「人が集まる」だけではチームじゃない 心理学で読み解く、“成果を生むチーム”に必要な4つの条件と行動原則

【3行要約】・チームワークの重要性は認識されているが、そもそも「チーム」と「チームワーク」の本質的な定義が曖昧なままの組織が多い現状があります。・縄田健悟氏は、組織心理学の観点から、真のチームには目標共有・相互協力・役割分担・成員性の4要素が必要だと指摘。・リーダーは課題遂行と対人関係の両面でバランス良くアプローチし、4階建て構造を意識してチーム力を段階的に構築すべきだと語りました。

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縄田健悟氏:では、2つめの話にいきたいと思います。チームとは何か。すごく根源的なところからあらためて概念的に確認していきたいと思います。チームってそもそもなんですかということをみなさまに少し考えていただきたいんです。ひとまず、人が複数いるのはそうでしょう。だけど人が複数いるだけではおそらくまだチームとは呼べないですよね、というのもそうだろうと思います。じゃあ、人の集まりとチームの違いとはいったい何でしょうか、というのを少しお考えいただきたいんです。これを考えてみると、チームに必要となる最低条件みたいなことが少し見えてきます。さて、何になるでしょうか。これはもういろいろな答えがあるし、そもそも学者も一枚岩じゃないので、いろいろなことを言っているのですが、1つ代表的な定義を紹介すると、チームをチームたらしめるには、4つの要素があると指摘されています。1つが目標共有です。特に組織のチームは、集団の分類の中で「課題集団」と呼ばれるものになります。集団には別の種類があって、例えば友だち集団などの親密集団は、仲がいいから集まっている集団なんですね。だけど、それとは性質が違う、課題をもとに集まっているのが組織の集団で、スポーツチームとかも課題集団ですね。例えばスポーツチームだったら優勝するとか、自動車販売会社だったら車を売るとか、もしくは手術のチームだと手術を成功させるとか、なんらか目標があります。それがちゃんとメンバーみんなに共有されている状態になっているというのが1つめの条件です。2つめ、相互協力です。メンバー同士が依存関係にあり協力しあって助け合っているというものです。3つめ、役割分担です。チームのメンバーみんなが同じことをやっているわけではありません。一人ひとりに違う役割があって、それぞれ違うことをやっています。例えばリーダーも1つの役割です。一人ひとり違う役割が割り当てられている。4つめ、成員性。これは若干当たり前に聞こえると思いますが、チームのメンバーが、誰がメンバーで誰がメンバーじゃないのかをちゃんとわかっているということです。逆に言うと、この4つが満たされていない状態、つまり共通の目標をメンバーが持たず、メンバー同士が協力しあえておらず、適切に各自の役割が意識されず、誰がメンバーかわからず、所属意識も希薄な集団は、チームとして最低限のことがクリアできていないチームだということです。ここまでチームというものの概念を少し整理してみました。では、次いきます。 じゃあ、今度は、チームワークってなんでしょうかというのを少しお考えください。チームワークに関しても、心理面と行動面という2分類があります。心理面に関しては心理的安全性とか凝集性とか効力感とか、いろいろなものがあるんですが、ここで考えていただきたいのは行動です。何をするのがチームワークと呼べるんでしょうかということです。さて、何になるでしょうか。これに関しても学者はぜんぜん一枚岩じゃないので、本当にいろいろな研究があります。私がよく紹介するのは、このルソーたちのチームワーク行動の体系図です。このチームワーク行動の体系図には、3つポイントがあります。1つめのポイントです。まずチームワーク行動は2つに分かれていて、いわゆる2本柱があるわけです。何かというと課題と対人です。これはチームワークに限らずですが、組織行動や組織心理の分野でデータをバーッと取って因子分析にかけると、この2側面がたいてい出てきます。組織で必要となってくる行動は、基本的に課題に関するもの。つまり仕事をしっかりやりましょうという面と、それから組織には人がいるから人間関係をちゃんとしましょうね、というのは組織行動全般で基本的な2側面として出てくるものです。チームワークでもやっぱり同じです。チームワーク行動は課題遂行的側面、つまりチームの成果のためにうまくマネジメントしていきましょうね、という側面と、対人的な側面、人間関係ちゃんと維持しましょうねという、2側面が2本柱として大事になってくるのがポイントの1つめです。じゃあポイントの2つめにいきます。課題遂行的な側面としては、いわゆるPDCAサイクルを回しましょうという話になるかと思います。PDCAはビジネス用語なので、元の論文でPDCAという言葉が使われているわけではなく、実は研究者があまり使う言葉ではありません。だけど、整理していくと、これってPDCAだよねというかたちで4区分になっているんですね。ちょっと私が整理し直したのが(スライドを示して)こちらです。つまり、チームのパフォーマンスを上げていく上で業務を進めていきましょうという側面は、プランにあたる部分。業務を完遂するための準備として、ミッション分析して、目標を明確化して、プランを立てましょうという側面です。 それから業務に関連する協働。チームワークの話なので、業務に関連してコラボレーションしていきましょう、そこでは協力したり情報交換したりしましょうということです。次にやるのはチェックですね。チームワークではモニタリングと言います。みんな仕事がうまくできてるかなと、見るわけです。もしくは、システムがうまくいっているかなとか、進捗がうまくいっているかなと、要は周りの状況をモニターする、チェックするのが3つめの側面です。そして、もしうまくいっていない場合にはバックアップを行います。助けたり、教えたり、コーチングを行ったりして、問題のある部分を調整しながらチーム全体の状態を改善していきます。こうした4つの側面は、いわゆるPDCAサイクルに対応しており、「課題遂行的な側面」として整理されています。ポイント3つめです。一方でやっぱり人間関係はすごく大事なので、人間関係を維持していくことがすごく重要です。ここでは精神的サポートと、対立の統合的な調整・処理、つまり心理面でサポートしていきましょう。それから人間関係は時に対立することがあるので、これをうまくマネジメントしていくことも大事だということが指摘されています。ということでここまで、チームとは何か。チームワーク行動とはいったい何だろうというところを概念的に整理していきました。 今まで説明してきた、チームワーク、チームとはこういうものですよというのを踏まえた上で、じゃあ、これはどうやったら良くなりますか、高められますかというところを見ていきたいと思います。(スライドを示して)これは私がよく紹介する「チーム力を上げる4階建ての構造」です。私はこちらのビジネス書を書いている青島(未佳)さんとずっと一緒にやっているんですが、やっぱりコンサルの人はこういうのをまとめるのがうまいんですよ。彼女がこういうふうに図として描いていました。一度先に次のスライドにいくのですが、Dickinson & McIntyreという研究者がもともと言っているチームワークのプロセスモデルを、わかりやすく家を建てるのに模して説明したのがこちらです。どういうものかというと、チーム力を高めるためには下から順に積んでいきましょうね、というのを示しています。まず一番下、リーダーによるリーダーシップが一番土台となります。コミュニケーションはやっぱり土台の部分に近くて、心理的安全性もちょっと関わりが深いので、ここに心理的安全性をかっこづけでつけています。リーダーシップや心理的安全性やコミュニケーションは、いわば土台のようなかたちで存在しています。そうすると1階、2階ができて、目標共有やフィードバック、もしくは相互の協力という狭い意味でのチームワーク行動が取れるようになります。チーム全体を成長させていくという側面で、失敗を学習するチーム学習がすごく大事になってくるのですが、そういったチーム学習ができていくということで、これを下から順に積んでいきましょうね、というのをこの4階建ての構造で示しています。そうすると、この下のところをいかに作っていくかみたいな話が大事になってくるわけですね。あらためてDickinson & McIntyreのモデルを紹介すると、コミュニケーションというものがあって、コミュニケーションは全体のどこにおいても潤滑油のようにないとダメなもので、いろいろなところに影響します。それがある上で、モニタリング、フィードバック、相互支援、相互協調など、コラボレーションができるようなものにつながっていって、これがパフォーマンスや学習につながっていきますよ、というモデルです。 青島さんや私たちの研究グループでは、こうした関係が実際に成り立っていることについて、実証的な検討を行ってきました。具体的には、5社の企業における161チームのデータを分析しています。まず、チームプロセス、すなわちいわゆるチームワーク行動については、自己評定式でチームの状態を評価してもらうアンケート形式の診断ツールを作成しました。一方で、チームのパフォーマンス指標としては、自動車販売会社からは経常利益や販売台数といったデータを、またエアコン設置を担う設備工事会社からは目標達成率などのデータを提供してもらって、これらの業績データと、チーム力診断から得られる要因との関連を、マルチレベル構造方程式モデリングという統計モデリングで分析しました。その結果、統計上見えてきた、こんな流れで起きてそうだなというものがこちらです。統計の話をすると長くなるので、ちょっとさらっといきます。コミュニケーションがよくできていると目標に向けて協働ができるようになって、この協働ができることと各種パフォーマンス指標がプラスの関係になっています。先ほどの(スライドを示して)こちらの図の2・3・4あたりが確かに成り立ってそうだねというのを示したのが、こちらの分析結果になると思います。 2・3・4あたりがあるのはわかったので、じゃあ1番、2番あたりをどう高めていきましょうか、というのが次のところで考えていかなくてはいけない問題です。リーダーシップに関してはもうたくさん研究があって、「○○リーダーシップ」みたいなものをみなさまもいろいろなところで聞いたことがあると思います。1つ代表的なものとして、古典的な研究ではありますが、PM理論というものがあります。先ほど組織行動には課題と対人の2側面あるとお話ししましたが、PM理論はまさにこの2側面です。リーダーがやるべきリーダーシップには、仕事をしっかり指示していきましょう、というものと、メンバーを支えながら集団を維持していきましょう、という2側面があるんだよというのがPM理論なのですが、それをもとにチームワークとの関係性を見たところ、どっちも揃うとポンと跳ね上がるという、交互作用効果が見られました。

つまりPMはどっちも大事なのですが、どっちも揃うことが重要で、PM両方揃うとぐっと高まる効果が見られた、というのがこの分析結果です。自分の研究の話ばかりしていますが、別にこれだけではなくて、他にもリーダーシップはいろいろなものがあって、こういったことがチームワークが良くなっていく1つの要素となります。

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