある寺で修行をしていたところ、夜空から北斗七星が3か所に分かれて落ちたという伝説が残っていたり、用水の不足で水田の耕作ができずに牧場にされた「乾し田」から「星田」という地名ができたり、また、市の中央部には「天野川」という名の川が流れていたりと、交野市には、星にちなんだ場所が多い。 【写真を見る】北斗七星伝説、星田、天の川…「星のまち」がパワハラで揺れている 「そんなことから、交野市は『星のまち』として知られています。…まあ、被害者にとっては今や『パワハラのまち』でしかありませんが……」 そう語るのは、交野市の行政機関で働く関係者だ。
7万7000人の市民のくらしを守る市役所。法律や規範が重んじられるはずの役場の中で長年、幹部職員によるパワハラ・暴行が行われていたという。2024年7月、そのうちの9件を市役所職員が内部通報。その際、職員は客観的根拠を提示し、さらに証拠となる録音データの在り処も明確に知らせ、被害者へ直接ヒアリングをするよう人事課に伝えた。 しかし、市はその要望に応えず、内部通報を1年以上も放置していたのだ。 内部通報から1年後の今年10月27日、この状況を訴えるべく、三号通報として被害者複数人が記者会見を開く。そこで実際のパワハラの音声が流された瞬間、会場にいた記者が競うようにして叩いていたパソコンの打刻音がピタリと止まった。 「誰に言ってんねんコラー!!!」 多くの被害者がいるなかで、なぜ長年パワハラは表沙汰にならなかったのか。 今回、当時の状況を知る複数の市の関係者を取材。長年繰り返し行われてきた辛辣なパワハラ・暴行の詳細と、交野市の構造的な隠蔽体質、被害者が支配されてきた「報復」に対する恐怖を追った。(前後編の前編) ※整備士の労働現場<後編>は、次々回にお届けする。
9件の事案のうち8件のパワハラ(うち1件は暴行含む)に関与していたのは、当時まちづくりを担う部署で課長をしており、現在は企画部門の次長兼まちづくり部署の次長である加害者「X」だ。 被害者のうちの1人は、ある大型公共事業に従事していたA。事業実施にあたり、必要な申請書類を上位官庁である大阪府に提出する際、経由先になっていた部署にいたのがXで、2022年7月、XはAに対して業務に影響を及ぼすほどのパワハラを働く。当時を知る市の関係者はこう話す。 「AがXに書類を持って行くと、Xは何度も『見にくいからやり直してこい』と難癖や因縁をつけていました。本来であれば遅くても概ね3週間ほどで送られるはずの書類を2か月以上も止めたんです」 これにAが「事業に支障が出るので何とかしてほしい」と懇願すると、「それはお前の書類の出来が悪いからだ」、「こんな書類で許可が下りると思っているのか」と突っぱねたという。 「しかし、Aはその行政手続きの事務を担当する部署で長年勤務していた経験があったんです。大阪府の担当部署へ直接その書類の要否を問い合わせたところ、『そんな書類、大阪府は求めない』との返答があったそうです。つまり、Xは必要のない書類を何度も直させ事業を止めたことになります」(同関係者) その後もXは、「アホ」、「ボケ」、「どんな態度でモノ言うとんねん」、「先輩に対して失礼やろ」とAを罵倒。自らの優位的な立ち位置から圧力をかけ、謝罪を強要した。 「自分の言い方で気分を害したならそれについては謝罪しますが、全部こちらが悪いとは思っていない。先輩が下の人間に『アホ・ボケ・コラ』というのは恫喝ではないんですか」 Aがそう返すとXは、 「それは謝罪するものの態度ではない。証拠があったら見せてみろ」 といきり立ったという。
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パワハラを行った加害者Xは、市役所の重要なポストに就く幹部職員だ。企画系部署の次長でまちづくり系部署の次長も兼務している。これまで周りを権力者で囲い、周辺の職員には口利きをしてやったと恩を売り、パワハラを繰り返してきたという。 「交野市に2人いる副市長のうちの1人、そして総務部長、企画系部署の部長とズブズブの関係です。Xが所属するもう1つの部署であるまちづくり系部署の部長も、Xの横暴な言動を注意するどころか黙認している状態ですね」(市関係者) また、ある関係者もこう話す。 「頭の上に降ってくるもの、下から来るものに対して庇ってくれる副市長、人事権を持ち、処分を甘くしてくれる同期の総務部長、自分に有利な財政運営をしてくれる企画財政部長。Xはこの3人にガードされてるような状態です。何かがあっても自分は守ってもらえるとタカをくくってる」 Xは前々市長(中田市長)時代は全く評価されていなかったが、前市長(黒田市長)に代わると、黒田市長にすり寄り、自分の座布団を上げてもらい重要な政策のポストに就く。 黒田市長着任後、市は新しい学校の整備事業と並行して市役所の新庁舎の整備事業が進められていた。Xは新庁舎整備事業に関与していたが、当初の見込みで35億円とされていた建設費用は、100億円かかっても建てられるか分からない状態に。法規制もクリアできないなどの失態を繰り返し、結局その新庁舎整備事業はストップした。 「その一方で、順調に進む他の部署の新しい学校整備事業を目の敵にするようになり、『新しい学校の整備事業で資金を使い過ぎたから自分のところに回ってこず頓挫したんだ』などと言いがかりをつけ、その相手の仕事を妨害することもありました」(市関係者) 「元々こういう気質だったと聞いています。係員(一般職)の時から気に入らない職員には、上司であろうが部下であろうが、暴言を吐き胸ぐらをつかむ。暴行を受けている人は過去に何人もいます」(別の市関係者) 今回内部告発があったのは9件だが、この告発よりもずっと前からXによるパワハラはあったという。関係者が証言する。 「聞くところによると、Xが一般職員の頃から、上司の課長や課長代理をもとことん追い詰め病休にしてしまうような暴言恫喝があったと。Xがある職員を突き飛ばしたことで、その先のキャビネットのガラスにぶつかって、そのガラスが割れたこともあったそうです」 「なかには親子揃って暴言・暴行の被害に遭った職員も。親はXの元上司。そのお子さんがアルバイトで来ていたんですが、そのお子さんを暴行した事件もあったと。また、宴席で気に入らないアルバイトの言動に腹を立て、店の外に引きずり出して暴行したことも」 「早期退職したある職員がいるのですが、退職理由として『実家のご両親の介護が忙しくなったし、自分の家族のことに専念したい』と報告したようですが、本当はXのパワハラが原因ではないかと言われています。その後数年は勤務されましたが。Xによる暴行・パワハラ被害者は多いですよ。メンタルを病んで1年間休職を余儀なくされた職員が今現役でまだ残っていますし」