ロシア軍がウクライナに過去最大741発の長距離ドローン・ミサイル攻撃、これを非常に高い迎撃率で阻止(JSF)

JSF軍事/生き物ライター
ウクライナ空軍より2025年7月9日迎撃戦闘、741飛来718排除(303撃墜+415未到達)

 2025年7月9日のウクライナに対するロシア軍の長距離ドローン・ミサイル攻撃は合計741飛来(ドローン728機+ミサイル13発)、これは1日あたりではこの戦争における過去最大数となります。わずか5日前の7月4日に合計550飛来だったのを早くも更新しました。

  • 2025年7月09日:合計741飛来(ドローン728機+ミサイル13発)
  • 2025年7月04日:合計550飛来(ドローン539機+ミサイル11発)
  • 2025年6月29日:合計537飛来(ドローン477機+ミサイル60発)

 ロシア軍の長距離ドローン・ミサイル攻撃は毎日実施されていますが、最近は5日ごとに大規模攻撃を実施しています。ただしミサイル飛来数は少なくなっており、ドローンに頼る傾向が続いています。ロシアはミサイル増産が捗っておらず、中国製の民生部品を流用できるドローンの増産に注力しています。

2025年7月9日迎撃戦闘:ウクライナ空軍司令部

  • キンジャール空中発射弾道ミサイル×6飛来0撃墜  ※迎撃率0%
  • イスカンデルK巡航ミサイル×7飛来7撃墜  ※迎撃率100%
  • 敵性無人機×728飛来711排除(296撃墜+415未到達) ※迎撃率95%
ウクライナ空軍より2025年7月9日迎撃戦闘、741飛来718排除(303撃墜+415未到達)

※迎撃率は未到達を除いてから計算

※303撃墜のシルエットの中にキンジャールの絵が入っているが描き間違いで、実際にはキンジャールは撃墜できていない

高速目標は撃墜できず、しかし低速目標は迎撃率95%で阻止

 7月9日の攻撃はウクライナ西部のルーツィク(Луцьк)とジトーミル(Житомир)に集中しています。パトリオット未配備地域が狙われたのか高速のキンジャール空中発射弾道ミサイル6発は撃墜できませんでしたが、低速のイスカンデルK巡航ミサイルは7発全て撃墜。攻撃の主力である長距離ドローンは未到達を除いて迎撃率95%という非常に高い数字です。攻撃全体で見ても迎撃率95%となっています。

※攻撃経路の可視化地図の出典 : https://t.me/monitorwarr/30028

  • 青色:キンジャール空中発射弾道ミサイル(MiG-31K戦闘機)
  • 赤色:イスカンデルK巡航ミサイル(地上発射機)
  • 橙色:敵性無人機(地上発射機)

安価な囮ドローンで水増しした数字

 ドローンは728飛来ですが未到達が415機も出ており、これはほとんどが囮無人機が燃料を使い果たして勝手に墜落したケースだと推定されます。また撃墜した中にも囮無人機は混じっているので、おそらくですが飛来したドローンの6~7割は安価な囮無人機だった可能性が高いと思われます。つまりドローン728機といってもシャヘド136自爆無人機は推定200~300機であり、大半は安価な囮無人機で水増しした数字です。

ドローン迎撃率95%の理由:奥深くの西部が狙われたせい

 7月9日の攻撃はドローンは728飛来とすさまじく多いのですが突破数は17機に過ぎず、前日の7月8日の20突破よりもむしろ少なくなっています。(※迎撃率は未到達を除いて計算)

  • 7月8日:ドローン54飛来34排除(26迎撃+8未到達) ※迎撃率57%
  • 7月9日:ドローン728飛来711排除(296撃墜+415未到達) ※迎撃率95%

 前日7月8日の迎撃率と大きく差が出た理由は「7月9日の攻撃はウクライナ西部に攻撃が集中した」ことにあるでしょう。前線付近の都市を狙われると対処時間が短く、機動射撃班(ピックアップトラックに軽対空火器を搭載)の配置が間に合いません。これがウクライナ奥地の西部を狙われると時間的な余裕があり、機動射撃班の再配置が間に合うので迎撃率が高くなります。

打撃力換算:自爆無人機300機=巡航ミサイル30発分

 シャヘド136自爆無人機は巡航ミサイルより軽く、大まかに自爆無人機10機と巡航ミサイル1発が同等の弾頭重量となります。仮に7月9日の攻撃をドローン728飛来の内わけを自爆無人機約300機+囮無人機約400機とした場合、自爆無人機300機の打撃力はミサイル換算で30発分となります。

  • 7月9日:合計741飛来(ドローン728機+ミサイル13発)
  • 7月9日:実質打撃力:自爆無人機300機+ミサイル13発
  • 7月9日:ミサイル換算:ミサイル30発分+ミサイル13発

 「過去最大741飛来」といってもドローン中心でありミサイル換算すると43発分くらいなので、実は過去のミサイル中心の大規模攻撃(一度に100発単位)と比べると打撃力は低下しています。

ウクライナ防空能力の拡充は必須

 ただしドローン中心の大規模攻撃の頻度は明らかに多くなっています。打撃力の低下を回数で補おうとするロシア軍の意図は明白であり、ウクライナ軍の防空能力の拡充が求められます。

 7月9日の大規模攻撃「過去最大741飛来」は迎撃率95%という非常に高い数字で阻止しました。それでも自爆無人機で前線付近を狙われた場合は迎撃率は大きく低下してしまいますし、パトリオット未配備地域を弾道ミサイルで狙われると対処が出来ません。また自爆無人機が高度を高く取って対空機関砲を無力化して攻撃する戦法がかなり以前から実施されて迎撃ミサイルの消耗を強いています。

 これらの問題に対してはパトリオット防空システムの追加配備や、安価な空対空ドローン(それもシャヘド136自爆無人機に追いつける速度性能のもの)の量産配備などの対応が考えられます。他には欧州製のSAMP/T防空システムを弾道ミサイル迎撃可能なように再調整すること(弾道ミサイル迎撃可能という触れ込みだったのに実戦で達成できていない)、安価なレーザー誘導ロケット弾APKWSの大量供与なども有効な方法でしょう。

ルーツィクを攻撃するロシア軍のクラスター弾頭ミサイル

※7月9日にKh-101巡航ミサイルの使用記録は無い。イスカンデルK巡航ミサイルないしキンジャール空中発射弾道ミサイルのクラスター弾頭である可能性。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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