イヤホンが「感染症の温床」になる可能性、研究者が指摘|ニフティニュース
通勤中や作業中、あるいは寝る前のリラックスタイムまで、私たちの生活はイヤホンとともにあります。
ポッドキャストや音楽、オンライン会議など、耳に小さな機器を差し込む時間は年々増えています。
実際、2017年にオーストラリアで4185人を対象に行われた調査では、人々は平均して月47〜88時間もイヤホン・ヘッドホンを使用していることが報告されています。
これまでイヤホンの健康リスクといえば「大音量による難聴」が主な問題とされてきました。
しかし近年、研究者や医師たちはもう一つの見落とされがちなリスクに注目しています。
それは耳の中の細菌環境が変化し、感染症のリスクが高まる可能性です。
豪カーティン大学(Curtin University)の健康科学研究者、リナ・ウォン(Rina Wong)氏は「イヤホンおよびヘッドホンの使い方によっては耳の健康に影響が出る可能性がある」と指摘しています。
では、私たちの耳の中では何が起きているのでしょうか。
- 耳にはもともと「自分で掃除する仕組み」がある
- イヤホンが「耳の中の環境」を変えてしまう
- 耳の健康を守るためのイヤホンの使い方
耳にはもともと「自分で掃除する仕組み」がある
まず知っておきたいのは、耳は本来かなりよくできた「セルフメンテナンス構造」を持っているということです。
音は外耳(がいじ)と呼ばれる耳の外側の部分で集められ、外耳道(耳の穴)を通って鼓膜へと伝わります。
この外耳道は数センチほどの長さで、S字型に曲がった構造をしています。
外耳道の奥では。耳垢(みみあか)と皮脂が作られています。
耳垢は単なる汚れではなく、皮膚を保護し、乾燥を防ぎ、細菌の侵入を防ぐ役割を持っています。
さらに耳の中には細かい毛が生えており、これらが耳垢とともに働くことで、ほこりや細菌、剥がれた皮膚などを外へと運び出します。
つまり耳は、自然に掃除される仕組みを備えた器官なのです。
健康な耳の中にはさまざまな微生物も住んでいます。
主に細菌ですが、真菌やウイルスも含まれます。これらは互いに競争することでバランスを保ち、病原体が増えにくい環境を作っています。
しかしこの微妙なバランスは、意外と簡単に崩れてしまう可能性があるのです。
イヤホンが「耳の中の環境」を変えてしまう
問題となるのが、耳の穴をふさいでしまうタイプのイヤホンです。
インイヤー型イヤホンや補聴器、耳栓などは外耳道の入口を長時間ふさいでしまいます。
その結果、耳の中は温かく湿りやすい状態になります。
特に運動中にイヤホンを使用すると、汗によって湿度がさらに上昇します。こうした環境は細菌や真菌にとって繁殖しやすい条件です。
実際、2024年に行われた研究で、補聴器を使用する人と使用しない人の耳の細菌を比較。
その結果、外耳道が長時間ふさがれている補聴器ユーザーでは、耳の中の細菌の種類が少なくなっていることが確認されました。
細菌の種類が減ることは一見よさそうに思えますが、実はそうではありません。
微生物の多様性が低下すると、病原菌が入り込んだときに競争相手が少なくなり、感染が起きやすくなる可能性があるのです。
特に問題になるのがイヤホンの共有です。他人とイヤホンを使い回すと、細菌や真菌を直接耳に運んでしまう可能性があります。
加えて、イヤホンの装着は耳の自然な自浄作用を妨げることもあります。
耳垢が外へ移動する仕組みがうまく働かなくなり、耳の中に汚れや湿気がたまりやすくなるためです。
耳の健康を守るためのイヤホンの使い方
とはいえ、現代社会でイヤホンを完全に使わないというのは現実的ではありません。
そこで研究者が勧めているのは、耳を「休ませる時間」をつくることです。
一日中イヤホンをつけっぱなしにするのではなく、適度に外して耳道を開放し、湿気や熱がこもらないようにすることが重要です。
耳を「呼吸させる」イメージです。
また、イヤホンの定期的な清掃も重要です。
専門家は、週1回から毎日、あるいは運動後などにイヤホンを掃除することを推奨しています。
もちろんメーカーの清掃方法の指示に従うことが大切です。
イヤホン本体だけでなく、収納ケースも細菌がたまりやすい場所なので注意が必要です。
さらに耳にかゆみ、赤み、分泌物などの症状が出た場合は、インイヤー型イヤホンの使用を中止し、医療機関に相談することが勧められています。
耳の感染症があるときにイヤホンを使うと、耳の中の温度と湿度が上昇し、回復が遅れる可能性もあります。
便利なイヤホンだからこそ「使い方」が重要
イヤホンは現代人にとって、もはや生活必需品といえる存在です。
移動中の娯楽から仕事の会議まで、私たちの耳は一日のかなりの時間を小さな機器に預けています。
しかし耳は本来、空気に触れて乾燥し、耳垢の働きによって自然に掃除される環境で最も健康を保ちます。
イヤホンを長時間使うことは、この自然な環境を変えてしまう可能性があります。
だからといってイヤホンを完全に避ける必要はありません。
ときどき外して耳を休ませること、そして清潔に保つこと。
そのちょっとした習慣が、耳の感染症を防ぐ大きなポイントになるのです。
参考文献
Your Earbuds Might Be Raising Your Risk of Infection, Expert Warnshttps://www.sciencealert.com/your-earbuds-might-be-raising-your-risk-of-infection-expert-warns
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部